ドリーム小説
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金の太陽 銀の月 〜太陽編〜 =2= 「はい。と言います」
そう言って、女は首を傾げる。
「あの…ひょっとして私の言葉が分かるの?」
「ああ。一応仙籍に入っているのでね」
「仙籍?」
さらに首を傾げるに、利達は仙になると言葉が分かるのだと説明する。
「へええ!そんな人が世の中にいたのね。びっくりしちゃった。仙人って事?」
「?仙籍にあるのだから、仙だろう」
「ふうん。だから私の言っている事が分かったのね」
「まあ、そうだが…。あの男が言っている事は分かっていたのか?」
「ううん。でも、ろくでもない事を言っているのは分かったわ」
歩きながらは説明を始めた。
「あの男は、私を妓楼に売ろうとしたのよ。何も知らないと思って、頭にくるったらないわ。気がついて逃げようとしたら、体を押さえ込まれて、気がついたら財布を取られていたの。この財布の中身はね、とても親切にしてくれた、巧の貧しい農村の人がくれたのよ。旅をするなら大変だろうからって。それを取られるのは嫌だったの。返してって詰め寄って行ったら、逆に逃げられちゃった。お兄さんが居なければ、逃がしていた所だったわ」
そうか、と利達は苦笑しながらそれを聞いていた。
身なりは貧しく、何処かの国から逃げて来た荒民のように見える。
「ねえ、お兄さんは奏の人?やっぱりこの国は住みよいと思う?」
お兄さんと言われて、利達は名乗っていなかった事を思い出した。
「わたしは利達と言う。奏は良い国だと思う。尤も、この国で生まれているから、贔屓目である事は否めないが」
「利達ね。私、始めは慶に流れたの。でも慶の役人さんが、今は空位だからこの国は危ないって。よく分からなかったけど、巧が近いからそっちに行けって言われて巧に行ったのね。でも、巧に行ったら、今度は王様が海客は嫌いだから、この国は危ないって親切な人が教えてくれたの。その人がくれた財布だったの。で、その人が奏は豊かな国だし、海客も認めているから、そっちに行った方がいいって言うから。ね、私、正解だった?この国に来て良かったのかな?」
「正解だったと思う。奏には保翠院もある事だし」
「保翠院って?」
「公主が大翠として立っている、荒民を救済する施設だな」
「へえ、そんなものがあったなんて、知らなかったわ」
「は才に行くつもりだったのだろうか?」
「才って?」
「才は奏の北西にある国の事だな。でも知らないと言う事は違うのか」
「うん、知らない。乗せてきてもらったの」
そう言っては赤海を見る。
「長旅の商船かしら?綺麗な簪をたくさん磨かされたから」
の言に、はたと足を止めた利達。
何事かと見上げるの目の前で、利達は懐に手を入れる。
紙の包みを取り出し、中から壊れた簪を出した。
「あら!同じ物を磨いたわよ。え〜っと…説明をされたわ。あまり言葉が分かってないから、間違っているかもしれないけど、人気の品で入荷待ちなのじゃないかしら?特に桃色が人気らしくて。桃色の物をたくさん磨いたもの」
「では、今店を探しても、ないと言うことだろうか?」
「そうね。探し回るのなら別だろうけど…とても大変だと思うわ」
「そうか…」
しばらく何かを考える様子を見せた利達。
唐突にに向き直り、今後について質問をした。
「はこれから何処に向かうのだろうか?」
「え?私?何処に向かうのか…ええっと…奏では海客ですって何処かに届ければいいのかしら?」
「それは…まだ何も決めていないと言う事で、間違いないだろうか?」
「うん。そうね。さっきの所に届ければいいのかしら?でも、まだあの男がいそうだし…。どうしようかな…」
「二日ほど遅れてもいいだろうか?少し付き合ってくれるのなら、舎館の手配から夕餉まで、全てを任せてくれてもいい。届けも付き添って行く」
「え…でも…」
「巧の人のように、完全な親切ではなくて申し訳ないが…わたしはこの簪を買っていかないと、家人に怒られてしまうのでね。だが残念な事に、簪の区別がつかない。それを見立てて欲しいのだが…」
「奥さん?」
がそう問うと利達は首を振る。
「妻ではなく、妹なのだが…。妻が居るように見えるのだろうか」
その問いを受けたは、利達をじっと見上げる。
「見た目は若そうだけど…なんだかとっても落ち着いているから」
「そうか…確かに、見た目ほど若くはないな」
「年はいくつなの?」
「さあ、正確には覚えてないが」
「どうゆうこと?」
「…それほど長く生きたと言う事だな」
そう言うと、はくすりと笑う。
その笑みから、信じていないのだと分かる。
「ああ、ここに入ってみよう」
出てきた店に入った利達とは、さっそく簪を探し始めた。
高級な店なのだろう。
金銀に眩いまでに輝く店内には、それにそぐわしい店員がいた。
の粗末な服を見て、不審気な視線を投げかけている。
しかし、は気にする素振りも見せず、ざっと店内を一周すると、首をふって利達の横に来る。
「ここにはないわ。似たものならあるけど、微妙に不細工ね」
「不細工?簪が?」
「うん。あのね…」
どのように説明しようか、考えているような素振りを見せていたが、諦めたように首を振って、利達の袖を握る。
引かれるまま簪の陳列する、棚の一つに来た。
「ここ見て」
一本の簪を手に取り、利達に見せる。
「この先の飾りが三つに分かれているでしょう?同じような形に見えるけど、この珠になっている飾りの模様と色が、いまいち駄目なのよ。ねえ、妹さんの年は?」
どこがどう駄目なのか、利達にはさっぱり分からない。
「妹も長く生きているが…外見は十八かな」
そう質問に答えた利達に、は頷いて言う。
「じゃあ、絶対に駄目ね。十八だったら少し地味すぎるもの。もっと色合いのはっきりした物のほうが良いわ」
「そう見るのか…なるほど」
「他にも贈り物があるの?見立ててあげましょうか?」
「ああ、いや。そう言う意味ではないが…実はここに来るまでに二軒ほど覗いていたのだが、さっぱり判断出来なくて…」
「ああ、なるほど。男の人はそうよね。でも、私が磨いた簪が一本もないわ。明日か明後日にならないと入荷しないのかも」
「そうか…その磨いた簪は、壊れた物とかなり近いだろうか?」
「近いと言うよりは、恐らく同じ物だと思うわ。飾りの模様も酷似していたし」
「なるほど…」
利達はそう言うと考え込む。
しばらくすると、よし、と言って歩き出した。
後について行くと、また違う店に入って行った。
そこに装飾品はなく、衣類が置いてあった。
買うものを変更するのかと思いながら、は店内を見回していた。
「何か好きなのを選んでほしい」
やはり変更するのかと思い、十八歳の娘を想像して衣類を見て周った。
「妹さんは、利達と似ているの?」
「妹が?似ている?何故?」
「何故って…妹さんへのお土産ではないの?似ているなら、利達から想像できるから」
にこりと笑った。
勘違いをしている事に気がついた利達は、そうではないと言う。
「これはに。舎館に入るのに、その格好では良くないかもしれない。もちろんわたしは気にしないが」
言われている意味がよく分からず、は利達をぽかんと見上げていた。
「まあ、とにかく自分に似合いそうなものを選んで。ここで着替えて舎館に向おう。明日また店に付き合って欲しい。同じものが入荷されているなら、それにこしたことはないから」
「で、でも…」
は戸惑っていた。
こちらの物価が、国によって違うらしき事は分かる。
巧の親切な人に貰った路銀。
それと簡素な服。
それが如何ほどのものか判断がつかなかったが、店内の衣類が、自分の身にまとっている物とは、比較にならないほど高級だと言う事は分かった。
手触りから違うし、色合いも鮮明で美しい。
はなるべく簡素で、安そうな物を見て周った。
桧皮色の物を選び、それを利達に見せる。
「そんな物でいいのか?」
「うん。これが似合うと思わない?」
「もっと華やかなものでも似合うと思うが…」
「いいの。華やかなものだと、自分が服に着られてしまうわ」
そう言っては向きを変え、利達は表情を確認する事が出来なかった。
仕方なく利達は店員に申しつけ、着替えをするべくは奥に引っ込んだ。
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