ドリーム小説




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懐所舎利


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夕餉の時間に、はまたしてもやってきた。

初めから少し恥ずかしそうに入ってくるを、利達はかわいいなと思い、それを言おうとしたが、また逃げられてはかなわないと思い、言い留まった。

「昼に言った話だが」

そう切り出した利達に、は顔が赤く染まるのを押さえ切れなかった。

苦笑しながら利達は続ける。

「ご両親に話をしてくれただろうか?」

「あ、あぁ。その事。えぇっと。うん、話した。喜んでいたわ。でも、不安がっていた。今までやって来たように出来ないのではないかって」

「あぁ、それなら心配ない。恐らく国の方針と、変わらない事をやっているのだろうし、細かく言うつもりもない」

そういい切る利達に、はくすりと笑った。

「まるで、利達が決定するみたいね」

「あ、ああ。そうだな。でもそうだろうと思うのでね」

利達はそう言って、を見つめた。

は少し考えてから、では、と両手を前に着いた。

そして頭を深く下げ、宜しくお願いしますと言った。

「では、確かに承りました。それで、はどうする?」

「え、私?」

突然言われて戸惑うに、利達は頷いて言った。

「この案が通れば、ご両親は国府と取引をする事になる。経費は国が出すから、忙しくなれば人を雇う事も可能だろう。そこではどうしたい?」

そう言われて、は自分の事を考えていなかった事に気がついた。

「えっと…ど、どうしよう…」

文官になると言っても、試験に合格しなければいけないし、すぐに答えを出すのは難しいように思えた。

「話をしてみて、は地官か天官が適任だと思う。どちらかをやる気があるなら、上の人に口添えを出来るのだが、どうだろう?」

口添えとは、一体この男は何者だろうか?

「利達は、私が思っている以上に偉い人?」

「い、いや。偉くはないが…ただ顔が広いと思ってくれるといい」

「そうなの…そうね。それもいいかもしれないわ。天官と言えば、配置される場所によれば、とても太子に近いのでしょう?」

利達は太子の名前にぎくりとしたが、辛うじてそうだと言った。

「太子はどんなお人かしら。傍でお世話ができるなら、これ以上の誉れはないわ」

夢見るように宙を見上げたは、ふと利達に視線を落とした。

「太子が利達みたいに男前なら、言う事なしだわ」

またしてもぎくりとしながら、利達は言った。

「太子の傍仕えでも、構わないのか?」

は笑いながらそれに答えた。

「それはもちろん構わないわ。だって、それってすごい事でしょう?」

「すごい事かどうかは、判らないが…悪くはない、と思う」

そう言ってを見た。

「明日国府へ戻ったら、さっそく奏上しよう。近い内に知らせに来る」

は頷いて、利達に言った。

「ありがとう。なんだか逆に助けてもらったみたい」

「いや。とんでもない。だけど、太子が男前でなくても、怒らないと約束して欲しい」

笑いながらそう言った利達に、もつられて笑った。

「利達は国府にいるんでしょう?太子が男前じゃなかったら、利達で我慢するわ」

立ち上がりながら、そう言うに利達は苦笑していた。














翌日、の両親に挨拶をし、舎館を後にした利達は、二日ぶりに清漢宮へと戻った。帰ってすぐの夕餉の席で、舎館の話をした。

「それはいい考えだねえ。民間の者に協力を仰ぐなら、保翠院の目が届かない場所でもいいだろうね」

明嬉はそう言って先新を見た。

「今は荒民が多い。保翠院で賄えないのは仕方がないが、これからずっとと言う訳にはいかないだろうな。一時的に援助金を出して、配給させる方が良いだろう」

「そうね、でも、兄様が言っている舎館だけなら、いいんじゃない?方針も国に沿っているのだし」

文姫が言ったのを、先新が受ける。

「一軒だけと言うのは、あまりよくないな」

「なら、何軒かにすればいいじゃないか。その舎館を見本にしてさ。何軒かは国で面倒見るつもりで、話を持ちかければいいんだよ。方針に沿わないなら、あっちから断ってくるさ」

明嬉の言った言葉に、先新は頷き、文姫もまた頷いた。

「それでは、さっそく明日にでも使いを出しましょう」

利達はそう言って、書面を作る。














翌日、の舎館に使いが走った。

しかし、知らせにきたのが利達でないのに、は少しがっかりしたのだった。

はその翌日、国府へ来ていた。

舎館の話は纏まり、試験に向けて勉強をしようと思っていたは、突然の事に驚きを禁じえなかった。

国府に着いたは、天官長だと名乗った人物に、いきなり登用を認められた。

試験も何もかもすっ飛ばしての登用とは驚いた。

また、利達はよほど顔が広いのだと感心もした。

「あ、あの。本当によろしいのでしょうか?その…試験も何もないのに…」

「おいおい覚えていけば、大丈夫ですよ」

鷹揚に微笑んだ天官長は、の分析によると、奏国民の典型だった。

温和な雰囲気の上司に恵まれ、安堵するに、天官長は太子英清君の傍使えを任じた。

ここまで利達の顔が効いていると言うことだろうか。

あまりの事に驚いているを尻目に、天官長は太子に挨拶をと言って歩き出していた。

「本日から上がった女官にございます。太子の傍使えとして、務めさせていただきますので、ご挨拶に伺いました」

そう言って入室する天官長にならい、も頭を下げて続く。

天官長に促され、下を向いたまま挨拶をする。

すると小さく笑うような気配が窺え、の不安は一気に膨れ上がった。

何か挨拶がおかしかったのだろうか。

それとも変な、なりをしているのだろうか。

ひょっとして、太子は意地悪な人では!?

冷や汗の出る思いで、ひたすら声を掛けられるのを待っていると、天官長が退出するのが横目に見えた。それでますます不安は募り、国府に上がった事を後悔する寸前、やっと声を掛けられる。

面を上げよと言われた声に、聞き覚えがあったような気がした。

「知らせに行きたかったのだが、忙しくてね。何しろ二日も宮城を空けたものだから」

「利、達…?どうしてここにいるの?」

「わたしが太子だからだ」

「利達が太子?」

頷いた利達は、遠慮がちに聞いた。

のお眼鏡に叶うだろうか?」

「そ、それはもちろん…でも、私でよろしいのですか?」

妙に改まったに、利達は眉を顰めて言った。

「今まで通りに接して欲しい。良いも悪いも、が気に入ったのだから、仕方がない」

はまだ驚いた表情のまま、利達に聞いた。

「えっと…気に入った?何故?」

何故と問われて、利達は少し間を置く。

「親思いの所や、分析好きな所や、色々あるが、一番は…」

は固唾を呑むようにして言葉を待つ。

「口付けだな」

はっとなっては忘れていたその事実に、一気に赤くなる。

「だ、だって、利達があんまりにも…」

そこまで言ったものの、これは失礼にあたると思い口を閉じる。

「続きが聞きたいのだが?」

そう言われて、困った顔を見せるが、どうやら許してくれそうにもない。

「あんまりにも、かわいくて…あんまりにも綺麗だったから、励ましてくれたお礼に便乗して…その…」

頭に血が昇って、逆流しているのかと思うほどだった。

「わたしの分析によると…」

静かに利達は切り出した。

「綺麗な顔の人には、お礼に便乗して口付けてもいいと、は思っている」

は慌てて顔をあげて、何か言い返そうとしたが、何も思いつかずに再び俯いた。

「その通りです」

どこか憮然とした物言いがおかしく、利達は自然、笑顔になる。

「すると…」

そう言っての元に歩み寄る。

俯いた顔を軽く手で持ち上げ、その唇に口付ける。

「これもいいという事になる」

驚いて脱力しかけたを、利達は軽く抱いて受け止めた。

「私は綺麗じゃないわ」

「それはの主観だろう。それなら却下する。わたしが見てどう思うかが、重要だと思うのだが?」

そう言われて、は利達から瞳を逸らす。

「私は、利達から見れば綺麗なの?」

利達は苦笑しながら言った。

「わたしから見ずとも、綺麗だろう。今すぐにでも、自室へ連れて帰りたい所だと言うのに」

真っ赤なまま、は言った。

「何のお礼のつもりだったの」

「わたしを介抱してくれたお礼」

「だ、だってあれはうちの出した炒め物に…」

利達は、言い訳を募るようにして言うの口を塞ぐため、再び口付けた。

「その前に倒れていたんだ。まだ回復しきってない所を、妹に遊んで来いと言われて、街に下りていた。あのまま街をうろうろしていても、同じ事だった」

すべての言い訳を介してくれずに、とうとうは口を閉じた。

いや、二度目の口付けの後から、すでに絶句していた。

今はただ、利達の瞳を見つめるばかりだった。

「…他の官に、やきもちを焼かれてしまわれそうね。利達は人気がありそうだし」

やっと口を開いたは、そう言って利達の顔を見つめた。

やはり綺麗だな、と思う。

太子が利達のようであったらいいのに、と思った自分がとてもおかしい。

「ではやきもちを焼かれない所にいけばいい」

言われた意味が判らずに、は首を捻った。

「外朝に住まず、典章殿に住めばいい」

今日、清漢宮に着たばかりのに、典章殿が何処の宮に所属するのか、知っているはずはなかったが、とりあえずは頷いて答える。

「よし。後で喚いても、もう変更しないからな」

訳が判らないと言った様子のの手をとり、利達は歩き出す。

典章殿が後宮にあること、そこで宗王の一家が政務をこなしている事。

そして今まさに、家族に紹介しようとそこへ向かっている事を、が知るのはほんの後の話。








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王子様らしからぬ感じに、なってしまったように思われます…(涙)

私の中のイメージは、知的で正義感あふれる感じだったはずなのに…

色々な事を、ちょっと上手いことやってしまうお兄様でした。

                                    美耶子