ドリーム小説
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それから二日後、再び妖魔と遭遇する。
巨大な妖魔が三匹も現れて、一団はなんと半数にも減ってしまった。
「お父様!早く馬を!」
父を逃がし、は妖魔に向き直った。
目の前の妖魔を頭上から叩き斬り、もういないのかと後ろを振り返ると、麩哩がまだ戦っていた。
「危ない!」
麩哩の足が獰猛な爪に引き裂かれ、横倒しになったのを見て、は援助に入った。
「麩哩!私の馬に乗って!早く!」
「お前はどうするんだ」
「私はいいから!早く!あなたに誰かの加護があるなら、私にだって加護があるのよ!大丈夫よ、ちゃんと祈ってきたんだから!!」
足を引き摺りながら移動する音が背後で聞こえ、は剣を握り直す。
「さあ…来なさい!!」
恐ろしい咆哮と供に、跳躍した妖魔を正面で捕らえる。
剣と牙が切り結ぶ音と、馬の蹄が同時にする。
「くっ…!」
の体は、力に押され沈みだす。
ふっと力を抜き、妖魔の力を利用して地面へと倒れた。
均衡を崩した妖魔の下をかい潜り、横腹に剣を衝き立てる。
悲鳴にも似た嘶きが耳を突いたが、油断せずにそのまま剣を引き抜く。
直後、体がさらわれる様に宙に舞い、気がつくと馬上だった。
「麩哩!」
「これ以上、一団に置いていかれたら、俺達は野垂れ死にだ」
そう言われて、は麩哩に同意した。 「さっき、祈ってきたと言っていたな」
馬を走らせてしばし、のすぐ後ろから、麩哩の辛辣な声がする。
「ええ、才の里で祈ってきたの。黄帝に」
「そうか…知らないようだから、一つ教えておいてやろう。黄海は神から見捨てられた場所だ。ここでは天帝の加護も、黄帝の加護もない。だからそれに期待して、人を助けよう等と思わない事だな。自分の身だけ守ってろ」
「勝手に体が動くのですもの。それを押さえられるほど、私は大人じゃないの。でも、そうね。加護がないとなると…なんとか自力で頑張るしかないわね。まあ、今と何も変わらないって事になるけど、現にこうして生きているもの。これからだって生きていけるわ。」
後ろから溜め息が漏れ、それは呆れとも、諦めともつかないものだった。 馬を走らせてすぐに、一団へと追いついた。
全員に知らせて、その足を速める。
もう大丈夫だろうと思った時には、夜中になっていた。
野営の為に、木々の合間に消えていく人々。
その中に、は麩哩の姿を探した。
先程の妖魔がどれ程の手傷を負ったのか、見届けていないは、麩哩に確認しようとしていたのだった。
それだけ、不安だったのだ。
日に日に、襲撃が多くなるような…そんな気がしてならなかった。
麩哩を見つけ、駆け寄るの目前に、まだ幼い少女が立っていた。
「え?子童なんて…一団にいたかしら?」
そう呟いて、はその少女に近付く。
「あなた…どこの子?」
少女は黙ったまま、暗がりを指差した。
ぼんやりと灯りが見える。
「あそこは誰かしら?お父様ではないし…ねえ、誰についてきたの?」
「やめとけ。その子は口がきけない」
「え…」
麩哩の声が後ろからして、少女はゆっくりと頷く。
着ているものから判断すると、どうやら家生のようだった。
「どうしてこんな小さい子が、黄海にいるの?」
そう聞くに、麩哩はなにも答えずに少女を促した。
少女は言われるままに、家公の元へと戻る。
少女の姿が消えた頃、麩哩はぽつりと言った。
「生贄だろう…」
信じたくないような事が間近で聞こえ、は麩哩を見た。
「今、何って言ったの?」
麩哩は怪訝そうな顔をして、もう一度言った。
「生贄だ」
「何…?何の生贄?まさか…昇山者のための生贄って、言うんじゃないでしょうね…」
最大級に嫌そうな顔で、麩哩はに言った。
「その通りだ。王になろうとしている人間のやる事じゃないな」
はき捨てるように言った麩哩を、は信じられないと言った目付きで見た。
「正直言って、あそこに雇われなくてよかったよ。あの子が食われる間に、王を目指す主は逃げようって魂胆だろうぜ」
は少女の消えた方角を見ていたが、ふいにそちらへと踏み出した。
「お、おい!待て、待てっ!」
「どうして止めるの!!」
「言ってどうするつもりなんだ!それでどうにかなるのか!?」
の腕をつかみながら、怒鳴っていた麩哩は急に声を落として言った。
「妖魔に襲われた時、戦う術を持たない者は、誰かを差し出すしかないんだ。人として、褒められた事ではないが…ここでは仕方がない。あの子は可哀想だと思うが、俺達がどうこうしていい相手じゃない」
「だけど!」
「なるべく妖魔を回避して、遭遇すれば俺達が戦う。それ以外に、俺達に出来る事があったら、教えてくれ」
はき捨てるように言った麩哩を、は呆然と見つめた。
確かに言う通りだろう。
しかし、あんな小さい子を黄海に連れてくるなど、初めから生贄のためで連れてきたとしか思えない。
「それが、昇山者のすることなの…!」
きつく噛まれた唇が、ぷつりと切れて、の感情は今にも爆発しそうだった。
麩哩は黙ってその場を去り、自らの主が待っている陣営へと戻って行った。
もまた、無言のまま父の元へと戻った。
寝静まった陣営で、は剣を抱え込み、一人、起きていた。
この一団は、終わりだ。
直感的にそう思った。
運など…かけらもあるはずがない。
少なくとも、あの少女を連れた者が登極する事はないだろう。
「人道もなにもかも…ここにはないのね」
人々の犠牲の上で進む道中。
それを見越して、人を連れて来るというのは、殺すのと同じだ。
家族ではない、家生の小さな子を…
口もきけない子を、妖魔に差し出そうと言うのだから、王になろうなど片腹痛い。
黄海に入ってからというもの、憤りと怒りの捌け口がみつからないまま、何日も経過していた。
はすっと目を閉じて、眠ろうと試みる。
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