ドリーム小説
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次の日、目が覚めると、洞窟内に更夜の姿はなかった。
慌てたは外へ走り出た。
鳥の嘶きにも似た声が樹海に木霊し、目前に天犬の姿があった。
妖魔か、と一瞬身構えそうになったが、それを親しげに見上げた更夜の姿が目に止まり、は体を動かさずにその様子を見ていた。
「ろくた」
更夜はそう言って天犬に寄り添い、そのまま騎乗した。
天犬に何事か言って聞かせた更夜は、に向きなおって手を差し伸べた。
乗れ、と言うことだろうか。
どうしようかと考える間もなく、の腕は自然と更夜の手を取っていた。
ぐいっ、と引き上げられ、更夜の前に騎乗する。
天犬は空高く舞い上がり、は後ろの更夜にしがみつく様にしていた。
「怖いか」
静かにそう問われ、は首を振った。
「落ちそうなのが、少し怖い」
「そうか…」
少しだけ笑みが含まれていそうな口調に、の心は落ち着きを取り戻していった。
天犬は空を駆け、岩場で降り立つ。
「どこに行くの?」
「玉を」
そう言って進む更夜に従って、は岩場の隙間に入っていく。
赤い苔の生えた所に出てきて、足を滑らせたは岩場の下まで転げ落ちた。
「うっ…」
昨日手当てしてもらった傷痕が、今になって疼きだしたように感じた。
どこか打ちつけたのだろうか。
「大丈夫か」
助け出してくれる手をありがたく思いながら、は更夜の腕にしがみついた。
背中が激痛を訴えている。
更夜はその様子に気がついたのか、その場で待つように言って、一人奥へと進んで行く。
痛みに朦朧としながら、待つ事しばし。
何も手に持たないまま戻ってきた更夜を、は不思議そうに眺めていた。
「歩けるか」
そう問われ、は激痛と向き合いながら考える。
体は無理だと言っていたが、首は縦に振られた。
これ以上迷惑をかけたくない、と思ったのだった。
「掴まるといい」
そう言われて、腕を出される。
は腕の力を振り絞って、出された腕を握る。
激痛から漏れそうになる声を、必死に堪えて着いて行く。
足場の悪い赤苔の地帯を抜けると、平たい洞窟のような場所に出てきた。
数箇所に光があり、それが石だと判る。
更夜の言っていた、珠の在処だろうか。
その奥に一際輝いた緑の光を感じ、はぼんやりとその光を見つめていた。
ぼんやりとした光は、少し大きくなったような気がした。
更夜に、あれは何かと問おうと口を開けた瞬間、体からすべての力が抜け落ちるのを感じ、光が大きくなったのは、視界が狭まった為だと気がついた。
が気づくと、そこは緑の光で満ちていた。
体を包むような光。
首を動かし、辺りを確認する。
「どうだ」
問われる声の方角をみると、更夜がそこにいた。
座って、じっとを見ている。
どうだ、と問われた意味を考えていると、ふと、体が軽い事に気がついた。
ゆっくりと起き上がってみると、背中の痛みを感じない。
腕にあった傷痕を確認してみると、それは綺麗に消えていた。
「これ、は?」
「この玉は、傷を癒す」
そう言って、緑の小さな玉を見せる。
「ここにあるのは、これの原石だ。この洞窟の中で、一番大きな石がそれ」
更夜はの下を指差した。
緑の光の正体は、淡く光る石だった。
外傷よりも、体内の傷が酷かったらしい。
すると、ここに来たのはのためだったのだ。
「ありがとう…」
そう言って、大きな石の台から降りる。
更夜は黙ったまま立ち上がり、さらに奥へと向かう。
すると、小さな泉が出てきた。
泉は淡く白い光を放っていた。
「赤い石と、青い石を拾って、ここへ」
小さな袋手渡され、は言われるままに泉に入る。
更夜も泉に入り、他の色の石を拾っているようだった。
体の調子をすっかり取り戻したは、石を集めるのに夢中になっていた。
「きゃっ!」
夢中になっていたが為、足を滑らせてひっくり返る。
意外と深い場所があって、そこに嵌ったのと、焦ったのが重なって、は前後左右が判らなくなって、必死にもがいていた。
もがいていると、背後から両脇の下に腕が入る感触がして、勢いよく引き上げられる。
「げほっ!げほっ!」
「大丈夫か」
そう問われて、は何度も頷いた。
しかし、水が鼻に入ったのか、むずむずする。
「くしゅん!…ふっ…くしゅん!」
何度かくしゃみを繰り返し、それが止まったのに安堵して、助けてくれた人物を見ると、更夜は少し横を向いていた。
何かあるのだろうかと思い、視線を追ってみたが、そこには岩肌が見えるばかり。
きょとんとして、更夜の正面に回ってみると、体ごと逸らされた。
しかし、よく観察していると、肩が小刻みに震えている。
「ひょっとして…笑うのを堪えているの?」
そう聞いたのがいけなかったのか、更夜は噛み殺しきれない笑いを漏らした。
「あ!ひどい!いっぱい水を飲んで、苦しかったんだからね!」
そう言えば言うほど、火に油を注ぐように更夜の笑いは収まらない。
その様子に、もつられて笑った。
一通り笑い終わった二人は、再び作業に戻り、袋を石で満たした。
洞窟を出ると天犬が待っており、二人は空へと舞い戻る。
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