ドリーム小説




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翌日、朝餉の後。



は明嬉と文姫に、前日の続きを教授していた。





「ちょっと味見してもいい?」





「ええ、どうぞ」



文姫が小さな器に汁湯をいれ、こくりと呑む。





「う…か、からーい!これって、蓬莱の食べ物なの?」





「いいえ、こちらは戴の物ですわ。寒い国だからでしょうか、辛い物がとても美味しかったので、覚えておりました」





「そうなの。うん。辛いけど、確かにおいしいわね」





明嬉はその様子を笑って見ていた。





そして、初めてを見たときに感じた、何か切羽詰ったような物が、少し薄くなったのを見て取った。

自分のため、と言うのも嘘ではなかったが、救いを決して求めない口とは裏腹に、その心が悲鳴を上げているのを、明嬉は見抜いていたのだ。






を初めて見たのは隆洽だった。



近頃素晴しい剣舞を見せる朱旌が逗留していると、傍仕えの者から聞いた。



それを聞いた所で、簡単に降りて行けるほど、軽い立場でない事は重々承知していたが、何故か気になって仕方がない。



話を聞いた三日後、ついに誘惑に負けて、こっそりと隆洽まで降りていったのだ。



その朱旌はすぐに判った。



一目見ようとわざわざ遠方から来た人までいて、剣舞を行っている大途には人だかりが出来ていた。



供の者と逸れそうになりながらも、明嬉はそれを見ていた。



見事な剣捌きに加え、舞を見せるしなやかで柔らかい体。



見た目にも美しいその女性は、哀愁を湛えた表情で跳躍する。



不思議な光景であった。



しかし、見ながら疑問を抱く。



何をこれほどまでに見たかったのだろうと。

剣舞に興味がある訳ではない。



それなら、何故?



疑問を抱いたまま、それが終わるのをただ眺めていた。



銀を回収するために、回りだした女性が目前に立つまで、明嬉はぼんやりとしていたが、我に返り懐を探った。



その時、人垣に押されて明嬉はとぶつかる。



そのまま倒れて、謝ろうと立ち上がる直前、転がり落ちた旌券が目に入る。



そこに朱線はなく、焼き印が目に飛び込む。



瞬時に御璽だと気がつき、それが斎王のものだと判る。




「遵帝…?」



才ではなく、斎であったが為に、ふいに口をついて出た音。



その音にの動きが止まる。





顔を見ると、今にも泣きそうな表情をしていた。




隠すようにして旌券をしまうと、は笑みを作って立ち上がる。




手を伸ばし、明嬉を助け起こす。




「昔の御人ですが、ご存知なのですか?」




そう言われ、明嬉は頷いた。




「昔、助けていただいたんだよ」




「…私もです」




それだけ言うと、は再び銀の回収に回りだす。




人の群れが消えてなくなるまで、明嬉はその場に立ち尽くしていた。



やがて大途は普段の様子を取り戻し、は荷物を背負ってその場を離れようとしている。



それを明嬉が止めた。




「見事な剣舞を見せてもらったお礼に、何かご馳走したいんだけど、時間はあるかい?」




は投げかけられる声に、振り返ったが、しばらく考えているようだった。



「…では、お言葉に甘えさせていただきます」




茶と団子を突きながら、色々な話を聞く。




は十二の国を回りながら、各地の料理を覚えたり、文化を知ったりするのが好きなんだと言う。




話を聞いていると、明晰な人物なのが窺える。




文化や料理と言うが、国情にも詳しい。



「世界を回っているなんて、うちの次男坊みたいだよ」





半ば呆れたように言う明嬉に、は微笑みながら言った。




「では、私と気があうかもしれませんね」



そう言ったの表情を見取って、和やかになったのを感じた明嬉は、思い切って聞いてみる事にした。




朱旌だと思っていたのだが、と切り出し、その後の反応を待つ。




何も言わないに、明嬉は打ち明ける。



「現在の宗王が登極なさった時に、遵帝にはお世話になったのさ。色々と支援してくれて、豊かになったらお返しをしなければと、王と話をしていたのだけどねえ。あのような形でお倒れになるとは思ってもいなかった」





「王と、お話を…明嬉様は、官職についておられるのですか?」




「まあ、そのようなもんだよ。恩返し、と言うわけじゃないんだが、うちに来ないかい?同じ年頃の娘もいるし、そうだね…あたしの老師って事にしてさ」




遵帝と関わりあった人物を助ける事で、恩を返したかったのかもしれないが、明嬉は奇妙な縁のような物を感じていた。




「きっと遵帝が引き合わせてくれたんだよ」




そう言った明嬉の顔を、はまじまじと見つめていたが、やがて納得したように頷いた。



いつもは紐で堅く結びつけ、首からかけていた旌券は、あの時に限って切れていた。




これまで切れた事は一度もなかったし、弱くなった紐はきちんと取り替えている。




先日も、取り替えたばかりだと言うのに、軽い衝撃で切れてしまった。




引き合わせたのだと言った、明嬉の言葉を信じてみるには、それで充分だった。




もう、忘れて前に進めという事なのかもしれない。




それから三日後、は明嬉に付き添って、清漢宮へと上がった。




夕餉の後に紹介すると言われ、隣室に待機する。




その時になって初めて身分を明かされた。











「母様、こちらを味見してみて」



文姫の声で、我に返る。



思い起こしているうちに、どうやらぼんやりとしていたらしい。



「あ、ああ。どれだい?」



ふっ、と気の抜けた笑いがして、二人は振り返った。



声の正体はである。



「あ…失礼を。家事をなさるお姿を拝見しておりますと、とても王の御一家とは思えず…」



「そうだろうね。でも、これがいいんだよ、気楽でさ」



「そうね。忙しい時はなかなかこうは行かないけど、今はそうでもないし。兄様がいるから今は安心して任せているの。あ、利達兄様のほうね」




「利広様には、お任せにならないのですか?」



「ああ、だめだめ。気がつけば消えているんだからね、あの子は」



「消える?」



「そう、言ったろう?放浪癖があるって」



「あぁ、なるほど…」



「だからさ、もっと気楽に話しておくれね」



明嬉はそう言ってに笑いかけた。



三人は笑い合って昼餉の用意をする。

柔らかな雰囲気に、癒されるような感じを覚えたは、明嬉に向かって心中で頭を下げる。












昼餉の後、文姫はを捕まえて、各国の話を聞いていた。



利広から聞くそれとは、少し違った視点の話に夢中になって耳を傾けている。



さんは海の見える所によく住んでいたのね」



しばらくすると、文姫はそう言った。



それに対し、は驚いて文姫を見返した。



「本当で、ございますね…」



「あら?気がついてなかったの?海が好きなんだと思っていたわ」



言われてみれば、とは思う。



「海は…好きですわ」



「どの海が一番綺麗?」



「そうですね…私は白海が一番好きです。白海は白梅ような、とても美しい色をしております。初めて見たときは、遠くの山間から見たのですが、宝玉がひしめき合ってるように見えました。それからかもしれませんが、私は白海が一番好きです」



「白海かあ、一度行ってみたいな」



「連れて行ってあげようか?」



後ろから突然降ってきた声に、文姫は驚いて振り返った。



「兄様!」



「やあ」



「やあ、じゃないわよ。驚かせないで」



「ごめんごめん。で、文姫は白海を見たいのかい?」



「今さんに話しを聞いていたの。一度見てみたいって思っただけ。連れて行かなくてもいいわよ。兄様と一緒に怒られるのは嫌だもの」



「ひどいなあ。でも文姫は初犯だから、怒られないかもしれないよ」



「ではその変わりに、利広様が怒られると言う事ですわね」




がそう言うと、利広は考えるように上を向く。



「なるほど。確かにその通りだ。お前が唆したんだろうって言われるな…それはまずい。やめておこう」



「諦めるの早いわね。いいわよ、本当に見たくなったら、自分で見に行くから」



そう言うと文姫は立ち上がって、退出してしまった。



文姫に代わり、利広が隣に座る。




「白海がどうしたんだい?」



「どの海が一番綺麗だと聞かれまして…どの海も綺麗でしたので、一番好きな海をお答え致しました。白梅色に光る、白海が一番好きですと」



白海は才と範を跨る海。



そこにも、深い意味があるのだろうか、と利広は思う。


だがそれを問う事は叶わず、差しさわりのない事を話題に引き出している自分に気がついた。



しかし、それも一瞬のうちに埋もれていった。



旅をしてきたは、利広とは違った視点で各国を見ている。

それに興味を覚えた利広は、時間が立つのも忘れて話しこんでいた。



続く






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タイ料理は辛いですが、戴料理が辛いかは、謎です☆

今回はなにだと言うと、明嬉ドリームです。

途中から文姫ドリーム??

次はやっと出てきます。お兄ちゃんが。

                           美耶子