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金の太陽 銀の月 〜銀月編〜


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その後も何もなかったように、利広は訪ねて来た。

も何もなかったかのように振る舞っていたが、何処かぎこちない空気が、二人を取り巻いている。

そしてそのまま、数ヶ月が過ぎようとしていた。









奏に冬が訪れたある日、の前に、怪我を負った利広が現れた。

「利広…!どうしたの…その怪我…」

県城の中で、は蒼白になって利広に駆け寄る。

「とにかく、こちらへ」

は利広を居院に連れて行く。

初めて入るの居院は簡素であった。

椅子と卓子が一対。

衣類などを入れてある箱が一つ。

臥牀が一つで以上だった。

椅子に利広を座らせたは、水をくんで来て傷口を洗う。

簡単に手当を施すために傷をよく見た。

利広は腕と首の近くを切っている。

「大丈夫?痛いでしょう…」

「ありがとう。すぐに治る、大丈夫だよ」

「何をしていたの…?」

泣きそうな表情で言うに、利広は笑って答える。

「妖魔に遭ってしまってね」

「妖魔…何処に行っていたの?」

「慶の様子を見に…新しい王が起ったらしいんだけどね、偽王みたいだよ。今慶は内乱状態だった」

利広がそう言うと、変わらぬ表情で答える

「危ない所に…駄目じゃない…」

ぽとりと落ちた涙は、一滴だけ。

「ちゃんと自分の立場を理解しているの?」

「わたしが死んでも、誰も困ら…え?立場?」

「困らないはずないでしょう…家族が悲しむわ…もちろん、私も悲しい…」

「家族がいるなんて、話…」

利広が最後まで言い終わらないうちに、は利広の手当し終えた腕にそっと手を添えて言った。

「知っているわ。分かってしまったもの。これでも奏の国に仕えているのよ?分からないはず、ないでしょう?」

寂しげに言ったは、利広の腕を見つめていた。

「他国の衰退で…荒民の対策を講じなければならない。近い国なら、なおの事…」

…」

利広はその名を呼んで、を引き寄せた。

髪に顔を埋めて、深呼吸をする。

「利広…私はただの山客だから、太子にそぐわない事も分かっているわ。だけど、お互いが想い合っていれば、生きる糧になると信じているの。私の暗闇には、利広と言う月がある。あまりにも眩しすぎて、時には隠れたくなるけれど…でも、私は隠れないわ。月の下でしっかりと道を見ていなければ、私が私でなくなってしまうの」

はそう言って、涙が浮かんだままの瞳を利広に向ける。

「利広の中には、暗闇が存在する。それこそ、私なんかには理解できないのかもしれない。私は六百年も生きていないし、利広の闇が何によるものなのか知らない。憶測だけでも、理解することは出来ないの…。だからせめて、一条の光になりたかった…太陽にはなれないけれど…少しでも暗闇を照らす光になれたらと、そう思っていたの…だけど、それが私には出来ない…利広がそれを望んでいないから」

「それは…違う」

の見つめる先で、利広の悲しい瞳が揺れる。

「わたしが愚かだった。が言った通りだ」

利広はそう言うと、体ごと顔を向けてに言う。

「今、分かった。にとって、わたしがどうあるのかは分からない。だけどわたしにとって、こそが月だったんだ」

「私が…月?」

問い返すに、利広は頷いて答え、空を見上げた。

の光は、遠くて儚い。

過去に会えずにいた半年間、ずっとを捜していたと言うのに、その微かな光の所在が分からずにいた。

太陽と言うよりは、むしろ月なのだろう。

月は暗闇にあって、その存在に気がつかない事があるのだ。

見上げてみて、初めて気がつく。

「わたしがを照らしたいと、初めはそう思っていた…だけど違った。知らずに照らされていたんだ」

の心中を照らそうと、太陽になれないかと聞いた。

だけど、本当は自分のほうこそ照らして欲しかったのかもしれない。

その淡い光で…

己と言う存在を消してしまわぬ光で。

暗闇の中では、その光こそが必要なのだ。

「私に、少しでも利広を照らす事ができるなら、いつでも照らしてあげる。太陽にはなれないけれど、せめて夜道を照らすぐらいには…」

そこまで言ったの口は利広によって塞がれていた。

いつもより強い力で頭を固定され、いつもより深い口付けを受ける。

もう、お互いが何も聞こうとはしなかった。

求めるものを理解したからだった。

心を癒すために体を重ねる事に、何の抵抗もない。

肌寒い奏の冬は、肌の温もりを二人に伝え、抱き合うことの意味を教えていった。







































は衾褥の中で、利広の胸元に頬を預けていた。

じわりと伝わる肌の温度に、ぽつりとは呟く。

「道を失った王は、人肌の温もりを忘れてしまったのかしら」

「人肌の…?」

問い返した利広は、肩と鎖骨の間で頷く頭を見る。

「ええ…とても大切なもの…こうして感じる喜びを、失ってしまったのかなって…」

「そうかも…しれない」

全てがそうとは言い切れないだろうが、当てはまる者は多いだろうと思う。

「でも、この国は大丈夫よ」

「…」

「利広はそう思わない?」

「無謬の物なんて、この世にはないよ」

「でも、この国には太陽がいるのでしょう?私を月だと言ってくれるのなら、月だっている。昼も夜も、辺りを照らし続ける物があるのなら、大丈夫だと…私は信じているわ」

はそう言うと、利広の胸元から頬を離し、顔を上げた。

さらりと落ちる髪が、利広の鎖骨にかかる。

冷たい空気が頬に触れたが、利広に顔を見せたは小さく笑って言う。

「今、私の頬は人肌を離れた。利広が温めてくれるのを、切望しているわ」

くすりと笑った利広は、手をの頬に当てる。

「ほら…こんなにも幸せ。人が人である以上、間違いのない人間なんていない。でも、この手がそれを諫め、見守ってくれるのよ。肌の温もりが大切だと感じる限りは、きっと大丈夫」

「そうかもしれない。わたしの手は、を温めたいと思っているよ。いつまでも」

そう言うと、利広の手はの頬から離れて後ろに廻る。

顔を引き寄せそのままの体制で口付けると、の頬は再び胸元に収まった。

この温もりを手放したくはないと、強く思う夜であった。



続く






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一年以上も待ったとは…

紳士ですな☆

           美耶子