ドリーム小説
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夢幻の国 =1= いつまでも、まっている…
更夜は真っ直ぐ黄海へと抜けていた。
「ろくた、本当にそんな世が来るのだと思う?雁が…」
かの王は言った。
住む場所を与えようと。
豊かな国。
理は整い、誰もが餓(かつ)えることなく、妖魔に襲われる心配のない、そんな国…。
王はそのために存在するのだと、強い眼差しで言った。
「ありえない」
そう思いながらも、微かに籠められた希望の言葉。
待っていると、言わせたその思い。
「ろくた…」
妖魔の首に手を置くと、きゅる、と答えるように動く体。
ここ、黄海に人はいない。
ごくまれに、狩りをする朱氏を見かけることはあるが、もちろんその目前に出る事はない。
逃げられておしまい、悪戯に驚かすだけなのだから。
確かに、無理もない。
ろくたと同じ天犬がその朱氏を襲うのだから。
妖魔に選ばれた、妖魔の子。
何処にも行くところなど、ありはしない。
唯一受け入れてくれるのは、この殺伐とした荒野のみ。
「眠たい…。ろくた、あそこに行こう」
小高い丘の麓にある、小さな林を指さして言う更夜に、天犬は黙って従う。
林地に降り立った更夜は、流れる水の音を聞いた。
奥の方からである。
誘われるように進み、小さな沢を見つけると、その源を探そうと足を進める。
やがて現れた泉の畔(ほとり)に屈みこみ、水を汲んで座り込んだ。
岩に背を預けて上を見れば、空が一片も映らない事に気がつく。
木々の葉がこの場所を覆っている。
「安心して眠れそうだ…」
隣で丸くなるろくたに寄りかかり、更夜は瞳を閉じる。
更夜が黄海に来て、すでに数ヶ月が過ぎようとしていた。
黄海は決して住みやすい場所ではなかったが、人里も更夜にとっては住みやすい場所ではなかった。
その点だけを言えば、なんら変わりない。
「…人がいる」
眼下を行列が通り過ぎている。
どこかの国で麒麟旗が挙がったのだろう。
陽の位置を確認し、秋分が過ぎたことを知る。
「令巽門が開いたか」
昇山する人々が何処の国の民かは分からない。
人々は黄海を渡る。
王になるために。
そして蓬山では麒麟が待っている。
国の命運を任せるために、王を選出するために…。
「…」
遙か上空からそれを眺めていた更夜は、その直後反転して南へ下る。
それから幾日かが過ぎた。
南に下っていた更夜はある瞬間、瞳に信じがたい物を映した。
「里…?まさか」
確かめるように上空を旋回する。
確かに小さな里だった。
近くにある丘に降り立つと、その里は何処にもなかった。
隠れているのだろうか。
辺りを見回すと、間違いなく黄海だ。
そこに里があるなど…
四令門が近いわけでもないというのに。
丘の上からろくたを促し、歩いてそこから下って行った。
さきほど見たはずの里を探し、辺りを徘徊する。
小さな建物があったはずだ。
随分と歩き、空が薄藍に染まる頃、ようやく灯りを見つけた。
たった一つだけ点された光。
ろくたの首に手を置いて、待つように言うと灯りに向かっていく。
そして更夜は見たのだった。
黄海の中で生活する人々を。
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