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金の太陽 銀の月 〜太陽編〜


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「はい。と言います」

そう言って、女は首を傾げる。

「あの…ひょっとして私の言葉が分かるの?」

「ああ。一応仙籍に入っているのでね」

「仙籍?」

さらに首を傾げるに、利達は仙になると言葉が分かるのだと説明する。

「へええ!そんな人が世の中にいたのね。びっくりしちゃった。仙人って事?」

「?仙籍にあるのだから、仙だろう」

「ふうん。だから私の言っている事が分かったのね」

「まあ、そうだが…。あの男が言っている事は分かっていたのか?」

「ううん。でも、ろくでもない事を言っているのは分かったわ」

歩きながらは説明を始めた。

「あの男は、私を妓楼に売ろうとしたのよ。何も知らないと思って、頭にくるったらないわ。気がついて逃げようとしたら、体を押さえ込まれて、気がついたら財布を取られていたの。この財布の中身はね、とても親切にしてくれた、巧の貧しい農村の人がくれたのよ。旅をするなら大変だろうからって。それを取られるのは嫌だったの。返してって詰め寄って行ったら、逆に逃げられちゃった。お兄さんが居なければ、逃がしていた所だったわ」

そうか、と利達は苦笑しながらそれを聞いていた。

身なりは貧しく、何処かの国から逃げて来た荒民のように見える。

「ねえ、お兄さんは奏の人?やっぱりこの国は住みよいと思う?」

お兄さんと言われて、利達は名乗っていなかった事を思い出した。

「わたしは利達と言う。奏は良い国だと思う。尤も、この国で生まれているから、贔屓目である事は否めないが」

「利達ね。私、始めは慶に流れたの。でも慶の役人さんが、今は空位だからこの国は危ないって。よく分からなかったけど、巧が近いからそっちに行けって言われて巧に行ったのね。でも、巧に行ったら、今度は王様が海客は嫌いだから、この国は危ないって親切な人が教えてくれたの。その人がくれた財布だったの。で、その人が奏は豊かな国だし、海客も認めているから、そっちに行った方がいいって言うから。ね、私、正解だった?この国に来て良かったのかな?」

「正解だったと思う。奏には保翠院もある事だし」

「保翠院って?」

「公主が大翠として立っている、荒民を救済する施設だな」

「へえ、そんなものがあったなんて、知らなかったわ」

は才に行くつもりだったのだろうか?」

「才って?」

「才は奏の北西にある国の事だな。でも知らないと言う事は違うのか」

「うん、知らない。乗せてきてもらったの」

そう言っては赤海を見る。

「長旅の商船かしら?綺麗な簪をたくさん磨かされたから」

の言に、はたと足を止めた利達。

何事かと見上げるの目の前で、利達は懐に手を入れる。

紙の包みを取り出し、中から壊れた簪を出した。

「あら!同じ物を磨いたわよ。え〜っと…説明をされたわ。あまり言葉が分かってないから、間違っているかもしれないけど、人気の品で入荷待ちなのじゃないかしら?特に桃色が人気らしくて。桃色の物をたくさん磨いたもの」

「では、今店を探しても、ないと言うことだろうか?」

「そうね。探し回るのなら別だろうけど…とても大変だと思うわ」

「そうか…」

しばらく何かを考える様子を見せた利達。

唐突にに向き直り、今後について質問をした。

はこれから何処に向かうのだろうか?」

「え?私?何処に向かうのか…ええっと…奏では海客ですって何処かに届ければいいのかしら?」

「それは…まだ何も決めていないと言う事で、間違いないだろうか?」

「うん。そうね。さっきの所に届ければいいのかしら?でも、まだあの男がいそうだし…。どうしようかな…」

「二日ほど遅れてもいいだろうか?少し付き合ってくれるのなら、舎館の手配から夕餉まで、全てを任せてくれてもいい。届けも付き添って行く」

「え…でも…」

「巧の人のように、完全な親切ではなくて申し訳ないが…わたしはこの簪を買っていかないと、家人に怒られてしまうのでね。だが残念な事に、簪の区別がつかない。それを見立てて欲しいのだが…」

「奥さん?」

がそう問うと利達は首を振る。

「妻ではなく、妹なのだが…。妻が居るように見えるのだろうか」

その問いを受けたは、利達をじっと見上げる。

「見た目は若そうだけど…なんだかとっても落ち着いているから」

「そうか…確かに、見た目ほど若くはないな」

「年はいくつなの?」

「さあ、正確には覚えてないが」

「どうゆうこと?」

「…それほど長く生きたと言う事だな」

そう言うと、はくすりと笑う。

その笑みから、信じていないのだと分かる。

「ああ、ここに入ってみよう」

出てきた店に入った利達とは、さっそく簪を探し始めた。

高級な店なのだろう。

金銀に眩いまでに輝く店内には、それにそぐわしい店員がいた。

の粗末な服を見て、不審気な視線を投げかけている。

しかし、は気にする素振りも見せず、ざっと店内を一周すると、首をふって利達の横に来る。

「ここにはないわ。似たものならあるけど、微妙に不細工ね」

「不細工?簪が?」

「うん。あのね…」

どのように説明しようか、考えているような素振りを見せていたが、諦めたように首を振って、利達の袖を握る。

引かれるまま簪の陳列する、棚の一つに来た。

「ここ見て」

一本の簪を手に取り、利達に見せる。

「この先の飾りが三つに分かれているでしょう?同じような形に見えるけど、この珠になっている飾りの模様と色が、いまいち駄目なのよ。ねえ、妹さんの年は?」

どこがどう駄目なのか、利達にはさっぱり分からない。

「妹も長く生きているが…外見は十八かな」

そう質問に答えた利達に、は頷いて言う。

「じゃあ、絶対に駄目ね。十八だったら少し地味すぎるもの。もっと色合いのはっきりした物のほうが良いわ」

「そう見るのか…なるほど」

「他にも贈り物があるの?見立ててあげましょうか?」

「ああ、いや。そう言う意味ではないが…実はここに来るまでに二軒ほど覗いていたのだが、さっぱり判断出来なくて…」

「ああ、なるほど。男の人はそうよね。でも、私が磨いた簪が一本もないわ。明日か明後日にならないと入荷しないのかも」

「そうか…その磨いた簪は、壊れた物とかなり近いだろうか?」

「近いと言うよりは、恐らく同じ物だと思うわ。飾りの模様も酷似していたし」

「なるほど…」

利達はそう言うと考え込む。

しばらくすると、よし、と言って歩き出した。

後について行くと、また違う店に入って行った。

そこに装飾品はなく、衣類が置いてあった。

買うものを変更するのかと思いながら、は店内を見回していた。

「何か好きなのを選んでほしい」

やはり変更するのかと思い、十八歳の娘を想像して衣類を見て周った。

「妹さんは、利達と似ているの?」

「妹が?似ている?何故?」

「何故って…妹さんへのお土産ではないの?似ているなら、利達から想像できるから」

にこりと笑った

勘違いをしている事に気がついた利達は、そうではないと言う。

「これはに。舎館に入るのに、その格好では良くないかもしれない。もちろんわたしは気にしないが」

言われている意味がよく分からず、は利達をぽかんと見上げていた。

「まあ、とにかく自分に似合いそうなものを選んで。ここで着替えて舎館に向おう。明日また店に付き合って欲しい。同じものが入荷されているなら、それにこしたことはないから」

「で、でも…」

は戸惑っていた。

こちらの物価が、国によって違うらしき事は分かる。

巧の親切な人に貰った路銀。

それと簡素な服。

それが如何ほどのものか判断がつかなかったが、店内の衣類が、自分の身にまとっている物とは、比較にならないほど高級だと言う事は分かった。

手触りから違うし、色合いも鮮明で美しい。

はなるべく簡素で、安そうな物を見て周った。

桧皮色の物を選び、それを利達に見せる。

「そんな物でいいのか?」

「うん。これが似合うと思わない?」

「もっと華やかなものでも似合うと思うが…」

「いいの。華やかなものだと、自分が服に着られてしまうわ」

そう言っては向きを変え、利達は表情を確認する事が出来なかった。

仕方なく利達は店員に申しつけ、着替えをするべくは奥に引っ込んだ。



続く






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赤い海を見てみたいですね。

今回はお買い物編でした。

                 美耶子