ドリーム小説




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榴醒伝説


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それから三日の間に、はすり減っていた、体力と気力を取り戻した。

四日目に朝議へと赴き、その後浩瀚に呼ばれる。

「体のほうは大丈夫か?」

「はい。もうすっかり。ありがとうございます。それと…申し訳ございませんでした。内宰らに何とか踏みとどまってもらおうとしたのですが…力が及びませんでした」

「それはもういい。だけの責任ではない。元々危惧していたのだし、主上が内宮からお出にならなければ、このような事もなかっただろう」

そう言って浩瀚は、その日の詳細をに言い、謀反に加担した者の名を連ねた。

怪我人の三名は重傷だったが、なんとか一命を取りとめたようだった。

意識も昨日回復したのだと聞く。

「後で見舞ってみます」

「見舞いか。重傷とはいえ、謀反に加担した者だ。にも危害を加えようとしていたのではないのか?」

「はい。ですから見舞いに行くのです」

判らないと言った感じの浩瀚に、は笑っただけで返した。

「ああ、主上が後で来るようにと」

思い出したかのように言う浩瀚に、はではすぐにでも、と言って陽子の許へと移動する。





















陽子は景麒を横に従えて、書面に向かっていた。

。もう良いのか?働き過ぎだって?」

「ええ、もうすっかり。ところで主上。さきほど浩瀚様にお聞きしたのですけれど…謀反の際、抵抗なさらなかったとか」

までそれを言うのか?もう勘弁してくれ…景麒にも浩瀚にも叱られたんだ。もう、何を言われても謝るしかないのだから」

隣で薄く笑う景麒を見ながらは言った。

「まあ。では私が言ってしまえば、心労(ストレス)が溜まってしまいますわね」

「本当に…反省しているから」

「でしたら、止めておきましょうか…」

にこりと笑ったに、陽子は泰麒と李斎が、戴へと戻って行った事を告げる。

「そうですか…」

笑みを消したは、慶の主従に目を向けた。

痛ましい顔をした二人の表情に、戴への思いを感じ取るが、かける言葉もなく、同じように押し黙ってしまった。

「玉座とは何だろうな…」

ぽつりと呟いた陽子を、景麒とが見る。

「泰王のように武に長(た)けた方でも、逆賊に国を乗っ取られる。遵帝のような智に長けた王でも、天の条理に触れる事がある。私なんかよりも、ずっと良い王だったと言うのに…」

「主上…」

咎めるような、困ったような声が、陽子のすぐ横からしていた。

しかしはにこりと笑い、陽子に言う。

「業をつぎ基を承くる王は、此れ尤も蒼天の与ふる所なり―――ですわ。主上」

景麒は驚いたようにを見たが、すぐに深く頷いた。。

業(ごう)をつぎ基(もとい)を承(う)くる王は、此れ尤も蒼天(せいてん)の与ふる所なり。

「なんだそれは?」

さっぱり判らない様子の陽子に、は微笑みながら言う。

「簡単に申しますと、玉座は天から与えられたと言う事です」

「それは?」

「ですから、論じる事など出来ないのですよ」

「論じる事など出来ない?」

「はい。天から与えられた物を、どうして論じることが出来ましょう」

「それは、そうだが…」

「主上は智に長けた王と競いたいのですか?それとも武に長けた王と争いたいのですか?そのようなことをして何になりましょう。台輔の存在が、主上の全てを表しているのではないのですか?」

「私の、全て?」

陽子はちらりと景麒に向けた目を、に戻す。

「天命が下ったのです。台輔が主上をお選びになった。それがこの国の全てですわ。そして、それが玉座の意味でございましょう?」

「玉座の意味…」

「深く考えずとも、あるがままを受け入れれば良いのです。そして、出来る限りの補佐をするために、私達が存在するのですわ」

「そうか…ありがとう」

陽子は笑ってを見る。

もまた笑って主を見た。

ふと、は気が付いたように言う。

「忘れておりました。怪我人の見舞いに行きますので、失礼を致します」

「怪我人?、ひょっとして…」

「ええ。謀反に加担した者ですが、あれでも一応天官のはしくれですからね…」

寂しげに言ってみせたに、陽子は慌てたように言う。

「大丈夫か?」

「ええ。重傷だと聞いておりますし」

「それは三日前の話だぞ?」

「容態は分かりません。ですから、見て参りますわ」

不安げな表情の陽子は、隣に視線を送る。

「景麒…」

景麒は頷いて、足元に話しかける。

そしてを見て言った。

「使令をつけてある。気をつけて行かれよ」

「感謝いたします」

は深く礼を取って、その場を退出した。























浩瀚から聞いていた内朝にある、使われていない堂室の一間に向かう。

小路を歩きながら、は一人呟く。

「台輔の使令さん。主上の逆襲に力を貸してくださいませんか?」

返事は無かったが、はそのまま内容を話し、目的地にたどり着いた。

堂内に入ると、三名が沈むようにして横たわっていた。

「さて…」

辺りを見回し、見張りの者を確認すると、はその者に近寄り、外に出る様に指示をだした。

心配をされたが、起きた所で何も出来ないだろうと言い、なんとかそれに成功した。

椅子を引っ張ってきて、端に座って覚醒を待つ。

やがて、一番に近い位置で眠っていた者の目が、薄く開かれた。

はそっと近寄って行く。

「ご機嫌いかが?だからお止めなさいと言いましたのに…でも良かったですわね、命があって」

くすり、と笑ったに、今まで眠っていた者は、涙を浮かべていた。

「ですが、主上を狙った事は許しませんわよ」

がそう言った時、その者の目は大きく見開かれ、その顔は恐怖に捻じ曲がっていった。

声を出すことも叶わず、気絶していく瞳の中に、の背後から鋭い爪を覗かせている、景麒の使令を見つけた。

やがては意識を失ったその顔を見ながら、は使令に礼を言う。

その調子で三名全てに恐怖を植え込み、は満足げな表情で堂内を出て、使令に礼を言って、帰ってもらった。

鬱積が晴れたような表情のを、引き止める者がいた。



祥瓊が駆け寄ってきて、の顔を覗き込む。

「うん。顔色が戻ったわね。大丈夫だったの?内宰の官邸に監禁されていたのでしょう?」

驚いたは祥瓊を見つめ返し、はたと気が付いた。

「浩瀚様から聞いたのですね…」

「あら、冢宰もご存知なの?」

「え?違うの?」

「違うわよ。夏官の人から聞いたの。それに火事になったのだから、宮中の噂にぐらいなるわよ。謀反を止めようとした太宰が、内宰によって監禁され、それを禁軍の将軍が助けたって。見た者がたくさんいるんだから。陽子には伝わっていないけど、みんな知っているんじゃない?」

「そうなのですか…?」

「でも、無事でよかったわ」

「ええ。ありがとう」

「榴醒石の伝説は本当だったって訳ね」

祥瓊はそう言って、の胸元を見る。

「榴醒石の…伝説?」

「あら?知らないの?今、巷じゃ有名な伝説なのよ」

「教えて下さいますか?」

「ええ。私は堯天に逗留していた、朱旌の雑劇で見たのだけど」

そう言って祥瓊は語りだす。










今は昔の話。

蒼穹の如し岩に成る榴醒の石があった。

ある日、慶東国に住まう若い将軍がその石を見つけ、家に持ち帰った。

加工しようにも石は脆く、人の手が入るのを拒むようでもある。

そこで将軍はあきらめ、結晶のまま小卓に飾ってあったという。

それからほどなくして、将軍は愛する妻を娶る。

将軍の妻は明眸皓歯にして眉目秀麗。

その心根は明鏡止水の如し。

邪な者が後を絶たず、将軍は心休まる日がない。

そこで将軍は石に願をかけた。

すると石は瞬き、堅く変化したという。

将軍は石を冬官に渡し、飾りとして二つに分けた。

一つを妻に持たせ、一つを自分が持つ。

ある日妻は邪な者によって捕らえられた。

捕らえられ、絶望がその身を襲おうとしたその時。

妻は夫に渡された榴醒の石に祈った。

すると石は輝きを放ち、石榴の色に覚醒した。

すると夫が引き寄せられるように現れ、妻の窮地を救った。

それ以降、榴醒の石には力が宿った。

一つの石から取れた、二つの色を持つ榴醒石には、引き寄せる力があると言う。

また、榴醒に手を加える事を許されたのは、慶の冬官のみ。












語り終わった祥瓊を唖然と見つめ、はぽつりと言った。

「何、それ…」

「この妻っての事でしょう?昔話のようにされているけど」

それにしても、過大ではないかと思う。

それを見透かしたかのように、祥瓊は笑って言う。

「醜い夫婦が愛を語り合っても、雑劇にはならないでしょう?」

それはそうだろうが…。

「ま、これが今の太宰と将軍だと知っているのは、ほんの僅かだけど」

祥瓊はそう言って内殿の方へと向かって行った。

取り残されたは突っ立ったまま、しばらく動くことが出来なかった。



続く






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この章にタイトルをつけるのなら、

やはり『榴醒伝説』なのでしょうね。

                       美耶子