ドリーム小説




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千草の糸


=5=



その後、二人は揃って夕餉を取った。

意外と疲れていたようで、腰が落ち着いてしまって浮かない。

やはり年なのかと言って、を笑わせていた尚隆だったが、寝る時間になってその笑いを止めさせた。

「明日も一日動かねばなりませんから、ゆっくりとお休みして下さいませ」

立ち上がって対面の臥室に向かおうとしていた、の腕を引く力がある。

「もちろん、一緒に寝るのだろう?どちらで寝るのでも構わないが」

房室の右と左を見て、二つの臥室に目を配らせていた尚隆に、は何と返していいものやら答えに窮していた。

だがしばらくして、小さく頷く。

先に寝る用意をして臥牀に入っていると、本当に破裂するのではないかという勢いで、鼓動が早鐘を打つ。

やや遅れて尚隆が入ってくる。

思わず寝入ったふりをしたは、すっと伸びてきた腕に絡め取られて体の向きを変えた。

鎖骨が当たっているような感触がして、早鐘を打つ胸が一層速度を上げたように思う。

だが、尚隆はそのまま動かない。

ただじっと、の心が落ち着くのを待っていたのだった。

やがて、腕に包まれている事に、安心感や幸福感を見出したは、少しずつではあったが、心を落ち着けていった。

強張っていた体が溶けてきたのを感じた尚隆は、そっと顔を自分に向けさせる。

緊張の為か、またしても体が強張っていく。

ここで何もせず、寝てしまう方がいいのだろうが、愛しい女を目の前にして、どうしてそれが出来ようか、と知らず心の中で呟いていた。



口を突いて出た声に、は反応を示す。

瞳を上げて尚隆を見ている。

薄暗かったが、その瞳は僅かに潤んでいた。

本当に、自分の手中にあるのだという想いが駆け巡る。

二日前までは果てしなく遠い存在であった。

儚い陽炎のように思い、腕に抱ける事は幾年先の事かと考えていた。

先ほど声をかけられた妓楼も、そんな時に通った事があった。

尚隆は様々な思いの駆ける心中を、振り払うかのように唇を寄せて行った。

軟らかい感触と供に、再び強張る肩を感じる。





びいいぃん





また、弦の切れる音が鳴り響いていた。

だが、はそれを無視しようとして、尚隆の胸元に手を当てる。

胸元を掴んで、その音に耐えようとしていた。

強張った体を解そうと、尚隆は再び口付けて行く。





びいいぃいいん





びいぃいいぃぃぃん






「うっ…」

思わず顔を背けて呻いたは、手を頭に当てていた。

「どうした?」

様子がおかしいことに気がついた尚隆は、動きを止めてを見る。

「何でも…」

ないと言いたかったが、何度も頭の中でなったせいか、軽く頭痛を覚えた。

くっと顔を持たれ、尚隆の前に戻される。

「大丈夫か?」

「はい…」

大丈夫だと答えると、そのままの体制で口付けを落とされる。









びいいいいぃいぃいん








大音量で鳴り響いたそれに、思わず体が跳ねそうになる。

「…っ尚隆さ、ま…」

再び動きを止めた尚隆は、上からを覗き込んでいた。

「宮城に…戻ってからと言っては…怒ります、か…?」

ふっと気の抜けたような息がかかり、上からゆっくりと隣に移動する体。

「申し…」

「謝るなよ」

「…」

「怖がらせたいわけではないからな」

「怖くなど…」

頭ごと引き寄せられ、胸元に収まったは、先ほどよりも強くなった頭痛に耐えていた。

何が起きているのだろうかと考えていると、頭を撫でる大きな手がある。

満たされたような感情が湧き、は瞳を閉じた。

安らかな心情がじわりと湧きだし、落ちるようにして眠りにつく。

すぐに寝入ってしまった顔を眺めながら、尚隆は体を起こした。





少し火照った体を冷まそうと、窓を空けて風を招き入れる。

冷たい風に当たり、しばらくして戻った。

に体を寄せると、ひたりと吸い付くようにして寄って来る。

いつまで自制していられるのだろうかと思いながら、尚隆もまた、目を閉じて眠りについた。





















そして翌日。

郷都及び首都へ続く道を、朝の内に見たは、続いて高岫山に向かっていた。

確かに尚隆の言うとおり、高岫への道はかなり険しい。

背に荷物を背負って商いに行く人々を、空の上から見ていたは、何度も頷きながらそれを眺めている。

荷馬車と荷を分けて通っている者も確かにいた。

「やはり…ここから先に施工すべきですわね」

「それはやはり、一番険しいからか?」

「いいえ。違います」

にこりと笑って、聞きたそうにしている尚隆を振り返る。

「尚隆さまの…王の命で、柳国から頻繁に搬入している物がございますわね?」

問われた尚隆は、少し考えてから頷いた。

「石材」

「そう、石材です。こればかりは川に流して運ぶ事が出来ません。船を渡せる川のある地域なら、なんとか運船に託して参りましたが、船を渡すほど大きな川のない地域などは、人が石を引いていきます。余裕のある所では馬を使います」

「そうだな。石造りの建造物を作れるようになったからな。頑丈でいいのだが、石材があいにくと追いつかなんだで、柳から取り入れておるのだが…運搬がなかなかに大変でな。さきほどの道を均せば、少しは楽になるか?」

「ええ。かなり楽になります。牛を使いますから」

「牛?」

「はい。昨年の豊作の折、なぜか五日に里木に願う民が多く、現在大量に牛がおりましょう?処遇に困って、馬の代わりに荷を引かせているのを、近頃よく見かけます」

「そうだな。昨日の市井にもそのような光景があった…それを確認しに行っていたのか?」

「頻度を確認しに。どの程度の荷が引けて、どの程度牛が余っているのかと。結果、運搬に使えるほど余っているようです。それでしたら先に高岫の道を整え、首都に向かって順当に整えて行けば良いのです。すなわち、高岫、郷都、首都の順にですわね。これで運搬の軌道を確保出来ましょう。そして、その運搬に関しての人員に、国から派遣はいたしません」

「国が派遣しない?では道を作っても、民の旅が楽になるだけか?」

「いいえ。民に運んでもらうのです。農業に従事している民が中心になって、やってくれるでしょう。農閑期に余った牛を使い、石を運んでいただく。臨時の収入にもなりますし、それを専門の仕事にする事も可能です。出来れば二、三名で組んで、運搬するのが好ましいのですが。そうすれば、現在の険しい道でもなんとかなりますでしょう?それらを見聞するのは私達のお役目。特に大変な所に重点を置いて、今後の施工を進めていけば良いのです」

「なるほど…いつもながらに感心する」

「恐れ入ります」

「よし、戻るぞ」

「はい」

嬉しげに返事をしたを見ながら、たまの手綱を握りなおした尚隆は玄英宮へと向け、一気に駆け戻った。

















二日経っての帰還に、新案はないと思っていた帷湍は、取り敢えず王を懲らしめる為にから引き離した。

は去っていく二人を見ながら、急いで地官府へと戻って行った。

大司徒に報告し、思いついた案件を持ち込む。

もちろん賛成を受け、は夏官府へと回る。

「大司馬。お探し致しました」

成笙は今まで王の所にいたのか、内殿の回廊を歩いていた。

か。今、主上にお聞きした。光州の施工協力はすぐにでも手配しよう。州師の方へは保留と言う形で置いてあったからな。早速工事にかかれるだろう」

「ありがとうございます」

「それと、国から運搬の仕事を与えると発布するそうだ」

「ようございました。これで大きな建造物が増えますわね」

「ああ。それにしても、いつもながらに感心する。帷湍も感服して喜んでおったぞ」

「太宰はいつもそのように喜んで下さるので、とても励みになりますわ」

帷湍の口ぶりからは、天官に来て欲しいようだが…。

と思った事は口に出さずに、成笙は少し照れた様子のを見ていた。

それを言い出すと、朱衡も春官に欲しいと言い出すだろうし、一度移動すれば冬官も黙っておるまい。

秋官まで巻き込んで騒動になりかねない。

「少し忙しくなると思いますが、頑張りますわ」

そうだな、と言って成笙は宙を見た。

邪魔する者は居ないだろうから、きっと集中出来るだろうと思い、ちらりと退出してきた内殿の奥を見た。



続く






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甘くない気がします。

ごめんなさい☆

                美耶子