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麹塵の袍


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翌日。

初めて出席する朝議である。

麹塵の袍を着たは、緊張した面持ちで外宮へ向かった。

朝堂に入ると、元大宗伯がすでに来ており、に気が付いて手招く。

隣に移動すると、小声で説明がなされる。

まずは元大司寇と元大司徒から始まり、元冢宰であり、現太宰の靖共を教えられる。

次いで大司空と大司馬を説明された。

しかし誰が反靖共の派閥である等と言った説明は一切なかった。

自らで判断せよと言うことなのだろうか、よほど信頼されているのか、あるいは試されているのかもしれなかった。

いずれにしろ、張りつめたような空気が漂っている。

と同じように説明を受けている者が二名いたが、それは新たに命じられた大司寇と大司徒だろうと予想した。

























全員揃ってしばらく、鐘を合図に移動し、朝議が開かれる。

空の玉座の横に、台輔兼冢宰の景麒が立って、段上から一同を見下ろす。

一瞬、に目を止めたが、それはすぐに移動して沈黙が訪れた。

もちろん、の存在に景麒は驚いていた。

瞳に一瞬だけ現れてしまったが、遠くて分からなかっただろう。

しかし景麒のそんな行動よりも、全員の興味はその隣にあった。

つまりは、空の玉座。

誰もが隣り合った者に目配せし、小さな囁きが漏れていた。

それが分かったのか、景麒の口から説明が成される。

「主上は今朝宮城を発ち、政を学びに雁へと向かわれた」

ざわつきが少し大きくなった。

「しばらくはお戻りにならない」

さらにざわつきが大きくなる。

そのざわつきの中に、ちらほら予王の名が出ている。

も一瞬、予王の顔が過ぎった。

王が宮城から離れる。

またかと思わざるを得ない。

「主上…」

唖然とその様子を見ていたは、小さく呟いた自らの声に我を取り戻した。

ふと段上を見上げれば、宰輔の視線とぶつかる。

遠くてその瞳が語るものは読み取れない。

新しく任命された大司徒と大司寇は、すでに火花を散らせている。

飛び交う意見を聞きながら、は何も言わずにその様子を見ていた。





















「ふう…」

朝議が終わって、春官府に戻った

すでに内宮に居場所はない。

よって宰輔と遭遇する可能性は皆無に等しかった。

それを思うと、途端に意気地が消えそうな錯覚を覚えた。

この先、本当にこれでやっていけるのだろうか。

元大宗伯がその任に戻ってくる時期など、まるで見えなかった。







































そして数日が経過した。

は大宗伯になってからと言うもの、今まで以上に様々な官府の者からの誘いを受けるようになった。

どうやらどちらかの派閥に入れたいようだ。

いずれにしても、必ず名のあがる人物がいる。

もちろん、元冢宰である靖共の名だった。

その出方には恐ろしいまでの落差があったが、朝議で様子を見ている限り、その考えに賛同する事は出来ないと思っていた。

しかし、反靖共派の意見も、全部を鵜呑みにする事は出来ない。

実際が見た訳ではないし、判断材料が増えたとは言え、まだ日数もさほど経過していない。

それをすぐに引き込もうと動いたやり方には、双方ともだが賛同しかねる。


畢竟、中立の立場が善策なのだが、それがなかなか難しい事だった。





















そうこうしている内に、宰輔までが雁に向かってしまった。

王の御璽をもらいに行ったのだが、これもしばらくは戻ってこない。

王も宰輔もいない朝議。

宰輔が冢宰を兼任しているが為、冢宰もいない状態では、朝議を開いても意味がなかった。

喧々囂々(けんけんごうごう)と言い合って纏まらないのなら、始めから開かない方がよい事もある。























朝議が行われなくなってから、すでに十日以上が経過していた。

その日は新しい大卜に呼ばれて梧桐宮にいた。

雉の様子がおかしく、現大宗伯でなければ解明しない事態が起こっているとして、呼ばれていたのだった。

もちろん、そんな事は一切なかった。

まだ少ないとは言え、最低限の人数が戻っている。

ただ鶏人の計らいであった。

梧桐宮はその日も静かに、穏やかな時が流れていた。

はその流れの中で、久しぶりに羽を伸ばしたような気分に浸っていた。

ゆったりと梧桐宮を周り、霊鳥たちの様子を観察して、そろそろ退出して春官府に戻ろうかという時だった。

何やら西宮の外が騒がしい。

何事かと足を進めていると、金色が奥の方に見えた。

「台…輔!」

金と一緒に見えたものは、赤いものだった。

数人の天官が景麒から離れ、何かを抱えて去っていった。

残った二名の天官が、中腰で様子を窺っているようだった。

しかしの位置からは、角になっていて景麒が見えない。

「何をしているのです!早く血をお取りしなければ…」

言いながら歩みを進め、角を曲がりきった所で言が途切れた。

景麒は人の形をしていない。

本来の神獣姿で、苦しそうに息をついている。

肢体は曲げられ、ぐったりとしており、立てないどころか、もはや声も出ないようである。

獣姿の台輔を、女官が運べるようには見えない。

とっさに踵を返したは、一番近い房室の扉を開けて中へ入っていった。

適当な布を引き裂いて、再び景麒の許へと走り、布で胴を覆いながら語りかけた。

「台輔、人型にお戻り下さい。どうか、私に台輔を運ばせて下さいませ」

苦しそうに頷いた直後、奇妙に変形して縮んでいく。

見慣れた相貌が現れると、まっさきに体を起こして肩を貸した。

その様子を見ていた天官が慌てて動き、両脇を支えて移動を始めた。



続く






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王不在の間、朝議がどうなっていたのか、実際には分かりません。

冢宰不在の場合は、天官長が指揮をとるのではなかろうかと思うのですが…

まあ、靖共さんだしね。

でも今回はこんな感じであったと言うことにしておいてください☆

                                           美耶子