ドリーム小説




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吟酔


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どれ程眠っていたのだろう。

ふと目を開けると、辺りは暗闇だった。

物音一つ無いその様子に、しばし自分の置かれている状況が飲み込めないでいた。

ここは何処だったろうか。

「ここは…」

「ああ、気が付いたか」

ほっと安堵したような声が、すぐ側から聞こえる。

は声の方に顔をむけたが、そこに何も見つけることは出来なかった。

ただ漆黒の闇が見えるだけで、空間の感覚さえ危うい。

これはまだ治っていないという事だろうか。

そう思っていると、ふと灯りが点された。

房室の隅に、禁軍の将軍がいる。

「あ、将軍…」

「書状は大司馬にお渡しし、事情を話して春官府へ使いをやった。大宗伯からの返事もすぐに返ってきて、明日は一日ゆっくり休むようにと、大宗伯からの伝言だった…その、本当に申し訳ない」

改めて頭を下げる将軍。

は少し恐縮しながらその様子を見ていた。

ひょっとして、この人はずっと側にいてくれたのだろうか。

は牀からゆっくり足を降ろし、立ち上がってから言った。

「あの…ありがとうございました。もう、大丈夫です」

「そうか。そこまで送っていこう」

「いえ、そんな恐れ多い。一人で歩けますから」

そろりと足を出し、歩いてみせる。

本当にもうなんともなかった。

頭の痛みもすでにひいている。

「送らせてくれ。それぐらいしか出来ないからな」

「でも…ずっとついていてくれたんですよね?それで充分です」

にこりと笑って桓タイを見ると、扉に向かって歩いていく。

しかしが扉に到着するよりも早く、桓タイが扉を開けて待った。

同じように歩き出す桓タイをちらりと見たは、あえてそれ以上断ることはせずに黙って歩き出した。

すでに灯りはなく、射し込む幽光だけが宮道を照らす。

視界の悪い薄暗い宮道を、小さく躓きながら先に進んでいく。

それを勘違いしたのか、心配そうな気配が後ろから追ってくる。

ただ黙って歩いていると、少し気まずくなってきた

大丈夫だと言うことを証明する事と、その空気を打破することを兼ね、立ち止まって桓タイを振り返る。

「将軍」

「ん?」

併せたように立ち止まる桓タイ。

「将軍はどこの将軍なんですか?」

はそう言うと再び前進する。

和んだ空気が背後から追ってくるのを感じた。

「禁軍の左軍だ」

「え!じゃあ…」

は再び足を止めてしまった。

しかし今度は振り返らない。

禁軍左軍の将軍となれば、将軍の中でも筆頭になる。

しかもこの将軍、王直々に禁軍へ任じられているのだ。

慶が初めて迎えた、半獣の官職としても有名である。

現在の禁軍も、この将軍を基に構築されていると聞いている。

軍人の中では尤も王に近い存在ではないのか。

「や、やはり私はここで…もう、平気ですから、送って頂かなくても結構です!」

「ひょっとして、迷惑だったか…?」

「いえ!そんな!!」

慌てて振り返る

射し込んだ月明が桓タイの頬を照らしている。

「あ…」

思わず声を失った

柔和な笑顔がそれを見つめる。

首を傾げて次の言葉を待っているようだった。

「あの…やはり恐れ多くて…そ、それに私の自宅は外朝にあります。将軍は内朝にお住まいでしょう…?」

「気にする事はない。半年前までは禁軍に所属することすら、ありえない身分だったのだから。それよりも、俺のせいで痛い思いをさせてしまったのだから、何かお詫びをしたい」

「詫びなどいりません」

「それでは気がすまない」

「そう申されても…」

は顎に手を当てて考える。

何も思いつかなかったが、このまま下山させるのは、本当に申し訳ないと思った。

「それでは、いつかご馳走してください」

唐突に思いついた事を口にだしていた

慌てて口を塞ごうとしたが、桓タイは笑みを浮かべてそれに答える。

「分かった」

「で、では私はこれで」

はそう言い残すと、逃げるようにしてその場を去っていった。























「はあ、き…緊張したぁ…」

外朝に抜けると一気に脱力し、その場で座り込んでしまった。

将軍と自分の身分の違いを考えると、気さくに話してよい相手ではない。

それを送るとまで言わせてしまったのだ。

倒れたのは、自分の迂闊もあたったのではなかろうか。

もっと機敏に動いていれば、避けることが出来たはずだ。

そもそも、変な好奇心など起こさず、冬器になど近寄ってなければよかったのだ。

「大丈夫か?走ったりして」

「きゃあ!!」

座ったまま蹲るようにして身を縮める

頭上から振ってきた声に驚いたが、その声に聞き覚えがあった。

おそるおそる瞳を開け、見上げたそこには…

「将軍!な、何故…」

「急に走ったりするから、気になって追って来たんだが…気が付かなかったか?」

「ま…まったく気が付いておりませんでした」

「そうか。驚かせてしまったな…。でも追ってきて良かった。気分が悪いようだから」

そう言って座り込んだを見下ろす桓タイ。

勘違いされていることに気が付いたが、口は開いたままで何も言えない。

「立てるか?」

「…あ!!はい、立てます!大丈夫です!!」

急いで立ち上がった

それに安堵したように息を吐いた桓タイが問いかけた。

「心配だと言うことももちろんあったのだが、実を言うと…好きな物を聞く前に駆け出してしまうから、思わず追ってきてしまった。何が好きなのか教えてくれるとありがたいんだが…」

少し照れたように頭を掻いた桓タイ。

月華の中で見る将軍は、素朴でどこか憎めない笑顔をに向けている。

「好きな…もの、ですか…?」

おずおずと問い返すと、嬉しそうに頷く顔。

それが少し可愛いと、不謹慎にも思ってしまった。

自らの感情に動揺したが、また何も返せないのでは気まずい。

そこでやはり、頭に浮かんだ物を口に出していた。

「その…将軍は麦州の出身とか。麦州特産の吟酔ってご存じですか?」

吟酔の話が出たのは今朝の事。

ふいに麦州との繋がりを思い出したのだった。

「吟酔?それはもちろん。ああ、確か家にあったな」

「本当ですか!?」

「数日前に飲んだような気がしたから、間違いないとは思うんだが…」

「実は今朝知ったばかりなのですが、一度飲んでみたいと思っていたんです。もし将軍がお嫌でなければ、一口飲ませて頂けませんか?」

「そんなものでいいのか?一口と言わず、何杯でも飲んでくれて構わないが…それで詫びになるだろうか?」

「ええ、充分でございます」

にこりと笑ったの顔もまた、月明が照らし出していた。

桓タイは少し横を向いてに言う。

「…確か、明日は休みだったな。今から飲みにくるか?」

「え?いいんですか?」

「あ、でもまだ衝撃が残っているなら、やめたほうがいいか」

「いえ、体の方はもう…本当に何ともないんです。これでも一応仙ですからね」

「そうか…じゃあ、行くか」

そう言って桓タイは踵を返す。

また内朝へと戻るため歩き出した桓タイに、駆けるようにしてついていく

しばらく歩調を合わせるのに苦労したが、桓タイのほうがそれに気が付いて歩みを緩めた。

その時になって初めて、将軍の官邸に向かっていることに気が付いた。

しかし今更逃げる事も出来ず、緊張した面持ちで登っていく。



続く






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今日は酔っぱらいなので、

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                 美耶子