ドリーム小説




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濡れた服を乾かすために、樹海に降り立って火を起こす。



天犬は狩りをするのか、飛び立って行く。



「あのね…」



焚き火の小さな炎を見つめながら、は更夜に言った。



「私ね、今日始めてろくたに乗るときに、不思議な感じがしたの」



「不思議?」



少しだけ打ち解けたような更夜の声色に、少し安堵しながらは続ける。



「更夜が差し出してくれた手が…とても嬉しくて、でもなんだか泣きそうだったの。嬉しくて、泣きたくなるなんて…おかしいよね」



更夜は遠くを見るように宙を仰いだ。



「判るような、気がする」



「本当?」



更夜は小さく頷く。



「でもね…お父様の安否を確認したい。麩哩を助けたい。あの小さな子を助けたい。そう思って黄帝に祈ったのに、それを全部忘れてもいいなんて…酷い事考えた。その時祈った気持ちは、今までにないくらい強いはずなのに…それに答えてくれた声もあったのに。誰かを探さなければならないのに…差し出された腕を放したくなくて、この腕の為なら、どんな事でも出来るって、思ったの…」



「それも、判るような気がする」



「本当?」



食い入るようにして見つめると、更夜の瞳が合い、しばし時が止まる。



先に目を逸らしたのは、更夜だった。



「何か、来る」



緊張した声に、も身構える。



更夜はすっとの前に出て、両手で後ろに匿うように動く。



木と更夜に挟まれ、の視界は遮られた。



ぐるぐると喉を鳴らしながら近付く音を聞き、耳をすませた。



足音は一つ。



一匹だけなんだろう。



もう目前に迫っているような音だった。



更夜の後ろに出された腕が、を横に引く。



同時に狼のような獣が見えた。



更夜は玉の披巾を探り、青い物を投げつけた。



ふいに口に含まれた珠に、獣の目は急激にとろりとしたかと思うと、その場にへたり込んだ。



一瞬の出来事に、は呆気に取られてそれを眺めていた。



突っ立っているの手を更夜が掴み、そのまま駆け出す。



駆け出してすぐに天犬が舞い降りてきて、二人を乗せる。









ろくたは二人を乗せて、またの知らない場所に降り立つ。



そこも樹海だった。



更夜は知っているようだったので、は安心して着いて行く。



そこには小さな木立に囲まれた、ほんの僅かな空間があった。



「今日はもう、眠った方がいい」



そう言われたは、頷いてそれに従った。



木に背を預け、眠る為に瞳を閉じる。



隣に更夜の座る気配がして、はそれだけで安心感を覚えた。



「ねえ、更夜。人ってね、半身がいるのだと思う?更夜を見ていると私、なんだか自分を見ているような気がするの。性格も外見も、きっと全然違うのにね…何故かしら…」



言い終わったのか、終わってないのか判らない内に、は深い眠りに落ちた。



そして、それに答える声はなかった。








翌日目が覚めると、の頭は傾いていて、更夜の肩に預けるようにして眠っていた事に気がつく。



頭を起こしたの動きに、更夜の瞳がゆっくりと開かれる。



慌てて立ち上がろうとしたは、何かに引っ張られて尻餅をついた。



よく見ると更夜とは、一枚の布に包まれて眠っていたようだ。



目の覚めた更夜はゆっくりとその布を外し、自らの体に巻きつける。



寒くないようにしてくれていたのだろう。



は少し気恥ずかしく思いながらも、その優しさに感謝した。



二人は木々の間から出た。



ふと顔に冷たい感触を感じ、は空を見上げた。



雨が降っていた。

空を見上げたままの格好で、木々の合間から見える天を覗いていると、ふと記憶が蘇る。





雨の中の祈り。




天に届いた祈り。




響く声。




『―――守護者を探しなさい。どんな―――』




はっとして、は更夜を振り返る。



「更夜…」



呼ばれた更夜はに向き直り、その瞳を見つめた。



「少しだけ…思い出した…。守護者って、何の事だか判る?」



ぴくりと眉が動いたのを、は感じ取った。



「何の守護者?」



「何の…」



は首を振って判らないと言った。



「門の守護者?」



令乾門、令坤門、令巽門、令艮門。黄海へ続く門には守護者がいる。



その事だろうか。


いや、だが、ここはもう黄海だ。


安闔日にしか現れない門の守護者を、黄帝が指定したとは思えない。



となると、何の守護者だろう。



はっとなっては前を見た。



「麩哩…」



は麩哩の言った事を思い出そうとした。



しかし、どうにも靄が掛かったようで、思い出せない。



「更夜。お願いがあるの。私を見つけた洞窟の近くにある、荒野に連れて行って欲しいの」


更夜は何も答えずにろくたを呼んだ。


それが了解の意だと感じ取ったは、何も言わない更夜に感謝を込めた眼差しを投げた。


空を駆けて、惨劇の起こった場所まで戻る。


そこにはまだ、僅かな物が残っていた。


刃物や甲が転がっており、はまたしてもその時の感情が蘇った。



初めて呼んだ、と言う声を、まだ鮮明に覚えている。



麩哩の言った最初で最後の言葉。



「ここに…麩哩が横たわっていたの…」



はそう言って地面に手をついた。



死体はすでになかった。妖魔に食われたのだろうか。



麩哩と初めにした会話は何だっただろう…



「ああ、そうか…。死体を埋めようとして、怒られたのだったわ」



「黄朱にか?」



一人の世界に居たは、頭上から降る声に、我に返った。



「ええ…剛氏の麩哩に。私の父とは違う人に雇われていたわ。お前は黄海を知らない。知ろうとしなければ死ぬぞって…」

そう、そして後日、はどうやったら生き残れるのか、麩哩の元へ聞きにいった。



続く






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麩哩(ふり)を思い出して下さい。

思い出せない方は、すぐに次へ〜♪

                        美耶子