ドリーム小説




Welcome to Adobe GoLive 5



=6=






次にが目覚めたときには、全ての事が終わっていた。

元州の乱は鎮圧され、元は大化から白雉に変わっていた。

事の顛末を、見舞いに来た尚隆や六太、はたまた朱衡や帷湍、成笙等に話してもらう。悲しい事に驪媚は命を奪われたと聞いた。それを聞いた時、は思わずその場に伏せた。

毎日少しずつ話を聞くと同時に、体も徐々に回復していった。

誰よりも一番多く、の元を訪れたのは王だったが、は以前と変わらぬその様子を、不思議に思いながらも何も聞けないでいた。

しかしそれを考えると、日に日に辛い気持ちが膨らんでくる。

外傷が癒えると同時に、心の傷が広がっていくような感覚に陥っていた。

王の加護と言って口付けられた頬が、熱をもったように疼く。

しかし、その感情が何を意味するのか、は気付かずにいた。






















胸と肩を大きく抉られただったが、傷も目立たなくなっており、後は体力を戻すだけにまで回復した。


「宮中にばかり居ては、息が詰まらんか?」


尚隆は桃を手に持ったまま、に問いかける。


「多少は…ですが、まだ長く歩けませんので」


「関弓に連れて行ってやろうか?」


「関弓に?」

「誰かが一緒に居れば大丈夫だろう。気晴らしをした方が良いと思うがな」


「そうでしょうか」


そうだそうだと言いながら、手を引き出す尚隆。


はどうしようかと迷っている内に、関弓へと引きずられて来た。


「主、主上!お待ちください…ちょっと、待って…」


肩で息をしながらひっぱられるまま来てしまったが、政務はよかったのかと思いなおしたのだった。の養生している部屋なら、すぐにでも戻ることは可能だが、街にまで来てしまうとそうもいくまい。


それに、逃げ出すためのいい口実を与えたように思えたのだ。


「街でそれは言うなよ。風漢と呼べ」

そう言って、手を引いていた力を少し緩める。だが、手は離さずに、ゆっくりと歩き出す。

まっすぐ飯堂に入り、慣れた様子で注文をする。


気の良い亭主風の男が厨房から出てきて、


「お〜、兄ちゃん!久し振りだな〜!どしたい、今日はえらい綺麗な姉ちゃん連れて」

と言って背中をバンバン叩き、厨房に戻っていった。


尚隆は苦笑したままを見る。は赤くなって固まっていた。

時間で言うなら丁度昼。

注文した物を待っている間、昼餉の為に飯堂は人でごった返してきた。


尚隆とは次に待つ人の為に、急いで食べ、慌てて飯堂を出た。
「すごい人でしたね」


「だろう。まだ飯堂は少ないからな。どうしたって混んでしまう」

「ええ、でもとても活気に溢れていて…で、風漢は常連のようですわね」


後でこっそり朱衡に教えてあげよう、と思いながら後に着いて歩く。


尚隆はを郊外へと連れていく。


「はあ、はあ。風漢、どこまで行くのですか?」


「なんだ。もう体力の限界か?おぶってやろうか?」


「…いえ、大丈夫です」


「照れずともよいだろう」


「…」


話す気力がなくなったのか、話す体力がなくなったのか、は押し黙ったままやりすごした。


尚隆は足を止め、後ろのを見やる。


「はぁ、はぁ…は…どうしたのです?」


もう冬だと言うのに、汗をじっとりとかいている。


「もう少しだ」


そう言ってが通り過ぎるのを待つ。

これは迷惑をかけているなと思い、は急いで足を速めようと試みる。


しかしそれは出来なかった。

尚隆がを抱えて歩き出したからだ。


「主、主上!」


「風漢と呼べと言わなかったか?」


「だ、大丈夫です!歩けますから、お、お、下ろしてください」


「だめだ」


楽しそうに笑って尚隆はなおも進む。


「主上!しゅ…!」

抱えられた腕に力が入り、上に押し上げられる。

同時に尚隆の顔が近付き、唇を重ねようとした。


「!」


驚きで口を閉じた


重なる寸前で顔を上げた尚隆は、満足気に足を進める。


(からかわれた)


そう思ったは顔を真っ赤に染めたが、尚隆の顔を見ることが出来なかった。

しばらく運ばれて着いた所は、大きな木の根元だった。



周りには誰もいない。


下ろされたは先日の林を思い出し、その木にそっと触れる。

林はまだ細い木ばかりだった。

二十年分、大きくなったのだろう。


だけど、この木はどうだろうか。

しっかりとした太い幹。

緑の茂る広い枝。


は木によりかかり、そっと頬を寄せた。


「この木は…おまえ、生き残ったのね」


「大凶事にあって、生き残った数少ない木だ」


以前はこの木以外、周りは何もなかったのだと言う。


「この木自体も枯れかけて、うな垂れるように佇んでいた」


それが二十年で蘇った。


の頬を雫が伝い、落ちていく。
「司刑はよく泣く」

「…雁は、良い国になりますでしょうか」


「有能な官吏が王を支えてくれるからな」


「はい…」


は周りを見回し、周りに誰も居ないのを確認して言った。


「でも、主上…私は不安なのです」


尚隆はを見据え、黙って聞いていた。

「主上は今回の件でも、自らが元州に向かわれた…これからもそうやって生きていくのでしょう?でもそれを、誰も止めることができません」


木に話しかけるようにしていたは、背を木に預け尚隆を見た。


「それは俺が、の嫌いな王だからか?」


「いいえ。それが“こまつ なおたか”その人だからです。きっと、主上の魂はそのようになっているのですわ。だから、主上を縛り付けることは、誰にも出来ません」


尚隆は苦笑し、を見つめた。


「私は、それが怖い…目を離せば、奈落に落ちてしまいそうです。危ない事を止めてはくれません」


「…そうか。は、まだ王が嫌いか」


「いいえ。この緑を与えてくれた王は、嫌いではありません。この木を蘇らせ、街を希望で包み、国を潤してくれる。それが王であったのですから…でも…」


「でも?」


「主上は嫌いです。こんなにも、私の胸を締め付ける」


「それは危険な所に行くからか?」


「いいえ、きっと違います。今もこんなに苦しい…この苦しみは、怪我のせいでしょうか?それとも、主上のせいでしょうか?」


はずっとその苦しみに答えを見出せずにいた。


「怪我のせいではない」


逃さないとばかりに、木に両手をつき、を見つめる尚隆がいた。


「それを治してやろうか?」


はゆっくりと頷き言った。


「かつて感じたことのない、この痛みから救って下さるのなら…」


の頬を暖かな感触が包み込む。


木に置かれていた両手は、の頬を包み込んでいた。

そしてゆっくりと顔が近付いてくるのを、は瞳を閉じて待つ。



心臓はきりきりと音を立てていたが、それに構っている余裕もないほど動揺している。


甘い口付けを受けたは、ゆっくりと目を開けた。


、好きだ」


「主、主上…」


「王としてではないぞ。は王が嫌いだからな」


「き、嫌いでは…」


「嫌いではないが、好きだと言わないだろう」


「それは…」


「なら、王ではなく、俺は嫌いか?」


「…」


「答えられんか」


今のには、胸の痛みが何だったのか、理解できる。


それならば、答えられないはずはなかった。


「好き、…です」


その言葉を待っていたかのように、再度口付けられる。


「王も…好きになれる時が来るでしょうか…」


六太と同じ目をもつに、尚隆は静かに言う。


「いずれな」
「とても時間がかかるかもしれません。その前に、倒れてしまわないで下さいませ」


なにしろ、この人は予測不能な事をよくするのだから。


「信用がないな」


はくすくす笑い、尚隆に言った。


「信用をなくすような事をされるからですよ。常に見張りでも立てておかなければ、誰も安心できませんもの」

そう言われた尚隆は悪びれもせず、大きく笑い、そして言った。



「ならば、俺が倒れるその日まで…」

は強く光る瞳を見つめる。



「供にあればよい」



は一瞬息を呑んだが、すぐにその場に跪いた。


「御心のままに」








100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!





臣下として、一人の女性として…

これからも見守ってあげて下さい。

ついでに私も温かく見守って下さい(;;)

                              美耶子