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金の太陽 銀の月 〜銀月編〜


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空が東雲色に染まろうかという頃、二人は港町の近くまで来ていた。

が感動した白海も、今は赤い色へと変貌していた。

しかし銀の月は赤海までもを、不思議な色に染め上げて、また違った感動をに与えていた。

「才を飛ばして、奏に着いてしまったね」

「ここが、奏…?」

は辺りを見回していた。

赤海に面した港町。

そこはとても活気のある所だった。

「朝餉が済んだら、一気に首都まで行ってしまおう」

そう言って利広は歩き始めた。

急いで後に続く

歩き出してすぐ、街の喧噪が大きくなっているように感じた。

何事かと辺りを見回していると、人々が一様に駆けて行くのが目に入る。

何かあったのだろうかと、利広に目を向けた。

「海から何かが流れ着いたらしい。見に行くかい?」

特に興味があったわけではなかったが、あまりに大勢の人々が向かっているので、はなんとく返事をし、街の人について、赤海の見える場所まで移動してきた。

大勢の人が囲いを作っている所へと、二人は進んで行く。

人々は何かを囁きあっているようだったが、あいにくとには何を言っているのか理解する事は出来ない。

代わりに人垣の合間から、ちらりと覗く物を必至に見ようとしていた。

赤い物が視界を掠める。

「あれは…!」

は人垣を押しのけ、前へと進んでいった。

利広もついて前に出る。

「五星紅旗だわ…」

ここに流される直前まで見上げていた、五星紅旗が水を含み、重たげに置かれていた。

旗に手をかけ、何だとでも言いたげな男に、は声を投げた。

「五星紅旗よ。中国の国旗だわ」

ざわついていた民衆を、一声のうちに黙らせたは、驚いて辺りを見回した。

利広がすっと肩に手を置き、側に寄ってきて通訳をする。

「崑崙の旗だそうですよ」

再びざわざわ言い出した声に、は利広を見上げる。

「大丈夫。側についているから」

こくりと頷いたは、胸元に手を当てた。

手に伝わる振動を感じなくとも、はっきりと分かる。

鼓動が早い。

目はせわしなく動き、他に流れて来た物がないのか、探し回っていた。

しばらくすると、役人らしき数名が到着し、五星紅旗を持ち上げて見聞する。

民衆は散るように言われていたようだったが、はその場所から動くことが出来なかった。

利広に引かれて、少し離れた所でその様子を見ていた

しかし耐えられなくなって、やはり近くまで寄って行った。

「あ…」

小さく言ったの声に、役人は振り返った。

「なんだ、お前は?」

言葉がはっきりと分かったが、はそれに気がつかなかったのか、震える手で足元に落ちていた物を拾った。

「これは…お母さんの…」

みるみる瞳に涙が生まれ、はその場で泣き始めた。

利広が近寄ってきて、何事かと覗き込む。

…?」

「これ…お母さんのイヤリング…なの。五星紅旗と一緒に…流されて来たって事は…お母さんは…」

そう言って泣くに何を言えというのだろうか。

利広は頷いて、そっとの肩を抱く。

官府の者は、その場に散らばる様々な物を拾っていく。

どうしようかと少し迷った利広は、の肩から手を離し、声をかけた。

が山客であることを説明し、物品が流されたのと、同じ蝕でこちらに来たことを言い、集めた物を見せてくれるよう頼んだ。

、おいで」

立ったまま泣き続けていたに、利広の声がかかった。

は言われるままに足を出し、利広の側に移動する。

「見覚えは?」

集められた物を指さし、に問うと、新たな涙が頬を伝うのを見つけた。

はしばらく五星紅旗を見つめ、その後、逃げるようにしてその場を離れていった。





























何処をどう走ったのか、は狭い場所に身を潜めるようにして泣いた。

どれほど泣いたのか分からなくなった頃、はようやく顔を上げて立ち上がった。

そしてようやく、利広の存在を思い出したのだった。

探しているだろうかと、は街を歩き始める。

しかし、ここが何処かも分からない。

どちらに港があって、何処に行けば利広と会えるのか、検討もつかなかった。

どうしようか迷ったは、道行く人に尋ねた。

「あの、すみません」

の声に立ち止まった女は、振り返って訝しげな視線を送っていた。

「あの…港はどちらですか?」

そう問うたが、相手が返してくる言葉の一切が分からない。

しまったと思ったが、どうしようもなく、は頭を下げてその場を走り去った。

先ほどの役人の言葉が分かったため、他にも話せる人間がいるのだと思ったが、そうではないようだった。

諦めて、はとぼとぼと歩き出した。

とにかく港に戻ろうと、海の匂いを頼りに歩みを進めた。

しばらく歩いたは、本格的に迷っていることを悟った。

だが、今更どうしようもない。

とにかく歩いて、利広に会わねばと思っていた。























再び赤海が見えた頃、陽は随分と傾いていた。

殆ど一日をかけて、はようやく戻ってきたのだった。

しかし、こんな時間まで利広はいるだろうか。

ひょっとすると、もうこの街にはいないのかもしれない。

「どうしよう…」

じわりと目頭が熱くなる。

だが、はそれをぐっと押さえ込む。

今から思えば、自分は泣いてばかりだった。

利広にずっと慰められ、それに甘えて泣き続けていた。

だが、泣いた事によって何かが変わっただろうか。

気分が重くなるだけで、良い事など一つもなかったように思う。

陽の光を反射して瞬く赤海を見つめながら、はその場に座り込んだ。

足を三角に折り、じっと沈む陽を見つめていた。

夜の白海と赤海を、見せてくれた利広。

これまでは、利広から色々な物を与えられた気がした。

物だけではない、大切な物を、ただ施されるだけで、何も返していない。

そんな事にすら、今まで気がつかなかったのだ。

陽が完全に落ちると、はこの場に留まることに不安を覚え始めた。

また、街に戻って探した方がいいのだろうか。

それとも、利広はこの街にいないとして、他の事を考えた方がいいのだろうか。

そうが考えていると、背後から声がかかった。



はっと顔を上げたは、そのまま立ち上がって振り返った。

「り、利広さん…」

「よかった。心配したよ」

「利広さ…」

再会出来たことが、とても嬉しく感じ、思わず泣きそうになってしまった。

しかしは涙をこらえて、利広に謝った。

「ごめんなさい。逃げるような真似をしてしまって。せっかくお役人さんに頼んでくれたのに、何も言わないまま…」

「いいよ。気のせいだったと言っておいたから。それよりも無事でよかった。街を探してもいないし、どうしようかと思っていたんだ」

「探して…くれていたの?」

利広はの前まで来て言った。

「そりゃあね…。泣きたいのを我慢しなくていいんだよ?そんな泣きそうな顔で、じっと我慢されているより、泣いてくれたほうがいい」

「利…」

名を呼ぼうとした声は、せり上がってきた涙にかき消され、は下を向いて耐えようとした。

だが、利広の腕がを包み、再度泣いてもいいと言われてしまえば、もう我慢することは出来ず、は利広にしがみつくようにして泣いた。

しかしすぐに泣きやみ、は利広に言う。

「わ、たし…ここに…残ります」

「え?」

「母の物が…他にも流れ着くかもしれない…だから…ここに残って…それを、確かめたいの…折角、ここまで送ってきてもらったのに…何も返すことが出来ないのに…ごめんなさい」

「謝る必要なんて、何処にもないよ。それがの望んだ事なら、わたしは止める事はしない。それに首都ではないけど、ここはもう奏だからね。海客や山客にも理解がある。数年は補助もしてもらえるから…」

「…本当にありがとうございます」

は涙を拭いながら言うと、にこりと笑う。

この時利広は、今までで一番綺麗な表情だと思った。

同時に一番辛そうな笑顔に見えた。

を促して官府…県城まで付き添い、手続きが終わると、利広は港町を後にした。

少し眠かったが、その場に留まることは許されないように思ったのだ。

「ふう…」

ろくに挨拶もせずに、慌ただしく別れた二人。

利広のため息は、それによってつかれたのだろうか。

、元気で…」

肩の荷が下りたような、寂しいような、そんな心境だった。



続く






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別れてしまいました。

まあ、そんな事もありますね☆

                   美耶子