ドリーム小説




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利詩弓奏


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「驚いた…冬だというのに」

緑の広がる田畑を眺めながら、驚きの眼差しを向けているのは、騎獣を伴った二十代の女性である。

名をと言った。

は四大国、奏南国の首都、隆洽が一望できる小高い丘に立っていた。

小衫の上に単衫を重ね、さらに背子を着ている。

赤虎に騎乗し、背中に大切な荷物を引っ掛け、雲海の上を走って予定よりも1日早く奏南国に到着した。

春官の大師を務めるは、雁の国使として清漢宮に向かわなければならない。

しかし…

「暑い…」

背子を剥ぎ取るように脱いだが、まだうっすらと暑い。

「こうも気候が違うなんて…だけど、なんて美しい国」

「それはどうも」

当然の声に、弾かれたように振り返る

黒髪の柔和な微笑を湛えた、綺麗な顔立ちの男が立っていた。

年の頃はと大差ないように見えるが、は実際の年齢よりも少し年上だった。

十八歳の時に蝕にあって、二十歳で仙籍に入った。

それからすでに、八年が経っている。

目前の男は二十代前半。

籍が仙でなければ、の方が年上だろう。

旅なれた格好をしているが、この国の人間なのだろうか。

「旅の人だね。奏に来るのは初めて?」

質のいい生地を使った衣服を身にまとっている。

豪商の息子かなにかだろうか?

「はい。この国の方ですか?」

男は頷いて返事をする。

「冬なのに、こんなに緑があるなんて…。とても驚きました」

「北の方から来たの?戴?柳?」

「いえ、雁から参りました」

「あぁ、雁から。あそこは秋が長いからね。その後は北東からの条風の吹く冬になると聞いたけど。冬はさぞ厳しいだろうね」

は再び驚きの瞳で、男を見つめる。

「雁を、ご存知ですか?」

「そりゃあ。治世五百年の大国となれば、知らない人はいないよ」

「それを言うならここは六百年じゃないですか。雁に来られた事はあるのですか、と聞いたつもりだったのですけど」

「あは、素直な人だね。そうだな。行った事はあるよ。そう、何度かね」

「何度も?なにか雁と誼でも?」

「…いや、色々と各地を見て回っているのでね。雁だけに何度も行っているわけではないよ」

やはり旅人なのだ。

しかも各国を周るなど、道楽でやっていることなのだろうか?

は首を傾げながら、男に質問を重ねる。

「何故各国を旅しているのですか?お仕事?それとも…」

男はの言葉を、片手で制しながら、両方だと答えた。

「両方??」

元々大きい漆黒の両目を、これ以上ないほど見開き、男を見つめる。

猟尸師だろうか?

いや、そうは見えない。

それならば、仙籍に入っている可能性は大きい。

だが、仕事と道楽を兼ねて各国を廻るなど…何処ぞの王以外に、そのような事をしている人間がいようとは驚き以外の何物でもなかった。

「君の瞳は、吸い込まれそうだね」

「え?あ、ごめんなさい。何も名乗らずに、詮索するような事ばかり聞いて。雁から、小用があって参りました、と申します」

名乗ったに、男は目を細めて自分も名乗る。

「私の事は利広と呼んでもらおうかな。隆洽に住んでいるんだけど、帰ってきたのは二ヶ月ぶりだな。の用事は急ぐのかい?」

「いえ、用事は明日なんです。今日は一日、この国を見て周ろうかと思います。関弓も活気のある街ですけど、隆洽も楽しそうなので、お土産でも買えたらいいなと思ってます」

利広は口許にうっすらと笑みを浮かべ、に言った。

「それなら、私が案内しようか?」

突然、この申し出を受けるには、あまりにこの男を知らない。

少し警戒しながら、は利広の目を覗きこんだ。

「ん?」

不思議そうな利広の声を無視し、見つめることしばし。

「…では、街案内を頼んでも宜しいでしょうか?」

「もちろん、よろこんで。信用してくれて嬉しいよ」

その言葉に、は首を傾げ、少し悪戯っぽい表情を浮かべて言った。

「それはどうでしょう?」

「あ、ひどいなぁ。大丈夫だよ、信用してくれて」

打ち解けたように笑いあう2人を、赤虎が黙って見ていた。

「あぁ、舎館はもう決ったかい?騎獣を世話してくれる、いい舎館を紹介しようか?」

「いえ、それには及びません。前もって同僚が舎館におりますから」

「用事は一人じゃないんだね?それなら、まずはその舎館に赤虎を預けるといいよ。手綱をもったまま、花鈿を見て周る訳にもいかないだろう?」

それもそうだと、まずは舎館に向かうことになった。

「専夕と言う舎館をご存知ですか?」

「え?専夕?知っているけど…そこが舎館かい?」

「はい」

不思議そうに聞く利広を、さらに不思議に思いながら、案内の足に着いていく。

「間違えては、いないよね?同僚は男?」

「そうですが…何か?」

「いや…」

そう言って利広は案内を始める。

隆洽の街は、思い描いたのと寸分違わず、活気で満ち溢れていた。

各所に露天が出され、行きかう人々の顔からは、王の治世が安定している様子が伺える。

「本当に、いい国ですね」

にっこりと微笑み、そういうに利広は再び、

「それはどうも」

と答えた。

しばらく歩くと、色合いのごちゃごちゃした場所に出てきた。

緑の柱の舎館が立ち並び、利広は呼び込みをする中年の女に、呼び止められる。

近道なのだろうか?

そう思いながら歩くは、利広が足を止めたのを見て見上げた。

「ここ、なんだけどね」



続く






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みなさま、初めまして。

初めて書いたドリーム小説になります。文章を書き出しては5作目です。

まだまだ精進が必要だな、と思いながら書いております。

設定もありがちな☆って気もしますが…そこは優しい皆様のこと、目をつぶってくださる事と信じています。

こんなつたない文章でよければ、次も読んで下さいませ。

美耶子