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金の太陽 銀の月 〜太陽編〜


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隆洽の一番高い場所に位置するここ清漢宮では、今日も一人欠けた家族会議が行われていた。

「やはりわたしが慶賀に向うべきなのだろうな…」

そう言ったのは、宗王櫨先新であった。

それに答えたのは、公主の文姫。

「そうは言っても父さま、祭祀が控えているのですもの。ここは私が使節に…」

最後まで言えずに、母に制された文姫。

「それは少しねえ…。文姫は先の冢宰と大司徒をご存知だろう?新しい采王は冢宰の母君であったと言うし、少し辛いかもしれないねえ…」

「前王の叔母君にも当たるのでしたわね…采台輔にもお逢いしておられますし、変に気を遣う事になりかねません」

そう口を添えたのは宗麟昭彰だった。

「じゃあ…誰が?」

文姫が首を傾げると、一家の目が一点に向けられた。

あまりにも静かに行われた行動であった為、視線を集めている当の本人、英清君利達は気がつかぬまま書面に向っており、祭祀に必要な物を書き続けていた。

「じゃあ、決まりだね」

明嬉の言に同意の声が上がると、ようやくその顔を上げ、先新を見て質問をする。

「慶賀には何をお持ちになられますか?やはり女王なので、絹の織物か真珠が良いかと…」

「兄さま?何を言っているの?」

文姫の不思議そうな声に、利達は訝しげな視線を投げた。

「何をって、才州国に持っていく供物の…」

「違うわ。誰が持って行くと思っているの?」

文姫に問われた利達は、先新に目を向けた。

しかし、宗王の首は横に振られている。

先程の話から文姫でない事は確かなので、まさかと思いながらも、今度は王后に目を向ける。

明嬉もまた、それを受けて首を振りながら言った。

「昭彰でもないからね」

「?では誰が持って行くと…」

そこまで言った利達は、何かに気がついたように辺りを見回す。

「利広なら何処にもいないよ」

明嬉が溜息混じりに言って、全員の視線が自分に集まっている事に気がついた。

「―――――?ひょっとして…」

一斉に頷かれた四つの頭。

手に持たれた筆からは、黒い雫が落ちて行ったが、すでに気がついていない英清君であった。
























才州国の首都揖寧では、新王践祚の旗が到る所に揚げられている。

街は歓喜に満ち溢れ、新しい時代の到来を喜んでいるようだった。

奏南国の太子英清君は貴賓席に座り、即位式から立会う形となっていた。

奏の高岫近隣にある沙明山にて、采の台輔が養生していたのは、まだ記憶に新しい。

新王の横に沿って薄く微笑む姿は、昭彰に負けず劣らず儚く感じた。

采王は禅譲した前王の叔母と言うこともあり、また同じように登避した冢宰の母である事もあり、慶賀の使節として訪れてはいたが、その言動には細心の注意を払わねばならない。

やや緊張した面持ちで、利達は宗王の祝辞を携えていた。

即位式の後、正式に采王を尋ねた利達。

采王の周辺には、采麟と女官が一人、少しはなれて若い男の官吏が立っていた。

新しい采王の御前に進み出て、丁寧に宗王の祝辞を伝える。

そして慶賀の品を献上し、使節としての言を繋ぐ。

「お気遣い感謝いたします。前々王の代から、荒民難民が奏国に押し寄せ、ご迷惑をおかけいたしております」

采王は深く頭を下げた太子に微笑んで言う。

その横から才の麒麟が口を添える。

「文姫さまには、沙明山でお世話になりました。長らくお手を煩わせてしまい、大変恐縮しております」

「いえ…」

利達の短い返答に、ああ、と采王の声が漏れる。

「私はまだ政治に疎く、分からない事も多数ございます。六百年もの長きに渡り、王朝を見続けてきた御方に、お聞きいたしたいのですが。一つ、助言を頂けませんでしょうか」

問われた利達は少し考え、ゆっくり口を開いて言った。

「国の基(もとい)は人であります。王も民も人には変わりなく、また人は誰でも苦しみを抱え生きて行かねばなりません。丕基(ひき)の長たる王には、幾多の苦渋が待ち受けている事でしょう。ですが、必ず周りに助けてくれる人物が現れます。心の支えになり、執政の助力となる者が」

「ありがとうございます。心に留め置いておきましょう」

真摯な眼差しを受けた利達は、再度深く頭を下げる。

無事終わったことに、安堵の息を吐きたい気分だった。






















その日は長閑宮の掌客殿に泊まり、翌日の昼、奏に戻るべく発った利達。

随従二名を背後に従え、騎獣で空を駆けていた。

しかし真っ直ぐ南に向う事はせず、南東を目指して駆けていた。

奏に入ってすぐの港街に降りた利達。

そこに一つ用事を言い使わされていた。

とは言え、公の用事ではない。

ゆえに、随従とは空で別れ、一人で街に下りていた。

文姫にせがまれて、この港でしか売っていない簪を、買って来て欲しいと言う些細なものだった。

気に入って使っていた物があったようだが、先日壊れてしまったのだと言って、同じものを買って来て欲しいと頼まれていた。

もしなければ、似たものでも良いと言うことだった。

懐から、紙に包んだ簪を取り出した利達。

飾りが欠けている桃色のそれを見て、似たものを探すために店を回っていた。

一軒目に入った店で、利達はさっそく簪を見て周った。

しかし、実際本物を取り出して見比べて見ないことには、よく分からない。

店内で取り出して、変な嫌疑をかけられても困ると考えた利達は、一度店の外に出て、壊れた簪を取り出した。

じっと見つめて覚えようとする。

店内に戻った利達は、再び簪を探し出した。

しかし他の物を目にすると、区別がつかない。

似た物がないと、なんとなく判断して、そこから外に出た。

二軒目に入る前に、また壊れた簪を取り出して見つめる。

入った店には似た物があったのだが、色が一致しない…と思った。

似た色なら良いのだが、正反対の色だとあっては、何を言われるか分かったもんじゃない。

利達はその店を諦め、三軒目に向う為に大経に出た。

すると、利達に向って走ってくる男が見える。

とっさに避けようとしたが、男が到着するほうが早く、あえなく激突した。

大きな音を立てて尻餅をついた二人の男。

何事かと男を見る利達に構う事もせず、男は立ち上がろうとしていた。

「そいつを捕まえて!」

何処からともなく響く女の声。

慌てた男はすでに立ち上がっていた。

「何してるのよ!逃がさないで!!」

駆け出す男を見て、利達の迷いは刹那だった。

足を男の前に出すと、あっけなく男はそれに引っかかり、再び転んで地を舐めていた。

それを上から軽く押さえつけていると、叫んだであろう女が到着した。

「あ、ありがとう」

ぜいぜい言いながら礼を言う女に、利達はどうしたものかと視線を投げた。

次いで下を見おろす。

男は首を捻って利達を見ており、決まり悪そうに笑っている。

「兄ちゃん誤解だ。勘違いだって。だから離してくれよ」

「勘違い?」

「違うわ!この男、何言ってんのよ!私の財布を返しなさい!」

女はそう言うと押さえられた男の頭をはついた。

「いてっ!何しやがる!」

「財布を返せって事は、この男は…」

利達が最後まで言い終わらない内に、女は叫んでいた。

「それだけじゃないわ!この男はね、何も知らない私を…」

「兄ちゃん、兄ちゃん!違うんだ。そいつは俺の女房でよぉ、ちょっと喧嘩しちまったのさ。こいつ怒るとこんな風になるんだよ。言葉もさ。な?何言ってるか分かんねえだろ?」

しかし利達は手を緩めずに、男をさらに地に押し付けた。

「…この男が女房だと言っているが、それは本当の事だろうか?」

そう女に問うと、女は怒りで頬を染めて、今度は拳を作って男を殴った。

「なんで見ず知らずのあんたと結婚するのよ!気持ちの悪い事言わないで!!」

「な?分かんねえだろ?俺にも分かんねえようにこうやって怒るのさ」

利達は少しだけ手を緩め、男を放さないように立たせた。

次いで女に目を向け、着いてくるように言う。

「な、なあ兄ちゃん、何処に向かってるんだい?」

「ねえ、何処に向かっているの?」

同じような質問に沈黙を持って返し、利達は黙々と歩いた。

やがて目的の建物が見え始め、男は焦りを見せていた。

「兄ちゃん!ただの夫婦喧嘩で、そこまでするこたぁねえだろう?」

「夫婦ではないだろう」

溜息混じりに行った利達は、そのまま官府に進み、男を突き出した。

「人身売買をしていたようだ。詳しくは知らないが、調べておいて欲しい」

それだけを言うと、背後から何者かと問う声を無視して、女の手を引いて逃げるように官府を退出した。

街中に戻ってきた利達と女は、少し乱れた息を整えていた。

手が握られたままであったのを、ようやく思い出したのか、慌ててそれを解く。

「あの…ありがとうございました」

女はようやく話が出来たかのように、利達に腰を折って礼を言う。

「いや…ひょっとして、海客か?」

「あ、はい。と言います」



続く






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太陽編が始まりました。

それなりに長編な感じです。

ほのぼのを目指して駆け抜けます!

暗いのとか、極力さけて行きたい…(熱望)

                        美耶子