ドリーム小説




Welcome to Adobe GoLive 5



榴醒伝説


=4=




翌日の朝堂で、は珠飾りを胸元に出していた。

冬官の長、大司空がの近寄って行くのを、桓タイは横目で追いながら見る。

そっと物音を立てないように、そちらへと近付いていく。

「太宰。すばらしい珠飾りですね。何の石ですか?」

は問われて、にこりと笑みを返した。

「これは榴醒石ですわ」

そう言うと大司空は驚いて石を見つめた。

「ほう、榴醒石の加工した物とは珍しい。桃色も…珍しいですね。細工もとても素晴しい」

感嘆したような声に、は嬉しそうに答える。

「ありがとうございます。これはお慕いする方から頂いた物なのです」

臆面もなくそう言ってのけたを、大司空は驚いて見た。

「いや、そうでしたか。これは失礼を」

「いえ。その方の次に大切な、私の宝なのです」

「なんとも…。よほど思われているのですね、その方は」

そう言って、大司空は傍を離れる。

見事な加工だと言いながら戻る大司空を、桓タイは見ながら一人笑う。

やがて朝議が始まった。

の想像では、かなり荒れるだろうと思っていたが、当の天官長があっさりと承諾した事もあり、意外とすんなり終わった。

不満の顔は多かったが、路寝における人員の問題だけだったので、地官、冬官、春官、秋官からは何の反発がないというのも、大きかったように思う。

朝議の後桓タイと供に、紙面に名を連ねられた者を召集し、王と宰輔、それに冢宰を交えて話し合いが始まる。

「台輔の側使えの者は、以前からおります者を信用してよいと思います。ただやはり、幾人かは移動して頂きますが」

の言に、景麒は無言のうちに頷いて肯定を示す。

「ありがとうございます。仁重殿に出入りを許せば、それだけ主上に近くなりますので。次に女史ですが、こちらは祥瓊にすべてをお任せいたします。手が周らなくなれば、私も加勢いたしますが、まずそれはないと思っても良いでしょう」

そして、和州から来た女を見る。

「貴女は鈴と供に女御をお願いします。こちらはさらに人手がいるので、私も出来る限りお手伝いをしに行きますね。内宰らには路寝の外で待機して頂きますから、そこまで運んだりと大変な事も多いですが、宜しく頼みましたよ」

そこまで言った所で、陽子が発言する。

「私が運んで行けば良いのではないか?」

「それはなりません」

何故だ、と問う王に、は説明を始める。

「内宰らにとってそれは、屈辱的な事だと取られてしまうからです。鈴が持っていけば、まだそれほど角は立たないでしょうが、王自ら行くとなれば、何故自分が締め出されたのかと、深く考えずにはおれないでしょう。それはどんな亀裂を生むかもしれず、そのような危険な事をするくらいなら、締め出した意味がございません」

なるほど、と感心して言った王は、理解したようだった。

「では、布をたたんでおくと言うのは?」

「それは、大変助かります」

は微笑んで返し、再び口を開いた。

「それから、小臣ですが」

はそう言って桓タイを見た。

頷いた桓タイは虎嘯を見る。虎嘯は一人を手招きし、紹介する。

「俺の仲間だった奴だ。機敏だし力もある。警護は任せても大丈夫だ」

虎嘯が言い終わり、桓タイが続く。

「軍の中から早急にもう一人を選抜いたします。大僕に小臣が一人では、いくらなんでも無理がありますので」

一同は頷いた。

それからも細々とした事柄を話し合い、その話は夕方まで続いた。








一先ずは安心だな、と太宰府に戻ったは思っていた。

忙しい事に変わりはないが、不安の要素は減った。

鈴や祥瓊にかかる負担は大きいが、彼女らはむしろそれで張り切っているし、何よりも安心して任せておけると言うのは、かなり助かる。

「私も頑張らなきゃ」

そう言って、は今日の分の書面に取り掛かる。


















それからは、慌しく毎日が過ぎて行った。

冬の寒気は知らぬ間にやわらぎ、新緑の息吹を感じる季節へと移行する。

は茶器を手に、陽子のもとへと向かっていた。

政務は終わっている時間だが、恐らく陽子のこと、まだ何かしら書面を持ち込んでいるのだろうと思い、一息つけさせようと茶菓子を用意したのだった。

「失礼いたします」

「ああ、か」

想像通り、王は書面に向かっている所だった。

「やはりまだ書面に向かっておられましたか…」

はそう言って茶器を置く。

たおやかな音をたてて、茶杯に注ぐ一連の動作を、陽子はただ眺めていた。

「どうぞ」

「ありがとう」

から眼を逸らせないままの主に、疑問の視線を投げ問いかける。

「どうかなさいましたか?」

「いや…噂を聞いて。納得するなあと思って」

「噂ですか?」

「うん。はきっと育ちがいいのだろうと言う噂。立ち振る舞いの優雅さ。気品の漂う声。是非一度お声をかけて頂きたい物だと。酷いところでは、柳眉を逆立てて見たいなども聞いたぞ。ちょっとここまで行けば変態だな」

そう言われたは、嫌そうに顔を顰めた。

「褒められるのは嫌いなのか?あ、やっぱり最後のは嫌だったかな?」

予想外の反応に、陽子はそう尋ねた。

「いえ。嫌と言う訳ではございませんが…。あまりにも、私の内実と一致しないものですから」

「他人の評価なのだから、内実と一致するはずがないだろう?」

「ああ…それもそうですわね。でも、やはり自分が優雅などとは、思えないのですが…」

「そうかな?はとても女らしいし、気品もあるのだと思うよ。さながら王のようだと囁く声も納得できるな」

「何を仰いますか!」

「まあまあ。それにしても、桓タイは大変だな。これだけの人気者を独り占めにしているんだから、風辺りもきついんじゃないかな?」

陽子にそう言われて、は心臓が跳ね上がった。

「ご存知…だったのですか?」

「うん。虎嘯から聞いた。天官の誰かに迫られていたんだって?桓タイが扉ごと吹っ飛ばしたようだけど」

意地悪く言われて、は火照る顔を隠しきれなかった。

「凄い力だからな。さすがは将軍」

「恨みますわ。虎嘯を」

そう言ったが可笑しかったのか、陽子はついには噴出して笑う。

「主上。笑ってないで、お茶を召し上がれ。冷めてしまいますわ」

悪いと言った陽子は、まだ笑ったままの顔で、茶杯に手を伸ばす。

ふと、笑いが収まり、茶杯を持ったままに問いかける。

「最近、虎嘯は元気がないようなんだ。から見て、どうだ?」

問われては虎嘯の姿を思い描く。

「ええ…少し」

元気がないと言うよりは、少し覇気がないように思える。

「やはり、寂しいのだろうな。虎嘯の家族は弟の夕暉だけだから」

「弟さんは今?」

「瑛州少学の寮に。乱の時は、回りにたくさん人がいたからな。それとのギャップが激しいのかもしれない」

「ぎゃっぷ?―――ああ、そうですわね」

ふいに出た蓬莱の言葉に、戸惑いを感じたは思わず笑った。

「何で笑ってるのか、当ててみようか?」

「はい」

「耳慣れない言葉に、一瞬理解できなかった」

はただ笑いながら頷いた。そして、ふと真面目な顔に戻し、陽子に言う。

「不思議ですわね。私は蓬莱から来たのに…その蓬莱の音が耳なじまないなんて」

「うん。と言っても、これは英語だから、正確には蓬莱の言葉ではないんじゃないかな?」

「ああ…そうですわね。主上の時代では、よく使った言葉ですか?」

「そうだな。当たり前のように使っていたから、あまり違和を感じないんだが…」

「それこそ、ギャップですわね。ジェネレーション・ギャップ」

なるほど、と真面目に納得している陽子が、妙におかしい。

は再び笑い、陽子も習うように笑った。



続く






100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!





今回は陽子さんドリームと言うことになりましょうか…

この際、色々な人と仲良くなって下さいね♪

さて…色々な人を登場させねば☆

                               美耶子