ドリーム小説
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寝入ったを見つめながら、驍宗は一人苦笑していた。
「彙襄の気持ちが判ると言ったら、はどう思うだろうか…」
血の気を失ったその白い手を握り、そっと唇を寄せる。
そのままじっとの様子を伺っていた。
夜半を過ぎた頃、は苦しみだした。
額に手を当てると、燃えるように熱い。
驍宗は冷水を絞り、布を当てる。
の口が少し開かれ、はぁはぁと肩で息を始めた。
瘍医から貰っていた薬を取り出し、の首を持ち上げる。
薄く開いた唇から、薬を入れようと試みるが、やはり上手くいかない。
驍宗は自らの口に水を含み、に口付けるようにして移した。
三度目でようやく薬を飲み込んだの頭を、静かに下ろし、再び手を握った。
険しかったの表情が、少しだけ和ぐ。 それから二日間、は熱にうなされた。
熱が下がって、三日目にようやく粥を食べれるようになった。
そしてその間、驍宗はずっとに着いていたのだった。
軍に戻らなければいけないのでは?と何度も思ったが、それを口にする勇気がにはなかった。それは甘えであったのかもしれないが、離れたくない思いが強く、何も言えないでいた。
そして一週間後。
「はこれからどうする?」
立ち上がり、歩く練習をしていた所に声がかかる。
唐突にそう聞かれ、は狼狽した。
序学は取り壊されていた。
証拠を消すためか、が住んでいた所も、焼き払われていた。
正直、にはどうしようもない状態だった。
「どこかの州に…序学があればそこで雇っていただこうか、と思っておりました。いずれにしろ、藍州には戻りたくありません…」
「それでもやはり、序学の教師に戻りたいか」
「…戻りたい、と言うのは少し違う気がします。私は他に出来る事がございませんから…」
そう言ったは、驍宗との別れが近付いている事を感じ取った。
これまでも足止めしてきたのだから、そろそろだろうとは思っていたが、やはり辛いものがあった。
「では、もし嫌でないのなら、国府に来ないか」
「国府、でございますか?」
「そうだ。官邸の女御として仕える気はないか?」
笑っている驍宗の顔を見て、冗談を言っているのだと思った。
「そうですね。驍宗さまの官邸なら、喜んで」
冗談には、冗談で返そうと思って言ったのだが、ふと冗談を言うような御仁ではない事に気がつく。
「え…まさか。ご冗談ですよね?」
「冗談ではないつもりだが」
「そ、それでは…」
やっと理解したに、驍宗は肯定の意を示した。
旅が出来る程度に回復するのを待って、驍宗はを首都鴻基にある、白圭宮へと連れて行った。
内朝にある、禁軍将軍の官邸へと向かう。華美な王宮に比べて、ここは比較的質素で、にとっては居心地が良さそうだった。
しかし、他が華美なのはそういう物なのではなく、王の性向なのだと驍宗は言う。
王がそんな事でいいのだろうか、と問いかけようとした言葉は口には出さず、はそれを飲み込んだ。 それからほどなくして、は仙に召し上げられる。
深かかった傷も、それによって驚異的な回復をみせた。
ああ、そうか。
とは思う。
禁軍将軍ともなれば、序学に紹介する事は簡単だったろう。だが、傷の事があるのだから、仙に召し上げた方が確実に治る。
しかしその判断に感謝せねばなるまい。
おかげでは驍宗の元に居る事を許される。官邸で下働きでもなんでもやっていれば、驍宗を見ている事ができる。
そう思うと幸せだった。
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