ドリーム小説




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後日、は関弓に降りていた。


街はまだ豊かとは言いがたかったが、人々の顔にかつて見た影はない。


満足気にそれを見やって、街を散策する。


すると前方に見覚えのある人影を確認した。


亦信だった。その前方に小さな人影を見つけ、それが六太だと気付くのに少し時間がかかる。



亦信がついているなら、勝手に抜け出してきた訳ではないのだろう。


はそう思い、再び街の散策に戻ろうとしたが、何故か妙に気になって踵を返した。


亦信を目印に後をつけ、気がつけば関弓の外まで来ている。


よくみると、六太を先導している者がいる。青み掛かった黒髪の少年だった。


は膨れつつある不安を抑え、遠くから様子を伺っていた。



林の中に入って行った六太を確認しようと、林に向かっていくと、何やら風を切るような音が耳に響く。


何事だと振り返った頭上に、獰猛な嘴を光らせた獣がを狙っていた。


「天犬!」


はとっさに身を屈め、地面に突っ伏した。


しかしを狙っていると思われた天犬は、そのまま通過し、先程六太が入って行った林に突入した。



「いけない…台輔!」


駆け出してすぐに、小さく六太の悲鳴が聞こえる。


「早く、早く!」


自分自身の足にそう言いながら、は力の限り走った。


林の入口が目前に迫り、奥に二匹の天犬が見えた。


なおも進むの前で、一匹の天犬と数人の人影は姿を消した。


残っていたのは、血の海に横たわる亦信と、それを食んでいる天犬だけだった。


は落ちている石を、天犬に投げつけ注意を反らす。


亦信の握っていた剣を取り構える。


足を狙って剣を走らせると、天犬はひらりと避ける。


空ぶった力が思いあまり、は尻餅をついたが、すぐに起き上がり再度切りかかった。


辛うじて青い翼を掠めた剣は、天犬を後退させる頃に成功した。


しかし天犬も負けてはおらず、に鋭い嘴を突き立てる。


も精一杯避けだが、肩を深く抉られた。


生暖かい血が肩から伝って腰にまで下がっていくのを感じたが、それを気にしている余裕などなかった。


再び天犬の嘴がを狙っていたのだ。



剣で受け止めたが、力負けし、嘴はの胸を深く貫いた。


燃えるような痛みを感じ、目が霞んできた事に気が付いたが、それでも必死に剣を振り回していた。


ぎゃっ、と悲鳴が聞こえ、天犬が空に舞い上がる気配を感じる。


そのまま逃げるようにして去っていった天犬を、霞む視界で確認しながらはその場で倒れた。














どれほど夢の中にいたのだろうか、は重い瞼を持ち上げるようにして目を覚ました。


「気が付いたか」


声の方に目を向けると、尚隆が座ってこちらを見ていた。


寝たままでは失礼にあたると思い、は起き上がろうとした。


しかし、体中を稲妻で打ち抜かれた様な衝撃が走り、起き上がることは叶わなかった。


「よい。そのまま寝ていろ」


「主上…亦信が…それに、たい、ほ、が」


の頬を涙が伝うが、それを拭う為に腕を動かす事すら出来なかった。


尚隆はの頬に手を当て、そっと涙を拭う。



普段見せることのない優しい表情に、は知らず安堵した。


「亦信は、やはり…」


淡い期待だと判っている。


動かぬ亦信、それを食む天犬を、は見たのだ。


尚隆は首を横に振った。


予想通りではあったが、やはり心に冷たいものが降りてくるのを感じる。


「私は…助かったのですね」


「助かったと言うには満身創痍だがな。何故あの場所にいた」


は関弓で、亦信を見かけた所から話をした。


「巻き込まれたと言うわけだな。では、何故そのような事をした」


「何故…って…」


尚隆の顔は少し怒っているようだった。


「お前は妖魔と戦いなれておるのか」


「い、いえ…」


「死んだ者を哀れんで、自分も死ぬつもりだったのか」


「いいえ…」


言葉に詰まったを見やって、やや乗り出しぎみに問い詰めていた尚隆は姿勢を元に戻した。


「いや、すまなかったな。成笙が礼を言っていた。少しばかりでも、体が残っていてよかったと…」


再びの頬を涙が伝う。


「主上…私はどれぐらい眠っていたのでしょうか?台輔は」


「十日程、眠り続けていたな。昨日、元州から州宰が勅使で来た。上帝位を寄こせと言ってな。それに元州令尹を着けろと言っている。六太は元州の盾だ。今は州城に捕らえられているらしい」


「上帝位、ですか…もちろんお断りになったのでしょう?」


「ほう、よく判ったな。朱衡や帷湍などは青筋を立てて怒っていたぞ?」


「判ったと言うよりは、そうあって欲しいと思ったのです」


「嫌いな王の上に立つ位だからか?」


「いいえ。国を思えば断るしかないからです。王の上に位を築くと言うのは、理に欠けます。今、元州がどのように動いているのか、私には判りませんが、受け入れればいずれ国は傾きます」


「元州候が上手い事、地を慣らしてくれるやもしれんぞ?」


「それならば、地官長になればよろしいのでは?もしくは…冢宰ですわね。それを提示せず、上帝位を置けと言うのなら実質、玉座を譲れと言って居るようなもの…元州は玉座を欲しているようにしか、思えません」



「なかなか鋭いな」


事情を飲み込めてないというのも、あったかもしれないが、は冷静な判断をしている。

目の前にぶら下がった餌に食らいつかず、正確に物事を見通している。


「それは簒奪です…謀反を起こし、玉座を狙うそれに…天意がございましょうか。天意なしに玉座に着けば簒奪です」


「なるほどな」


「そして天は…雁を許さないでしょう。再び、あの光景が広がってしまう…主上」


は縋るような目で、尚隆を見た。


「台輔が捕われていると言うのに…私はとてもひどい事を申しておりますわね…しかし、天命あったのは主上。元州令尹ではございません。雁の王は、主上ただお一人ですわ…」


尚隆は小さく頷き、立ち上がった。


卓上の布を手に取り、の額に当てる。


知らない内に冷や汗をかいていた。


「どこか苦しい所はないか?」


「だ、大丈夫です。そのような事、主上にやって頂くなんて…」


「構わん。どうせ誰もおらんのだ。しばらくここには帰って来れんしな」


「どちらへ…」


何処に行くのだと問いかけようとしたは、はっと息をのむ。



「いけません、主上。危のうございます」


元州に行こうとしているのだ。それは王のやる仕事ではない。



間諜を選び、元州にもぐりこませればよいのではないか、とは思う。


「腕の一つも動かせぬ人間の言う事ではないな」


「それは…ですが!」


言いかけたを片手で制し、尚隆は言った。


「六太が捕られている以上、こちらからは手を出せぬ。だが、上帝位をくれてやる事もできんだろう」


確かに、それは出来ない。


ただ待っていて、六太が殺されれば、王も一蓮托生…。


畢竟、何処に居ても同じだと言う事になる。


それならば、元州にもぐりこんだほうがいいのかもしれない。


この王なら上手く切り抜けられるだろう。


はそう思う事で、自分を納得させた。


「必ず生きて帰ってきて下さいませ。まだまだ、やらねばならぬ事は山済みですから」


そうだな、と頷いて尚隆はの顔を両手で挟んで、覗き込んだ。


「司刑は仕事熱心と見える。もう少し大袈裟に心配しても良いのだぞ」


ぱちくりと瞬いて、不思議そうな表情をむけるに、尚隆は苦笑した。


「動けぬ女を襲う趣味はないからな。これで勘弁しておいてやろう」


そう言って、の頬に口付けた。


「王の加護だ。体を厭えよ」


そう言って退出した主を、は目で追いながら見ていた。


今のは…いったい…。


驚愕がじわじわと思考を包み、次第に顔が赤く染まるのを禁じえなかった。


そのせいで、傷口が開くのではないかと思われるほど、心臓は大きく鳴り響き、実際、鼓動が煩い位に思えたのだった。


「王は嫌いだけど…王の加護なら…」


はそう呟いて、深い眠りに落ちていった。



続く






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さすがは仙と言うか…

すごいですね〜。

毎回痛くてごめんなさい☆

さあ、最後に向けて、男前で終われるか!?

                           美耶子