ドリーム小説




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榴醒伝説


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その日の夜。

官邸へと戻ると桓タイから、すぐに客人があると言われ、は慌てて用意を整えた。

月を眺めることの出来る場所に大卓を運び、軽食を用意して客人を待つ。

そして迎えた客人は冬官長だった。

「大司空は随分と前から、来る機会を伺われていたんだが…が忙しいのと、倒れてしまったのと重なってな」

そう説明する桓タイを見ながら、は昼に聞いた話しを思い出していた。

「太宰。もうお噂は耳にされましたでしょうか?」

「噂と言うと…榴醒石のですか?」

「はい」

「昼過ぎに、女史から伺いました」

「そうですか」

大司空はにこりと微笑んで、経緯を語った。

「年明け、太宰にご協力頂いてから、さらに研究を重ねておりました。そこで分かったのですが、呪力に近い力が、微弱ではありますが榴醒石から発せられています」

榴醒石には、本当に引き寄せる力があるようだった。

「我々はさらに研究を重ねました。これが成功すれば、慶の財政を少しなりとも支える事が出来るはずです。元々榴醒石は希少なのですから」

引き寄せる力があるのは、一つの結晶から取れる物のみだと言う。

色は関係なく、引き合う力があるのだと大司空は説明する。

「でも、とても加工が難しく、脆い物なのでは?」

「本来の物はそうですね。榴醒石が変色するには、時間がございまして。一昼夜の内に、変色を終えるのです。その変色なのですが、岩から養分を吸い取るようなのです。ですから、将軍が岩から切り離した榴醒石は、変化の途中だったのでしょう。そして、加工が出来るのは、変化の途中にある物のみなのです」

それで桓タイの持ち込んだ物は、加工が可能だったのだ。

「一昼夜の内に岩から取り除いてしまえば、加工することは可能なのです。我々は石を結晶付ける事に成功いたしておりますから、さほど困難な作業でもありませんし」

榴醒石は変色が始まるとすぐに硬化し、変色が終えると再び軟化する。

青から桃色に染まり、最終的には紅色にまで染まる。

今まで希少ではあったが、榴醒石の加工品は皆無ではない。

それは変色の終る直前、もしくは始まった直後の物を、偶然切り取ったにすぎないのだと言って、大司空は二人に微笑んだ。

それに答えるようには言う。

「という事は…青の物も、桃色の物も、赤い物も、加工可能な上、その技術を保持しているのは、慶の冬官のみ、と言う事ですわね。では、雑劇は一体…」

「他国に伝える為でございます。小さな物は、極力安価にする予定なのですが、国府から降ろす物ですし、限界があるのです。慶の民はまだ貧しいですから、民が容易に手に入れる事は難しいでしょう。そこで、わたしは冬官を上げて、朱旌に伝説を流したのです。雑劇として面白くなければ、広げてはくれませんからね。多少話しを作り変えてはありますが…それに夢があって良いでしょう?」

そして伝えた雑劇が十二の国を巡ったのか、最近になってようやく慶に朱旌が戻って来て、伝え聞いた雑劇をさらに広めていく。

それに伴って、冬官府のほうに、各国から問い合わせが来るようになったのだとか。

「まだ、さほど数は多くないのですが、評判は良いようです。少しでも国の足しになってくれると、ありがたいのですが…」

そうですか、と言っては微笑む。

慶のために、こんなにも尽力してくれている。

それが嬉しいのだ。

みんなが一つになって、王を支え、国を支える日が、いつかやってくる。

そう思わせてくれた大司空に、は感謝した。

「大司空、ありがとうございます。こうやって、少しずつ良くなっていくのですね。本当に、ありがとうございます」

卓上越しに、は深く頭を下げた。

「太宰、頭など下げないでください。それでは、わたしがこうしてお邪魔した意味がなくなってしまいます」

そう言って大司空はの顔を上げさせて言う。

「ただの報告なら、朝議の後でも、朝堂でもよかったのです。今日わたしがお邪魔したのは、再度御礼を申し上げると供に、ご協力を賜ったお礼の品をお渡ししたかったのです」

「そんな。話をしただけですもの。何もいりませんわ」

は慌てて言ったが、大司空は頑として言い張る。

「そうは参りません。将軍もそう申されるのですが。お二人の協力があってこその成果に対し、冬官を代表して何かせねばと、官の一致した意見でございます。…とは申しましても、榴醒石なのですが…」

そう言って大司空は青の榴醒石を出して卓上に置いた。

抜けるような青の石は、まだ結晶の形を残しておりながらも、光を吸い込むように加工されていた。

そしてそれは、岩を平たく削ったような台の上に載っており、片端は僅か桃色に染まっている。

「我々の研究の集大成と言いましょうか…その台は岩です。そこに呪を施してございます。岩は綺麗に染まりきるまでの養分を残し、全体の時間が遅く進むようにしてあります。これが石榴色に染まるまでには、百年以上を要するでしょう。お二人の長い琴瑟相和を願って、これをお収め下さい」

ありがとうございますと言いかけたは、ふと思い当たり、大司空に問うために口を開く。

「大変ありがたいのですが…」

































大司空が帰って行くのを、桓タイと見送ったは幸せそうな表情をしていた。

「嬉しそうだな」

「ええ。こうやって良くなって行くのだなって思うと。私ね、実を言うとずっと自信がなかったの。天官の統率力のなさに憤って、苛立っていたわ。太宰へと選挙して下さった主上に、浩瀚様に、良い形で答えたいと思っていたのね。でも、それって一人よがりなのよね。一人で背負い込んでも、どうにかなる問題じゃなかったのだわ」

「だから一人で背負うなと言っただろう?」

「うん。本当に…そうね」

「だが…みんながと同じ事を考えているのかもしれないな。まだまだ時間はかかる。誰もが憤りを感じ、焦っている。だけど、少しずつしか進まないんだ。一気に成立つ物があるとしたら、それは後で亀裂が生まれる物だろう?」

は思い出したように桓タイを見上げ、ため息を漏らした。

それは他ならぬ、自分自身が過去に言った事だったのだから。

陽子に対し、は言っていたのだ。



『まだ御位におつきになられて一年ですもの。初めから何もかも上手く行く事なんてありませんわ。あるとしたら、それは後で亀裂が生まれる物ですから』



「本当に…その通りだわ」

改めて実感したは、それを思い出させてくれた桓タイにそっと寄り添った。

寄り添うと肩に手がかかる。

それをそのままに、は瞳を閉じる。

秋の風を頬に受けながら、未熟であった自分を思い起こしていた。



続く






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石の説明章ですね☆

わりとこの大司空の感じ、好きです。

いい人です♪

ではでは、最後に向けてGO〜〜!

                      美耶子