ドリーム小説




Welcome to Adobe GoLive 5



榴醒伝説


=2=




そして、後日。

浩瀚から正式に任命され太宰となり、金波宮に上がった。

天官に挨拶をすませたは、そこで鈴と再会する。

「久し振りですね」

「はい、太宰。お久しぶりでございます」

「今は誰もいないのですから、普通に話して頂けませんか?」

くすり、と鈴は笑って、に言った。

「それなら、さんもよ?」

「あ…」

顔を見合わせて笑いあった二人は、忙しく走り回っている祥瓊を捕まえて、再会を喜びあう。

聞けば鈴は、先日まで才に居たのだという。

籍が才にあったため、慶に仕える事を采王に報告しに戻っていたようだ。

長旅を労って、はふと思いついた。

「ねえ、お二人に聞きたい事があるんだけど…」

何事かと目を向けた二人に、は天官について聞いた。

「判らないわ。どう言ったお人だとか、まだ私にも判らないの」

そう言ったのは祥瓊で、そう言えば、と言ったのは鈴だった。

「内宰は元々内小臣で、陽子が抜擢したそうよ」

「そうですか。よく出来た方なのかしら」

「さあ…でもそうなんじゃないの?」

祥瓊はそう言ったが、鈴は首を傾げていた。

「陽子の目って、あんまり信用しちゃいけないと思うの」

「そう…なの?」

少し不安を覚えたは、首を傾げたままの鈴に聞き返す。

「だって陽子ったら、虎嘯を疑っていたのよ。遠甫を攫ったのは虎嘯だと思って、殴り込んできたんだから」

「な、殴り込んで…」

「うん」

「判ったわ…これからじっくり観察する必要があるって訳ね」

そう意気込むに、鈴と祥瓊は目を見合す。















翌日からは、天官達と深く対話する事に専念した。

路寝へと続く宮道で、は一人の人物を発見し、その足を止める。

「内宰」

太宰に呼び止められ、内宰は立ち止まった。

「少しよろしいかしら」

「はい。いかがなさいました?」

「少しお聞きしたい事がありまして。内小臣ですが、どういった方なのでしょう?言葉数も少なく、あまり内を出さない方なので…」

「終始控えめな者でございますが…何か問題でもございましょうか?」

「いえ、問題などは…内実を知りたいと思ったものですから。指示を出す位置におられる方に、お聞きするのがよろしいかと」

「さようですか。私も個人的に親しくしておる訳ではございません。場末の出身だと聞き及びましたが…他には特に存じ上げません。お力になれず、申し訳ないですが」

「いえ…ありがとう。足を止めてしまいましたね。これから主上の許へと向かわれるのですか?」

「はい。朝餉の間に、主上の臥室を整えようと思いまして」

「そう、大変ね。ご一緒してもよろしいでしょうか?」

がそう言うと、とんでもないと返事が返ってくる。

「それが私の務めでございます。同行して頂いても、手をおだしにならないで下さい」

「それは、ええ。もちろんよ」

内宰は頭を下げ、では、と言って歩き出す。

歩きながら、内宰はに質問をする。

「太宰は麦州の出身だとか…」

心臓が少し跳ねたが、それを微笑みで隠して答えた。

「ええ。州司徒でございました。何か問題でも?」

内宰は驚いた表情でを見た。それにも負けじと、は一層微笑む。

「州宰だとでも思っておりました?」

ああ、と言って内宰は頷いた。

「申し訳ありません。詮索したかった訳ではございませんが、逆に私どもは太宰をよく存じ上げませんので」

「あら…それもそうですわね」

そのような事を話しあっている内に、路寝へとたどりつく。

すでに控えていた内小臣らは、内宰の指示の元、機敏に動き回っている。

ほぼ終わろうかと言うときに、陽子が戻ってきた。

「太宰」

知った顔を見て、陽子は嬉しそうに寄って来る。

「お加減はいかがですか?」

「うん。今から朝議だな。そこまで一緒に行かないか?」

「はい、喜んでお供いたします」

陽子の後ろには大僕が控えていた。

ちらりと虎嘯に目を向け、内宰らにも視線を這わせたは、微細な空気の乱れを読み取った。

しかし、何にも気がつかないふりをして、内宰らに後を任せ、大僕を伴って出て行く陽子に付き従う。

誰も居ないのを確認したは、虎嘯に向かって挨拶をした。

「お初、お目にかかります、大僕。と申します。青からお話を伺っておりましたわ」

戸惑ったような虎嘯に、陽子が頷いて言う。

は大丈夫だ。冬器を集めた本人だし」

「ああ、あの…」

虎嘯は納得したように言って、頷いた。

「桓タイには随分と助けてもら…」

「主上」

言いかけた虎嘯は後ろからの声に、口を閉ざした。

振り返ると景麒だった。

景麒には、就任して早々に挨拶はしていたので、は景麒に朝の挨拶をすませると、朝堂に向かうため一人、その一行から外れた。

その日の朝議は、取り立てて大きな事は何もなく、比較的穏やかに纏まった。

朝議が終わり、は慌しくその場を後にする。

天官を捕まえては話をし、名前と役職を叩き込んでいく。

目まぐるしく動きまわっている自分を省みて、これが現在の慶国なのかもしれない、と人知れず考えるだった。






















数日が経過し、は太宰府から朝堂に向かう。

太宰府から戻れない日が幾日も続いて、与えられた官邸をついぞ見ることはなかった。

予想していた事でもあり、今しばらくは仕方がないと割り切り、疲れているのを隠すかのように背筋を伸ばす。朝堂にはすでに高官が揃っており、はその中に禁軍左軍将軍と冢宰の姿を見つけ、そちらに歩いていった。

「浩瀚様。朝議の後、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

頷いた浩瀚に、はありがとうございますと言って、一歩下がる。

その日の朝議では、数名の移動が言い渡された。

紛糾するその場を、は冷静に見ていた。

意見を言う者の顔に注目し、その動向を窺う。

なんとか終わったのを合図に、桓タイから声がかかる。

「冢宰府に来るようにと、浩瀚様が」

それに頷いて、桓タイと供に冢宰府へと赴く。

冢宰府では、書面に囲まれて埋もれそうな浩瀚がいた。

「これは…すごい量ですね…」

「ああ、まあそうだな。それで、話とは?」

浩瀚にそう促されて、は静かに切り出した。

「主上の身の回りを世話する、下官のことなのですが。現在関わっている者をご存知かと思いまして」

浩瀚がに問う。

「何か問題でも?」

「問題と言うほどの事でもございませんが…」

「人に問題がありそうなら、お傍につけるのはどうかと思うのだが?」

「ええ…でも、それでは充分なお世話は出来ません」

「そんなに多いのか…具体的には?」

浩瀚の問いに、は戸惑いを見せ、答えるのを躊躇っている。

言っても良い物なのか、判断がつかないようだった。



桓タイに呼ばれて、は顔を上げた。

「ここ数日、対話のために走り回っていただろう?何度か見かけたぞ。その上で、浩瀚様にお話をしたかったんじゃないのか?」

「それは、ええ…。でも、まだ深く知った訳では…」

「少なくとも、天官の内、十数名と話をしているのは見た」

「さすがに、よく見ている」

感心したような浩瀚の声に、桓タイは慌てていたが、うっすらと赤い顔を隠しきれなかった。

赤くなった桓タイを他所に、は意を決して浩瀚を見る。

「では、正直申し上げます。女御で言えば二名、女史は一名、夏官からは三名」

浩瀚は溜め息をつきそうな顔で、を見ていた。

「六名もいるのか…その六名を主上から遠ざければ良いと?」

「いいえ」

はきっぱりと否定し、

「路寝において、その六名以外は信用できません」

と言って浩瀚の答えを待った。

しばし唖然となった浩瀚だったが、気を取り直して口を開く。

「かなり大幅に人員が減るな…だが、仕方がないだろう。がそう見取ったのだから、それに沿うのが最良であろう」

「ありがとうございます」

はそう言って桓タイに向き直る。

「夏官については、将軍の方が詳しいと思うのですが…虎賁氏と大僕は安全でしょうが、他の者はよく判らないのです。これを機に、再度検討をお願い致します」

は桓タイに向かってそう頼む。

「承知した。少しずつだが様子を見て増やしていくつもりだ。もとより、夏官の方はあまり身辺に近づけていない。虎嘯に任せているから、大丈夫だとは思うが、まだ信頼出来る者は、の言った人数だと思ってくれていい」

多少なりとも、想像を超えて多くの人数が、上げられる事を淡く期待したのだが、予想が見事当たったは頭を垂れた。

その様子に、浩瀚は提案を出す。

「わたしの官邸にいる物を、路寝に上げれば…」

「なりません」

まだ言い終わらない内に、はそれを否定した。

「信頼は出来ます。それに気さくな方が多く、主上におかれましても、気楽だとは思います。ですが今は、まだなりません」

「そう返ってくるとは思ったが…一応、何故だと聞いておこうか」

「天官の多くは、礼儀を重んじ、気安いのをよしとしておりません。中には主上に対して暴言を吐く者もおります。桓タイや虎嘯に対しても、よく思っていないのです。しかる位置の修学を納め、さらには身元のはっきりしない者を、簡単に蔑む傾向がございます。そういった環境の中に置いて、安心できる者がおりましょうか?」

「わかった、すまない」

「いえ。お忙しい所に、我侭を言って申し訳ございません」

ですが、とは続ける。

「これが、天官の…いえ、慶の実状にございます。意味を持たぬ高い矜持をお持ちの方が大勢おられる。王宮に侍る事を、誇りに思う事は良いのですが、それを鼻にかける傾向が非常に強いのです。悪い人間ではありませんが、良い人間でもありません」

そう言い残して、はその場を辞した。



続く






100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!





今回苦労します。

ええもうそりゃかなり☆

だって天官長ですから。

…。困ったもんだ。

                美耶子