ドリーム小説




Welcome to Adobe GoLive 5



夢幻の国


=2=



眩むような光が頭上から降り注いでいた。

「ここは…」

乱反射を繰り返す、縹渺とした銀の世界。

更夜はゆっくりと体を起こす。

冷たい風が体を取り巻き、その動作を鈍らせた。

なんとか起き上がると、四方に目を向ける。

少し離れた所に、青い羽が一枚落ちていた。

その奥には塊のように動かないもの…。





「…ろくた…。ろくた、ろくた!」

素早く立ち上がって、蹲る天犬の元へ駆け寄った。

きゅる、と鳴き声がして、ろくたの赤い首が持ち上がる。

「よかった…」

一瞬、死んでしまったのかと思ったが、ろくたが生きているのを確認すると、更夜は再度辺りに目を向ける。

辺りはやはり、銀の雪で覆われている。

松の木も白化粧を施し、ただ静かに佇んでいた。

温暖であるはずの黄海に先程までいたはずなのだが…。

更夜は黄朱の里に滞在していた。

里木はないが、里と呼ぶのに相応しい最低限の物がそこにはあった。

人々は確かに根付き、生活をしている。

妖魔から身を守り、旅する黄朱を招き入れる。

初めは驚いた里の住人も、黄海で生きている事を告げると、あっさり中へ引き入れてくれた。

しかも驚いた事に、ろくたをも中に引き入れてくれたのだ。

人を襲わないのなら、良い守りになると言って。





里に滞在する事数日。

それが、何故この場所で気を失っていたのか。

記憶を手繰るように瞳を閉じたが、それらしいことは何も思い出すことは出来なかった。

眠っている間に、何かあったのだろうか?

しかし、里で何かあったとしても、そこは黄海。

雪など降るはずもなかった。

固まったように考え込んでいると、こっちへおより、と天犬が羽を伸ばして更夜を包む。

寒いと思ったのだろう。

「大丈夫だよ、ろくた」

妖魔に微笑みかけてから、更夜はその背に向かった。

天犬は体勢を整え、飛び立つ準備に入る。

更夜が背に乗るのを待って、羽を大きく動かした。















空にあがると、遠くに里らしきものを発見した。

黄朱の里とは違い、そこは大きい。

ろくたを促し、そちらへと向かう。

とにかく、ここが何処かを知りたかった。

里から少し離れた所に降り立ち、ろくたと供に周りを歩く。

所々盛り上がりのある地形は、更夜の視界を狭めた。

そのためか、里の外に人が居ることに、まったくと言っていいほど気がつかなかった。

小さな子童(こども)に囲まれて、一人の少女が立っている。

子童達はみんな細い糸を手に持ち、雪に穴を開けているようだった。

よく見ると、凍った池に穴を開けて糸を垂らしている事が分かる。

少女はその間を練り歩きながら、説明をしている様子だったが、その瞳がふいに更夜を捉えた。

瞳の色は吸い込まれそうに深い紺碧だった。

山瑠璃草(やまるりそう)のような薄青の布で頭を覆っているためか、瞳はより引き立って見える。

魅了されてしまったかの如く、更夜はその場から動けないでいた。

天犬に驚いたのか、口元の動きが止まり、それによって子童達の首が彼女の視線を追った。

「わっ…!」

最初に声を上げた子の動きと同時に、更夜はろくたに近寄った。

その場から離れようとしたその瞬間一一一一一一一一一一一

「すっご〜い!」

一人が駆け寄るようにして更夜に近づき、天犬を撫でようと手を伸ばしていた。

威嚇するように身構えた天犬に、更夜は急いで言う。

「ろくた、じっとして」

大人しく従った天犬の周りには、いつの間にか子童の群れが出来ていた。

「ねえ、ねえ、この騎獣、お兄ちゃんの騎獣?」

小さな男の子が更夜の袖をひっぱり、嬉しそうに訪ねてくる。

すこし戸惑いながらも、更夜は頷いて答えた。

周りに子童の群がっているろくたもまた、戸惑っているようだった。

「なんて名前の騎獣なの?始めて見たよ」

「始めて?」

「うん!とっても大きくてかっこいいね!」

「これは天犬と言う。騎獣では…」

「へええええ!天犬って騎獣もいるんだねえ」

男の子はそう言うと、他の子に混じってろくたに向き直る。

「こら、みんな!失礼でしょう」

少女までもが何の抵抗もなく歩いてくる。





その瞬間、ぴくり、とろくたの気配が変わった。

再び威嚇するような気配に、更夜は再びろくたに言う。

「じっとして、大丈夫だから」

天犬の威嚇が分かったのか、少女は歩みを止めていた。

自らの足下を見て、じっとしている。

だが、しばらくすると、再び足を前へと出す。

更夜の目前に来た少女は、にこりと微笑みながら言った。

「こんにちは、あなたはどこの里の人?」

「…ここが何処かも分からない。だから、答えようがない」

「ここが何処か分からないの?どこの州かも?」

「目が覚めたらここにいた。州どころか…国も分からない」

そう言うと、少女はふわりと微笑む。

「不思議な旅の方、お名前は?」

「更夜。こっちの天犬はろくた」

「更夜にろくた。この国へようこそ。私はと申します。ここは靜と言う国ですよ。あなたの生国ではないのですか?」

「靜?」

「ええ、正確には靜嘸国(せいぶこく)です。その北部に位置する晧州(こうしゅう)は硲郡(しょくぐん)推敲郷(すいこうごう)瑾県(きんけん)の小さな里、寥郭(りょうかく)ですわ」

「なんだって…?何国と?」

「靜嘸国ですわ。知らないのですか?」

今言われた地名の何ひとつとして、更夜の記憶にはなかった。

晧州も硲郡も推敲郷も瑾県も寥郭も。

ましてや靜嘸国など、今まで聞いたことがない。

四大国とも、四極国とも、四州国とも違う名。

『嘸』を持つ国が他にもあるのだろうか、それとも…

「あなたはどこから来たの?」

無言の更夜に、がそう問いかけた瞬間、天犬から咆吼があがる。

子童のひとりが背に乗のうとしていたのだった。

嫌がる天犬は大きく翼をばたつかせる。

青い翼が風を生み、辺りを包み、粉雪が空を舞う。

「ろくた、よすんだ!」

「乖璃、おやめなさい」

乖璃(かいり)と呼ばれた男の子が、黄色い尾の横に落ちた。

それによって、ようやく天犬の動きが止まった。











「え…うそ」

女の子の声だった。

どの子が発したのかは、分からなかった。

何故なら、同じような言葉が次々と生まれたからだった。

「そんな…まさか」

「うそだ…」

「でも…」

全員がに目を向け一様に驚き、ついには絶句してしまった。

風は収まっていたが、攫われた雪が大気を舞っている。

きらきらと陽の光を受けて幾多にも瞬きを見せたその中心で、金に輝く髪が揺れていた。

「台輔…」

「麒麟?」

「靜の麒麟…清麟…?」

驚愕の眼差しを受け、はどのように対処してよいのやら困っている。

子童達と同じように目を見開き、布地のなくなった頭部に片手を当てて固まっていた。

「ろくた」

小さく更夜が呟いた直後、の体は宙を舞っていた。

風花の中、更夜に抱えられたは里から離れ始める。

だが、誰も何も言えぬまま、それを見送った。



続く






100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!





今更ながら、タイトルに何の捻りもないことを後悔し始めました。

あう…

とりあえず、ヒロインさん登場です。

                                   美耶子