ドリーム小説




Trick or Treat!



Trick or Treat!


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「ほ、蓬莱が化け物でいっぱいだった!」

血相を変えて、王の自室へと飛び込んできた延麒に、周りを囲んでいた数名と主が訝しげに顔を上げる。

「御年五百を越えられてもまだ、悪夢でうなされますか?」

呆れ顔の朱衡がそう問うと、六太は首を振って叫ぶ。

「違う!本当に見たんだ!この目で!目の前で!!」

蒼白の面持ちのまま、六太の訴えは続く。

「小さいけど、青い顔の奴とか、牙をむきだしている奴とか、頭に刃物を刺したまま歩いている奴とか!」

「頭に刃物?それでは生きていないでしょうに。それに、血に当たったような感じは致しませんが?」

黙ったまま頷く成笙がちらりと見え、六太は憤慨しながら叫ぶ。

「血の臭いなんて無かったんだよ!あれは絶対にああゆう生き物だ!」

ついに見かねたのか、帷湍が朱衡に向かって言う。

「最近流れてきた海客に、聞いてみるほうがいいんじゃないのか?」

「…そうですね。では明日にでも使いを出しましょうか」

ため息混じりにそう言った態度が、全く信用していないのだと六太に教える。

ただ一人、話しを聞くだけで参加しない房室の主だけが、何も言わずにそれらを静観していた。


























その翌日。

『最近流れて来た海客』に該当する女が、王宮の中にいた。

煌びやかな装飾に目を奪われたその海客は、落ち着き無く辺りを見回している。

そこへ現れた官吏は静かに話しかける。

「朱衡と申します。突然の呼び出しに応じて頂いて、大変恐縮です」

丁寧に言われるのか慣れていないのか、驚いた表情がそれに答えていた。

「あ、あの…私、何か悪いことでもしたんでしょうか…?」

身を小さくして言う女に、訝しげな視線を投げた朱衡は静かに問う。

「悪いこととは?何を言って連れて来られたのです?」

線の細い女だと、朱衡は問いながら思った。

そのせいか萎縮しているようにも、怯えているようにも見える。

だが、朱衡の思惑とは打って変わって、女は抗議するような声で返答した。

「何をって事もないんですけど…どちらかと言うと、有無を言わさずに連れて来られた感じが。私、小学で講義を受けていたんです。その最中に男の人が入ってきて…人攫いかと思いました」

大きな溜息を、何とか飲み込んだ朱衡。

命じた事が、どこかでおかしくなったようだ。

抗議したためか強張った表情の女に、にこりと微笑みかけた朱衡は優しく言う。

「少し蓬莱の事について、聞きたいことがございまして。それでお呼びした次第なのですが、怖がらせたようですね。わたしからお詫び申し上げます。どこの官府の者か分かりますか?きつく叱っておきますので」

「はあ…それが、官府の人らしい格好ではなかったような…ただ、あまりそういった人を見かけることはないので、確かとは言えませんが」

「官府の者らしからぬ格好とは…?では、貴女はどこから来られたのですか」

連れて来られた場所から、大凡のところを割り出そうと朱衡は問う。

「私は関弓に住んでいます。と申しますが…。流されて来たのは二年ほど前です。保護期間の一年目で、まだ正式に戸籍登録をしていません」

関弓から来たのなら、国府から直接迎えに行った事になる。

これほどまでに間近でありながら命を取り違え、人攫いのように動くなど…

やはり溜息を堪えなければならない。

「聞きたい事ってなんですか?私にでも分かる事でしょうか?」

おずおずと言ったに向き直り、朱衡は問わねばならぬ事を、すっかり失念していた事に気がつく。

どう言ったものかと、しばし思案してから問うた。

「先日…流されてきた海客の話を、少し耳に挟んだのですが。蓬莱には顔の青い者や、牙のように歯が発達した者、刃物を頭部に付けたまま生きている者がいるのでしょうか?」

「…は?」

ぽかんとした表情に、朱衡は苦笑しながら頷いた。

「いえ。とんでもないことを聞きましたね。忘れて頂いて結構です」

「え?あの…それって、映画の中の話しですか?」

「映画、とは?」

「えっと…映像を…あ、映像が分かりませんよね。その、動く絵に声や音が付け加えられたもので、え〜…まあ、娯楽の一種なんですが…その中でなら、私も見たことがあります。青い顔の化け物や、血を吸う化け物を」

がそう言った所に、飛び込んできた者がいた。

「さっそく来てるって!?」

それは金の髪の少年だった。

はて、と考える。

金の髪が特別な象徴として、この世界にはあったような気がしたのだが…。

「台輔。ご政務はどうされたのですか?さぼっていた二日分が、まだ残っておりましょうに」

諫めるような朱衡の言を、まったく意に介さず六太は問いかける。

「どうだった?居ただろ?青い顔の奴」

「台輔…」

ついに深い溜息を漏らした朱衡を、なおも無視してに歩み寄る六太。

「な、もう聞いたか?」

少し近づいた金の少年。

ふと、麒麟の文字が脳裏を過ぎていった。

「た…台輔って、まさか…」

「ん?ああ、気にすんなって。気軽に呼んでくれていいからな。あ、六太ってんだ。で、どうなんだ?蓬莱はどうなっちゃんだ?」

「台輔」

少し強く言った朱衡に、ようやく六太の動きが止まる。

「さきほど問いましたところ、そのような人物はいないとの事でした。しかし、特定の娯楽の中でなら、存在しうると」

「その娯楽ってのは?」

朱衡に見つめられたは、先ほどの説明を繰り返す。

しかし六太の首は横に振られ、に向けられる。

「違う、目の前で見たんだ。何か意味の分からない事を叫びながら、家の扉を叩いているんだ。みんな小さくってさ」

「目の前で見た?意味の分からない事?みんな小さい?」

「あ…いや、その…。見たって人がいてさ、え〜っと、そう!最近流れてきた海客から聞いたんだよ!」

一生懸命言い訳を始めた六太を見もしないで、は何かを思案している。

「…ああ!」

ぽんと手を打って、思いを馳せるように宙を見つめる。

「そんな時期なのね。懐かしいわ」

一人納得した海客に、二人は問いたげに視線を投げる。

「Trick or Treat!と言っていませんでしたか?」

「あ、なんかそんな感じ」

「ではその奇妙な者は、仮装した子供達でしょう」

「仮装?」

「ええ。きっとそれは、ハロウィンの日ですよ」

「はろうぃん?」

「ええ、蓬莱ではない、遠い異国の祭祀ですね。すべての聖人を祝う祭祀で、万聖節と言う祭祀があるんですが、その前夜祭がハロウィンです。蓬莱で言うお盆みたいなものですね。魂の解放される日…死者が蘇ると信じられている日なんですが、その異国では、死者は生きている人に悪戯をしたり、悪いことを運んでくるものとされているんです。それを回避するための仮装なんですよ。化け物に扮した子供を見て、本物の化け物の方が遠ざかって行くと言うことですね」

「子童が仮装した所で、恐いものでしょうか?」

朱衡がそう問うと、はくすりと笑って六太を見る。

「台輔は大変驚かれたようですが?」

「え…あ、いや…その…」

「麒麟は蓬莱に行く事が出来るのですね。神獣だからですか?」

「…まあ、そうだ。一人でなら、蝕を起こさずに渡る事が出来る」

「あら、それは凄い!では珍しいものを見る事ができましたね。異国の地では当たり前のように行われている事ですが、蓬莱では仮装して、家々を子供が廻ると言うのは珍しい事なんですよ」

「へ…へえ」

「Trick or Treat!って言うのは、何かくれないないと、悪戯しちゃうぞって意味ですよ。だから扉を叩かれた家の人は、お菓子を持って出てきます。お菓子を貰うために、子供達は各家を巡回しているんですよ」

「悪戯しても怒られないのか?」

ぱっと表情を改めた六太に、は勘違いしているのではないだろうかと、説明を加える。

「だから、悪戯をされないように、お菓子を持って待っているんです」

「どこに行ってもお菓子を貰える日?」

「どこでもと言うわけでは…。そうですね、確か目印をつけておくはずですよ。ハロウィンに参加しますって意味で、家の前をハロウィンの装飾で様々に飾り、玄関の明かりを点して待つんです」

「その飾りってのは?」

「お墓をイメージしたものだったり、骸骨がいたりとか…恐く不気味な雰囲気に飾るはずですよ」

「ふうん。こうして聞いてみると、なんだか楽しそうだな」

「台輔もやってみたらどうですか?蓬莱ではない異国の化け物になって、宮城を徘徊してみては?」

そう提案したに、六太は少し困惑した表情で答えた。

「何って言うって?」

「Trick or Treat!」

「とりっく…おあ?」

「Trick or Treatです。不安なのでしたら、私もご一緒しましょうか?」

それにぱっと表情の明るんだ六太は、次いで朱衡に目を向けて、是非を問うように見つめる。

「先ほど申し上げた事を、もうお忘れですか?」

ぐっと言に詰まった六太の代わりに、の口が開かれる。

「じゃあ政務の間、私が仮装の用意をしておきましょうか?準備が終わるまでに、台輔が政務を終えてしまえば、問題ないでしょう?折角浚われてきたのだし」

最後の言い回しによって、朱衡は頷くしかなくなってしまった。

嬉々とした六太を見ながら、海客のを見る。

「では…そのように取りはからいましょう」

「おれ、急いで片付けて来る!」

走り出した六太が消えてしまうと、は朱衡に問う。

「さぼる事が多いんですか?」

会話から察したのか、はそう問うて朱衡を見上げる。

「多いも何も…」

一言では足りないといった表情に、はくすりと笑って言った。

「三日間の滞在をお許し願いたいのですが」

「三日?それは…」

「それから、お菓子を用意しておいて下さい。もちろん三日後のためです。頑張った後には、ご褒美が必要でしょう?本当に悪戯をしないように言っておきますから、安心して下さいね。ああ、ついでにお仕事も多めに出しておいては如何ですか?今の勢いなら、すぐに終わってくれそうですし」

「それでは、準備に三日かかると?」

「四日もかかってしまうと、しびれをきらしそうですし、待ちきれないでしょう?三日ぐらいなら、材料を探しているのだと言って、なんとか引き延ばす事が出来ると思って」

「ああ、なるほど。それは良い考えですね」

の言わんとしている事が分かって、朱衡はにこりと笑む。

「こちらで何か用意するものはございますか?」

「では…いくつか上げますから、用意して頂けますか?」

はそう言って朱衡に必要な物を告げる。

理解できなかったのか、いくつかは除かれたが、残りすべてを揃えると言った朱衡に、は微笑んで返した。



続く






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禁忌第二弾にして、季節はずれもの☆

春も近づこうかと言う今日この頃…

何故にと思われるかもしれませんので、少し説明を。

Heaven's Kitchenの管理人、キチさまのサイトのBBSで、

雁国のハロウィンの話しで盛り上がって、調子に乗って書いてしまいました。

なので、このヒロインはキチさまに捧げるつもりで書き、

キチさまをイメージして書いたものです。

なのに設定はそうでもなかったり…

一話の短編のつもりだったのですが、気がつけば(汗)

私は纏まりのない人間です。なので話しも纏まりません。

よければお付き合いの程…。

                                  美耶子