ドリーム小説




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麹塵の袍


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それから幾年かが過ぎた。

何人かの移動が朝廷内で行われたが、は変わらず大卜(だいぼく)の職務に就いている。

危惧していた王と麒麟の確執は、改善される兆しを未だ見せない。

変化があったと言えばあったし、なかったと言えばないと言える。

頻繁に梧桐宮へと逃げていた王は、今は逃げる場所を変えてしまった。

北宮へとその場を映したのだった。

誰にも会いたくないようだった。

梧桐宮のある西宮に来れば人は少ないが居る。

しかし北宮は無人である。

それでも霊鳥の使用で梧桐宮を訪れる事もあった。

やはり、宰輔が追ってくるのだが…









今日は久しぶりに王がやってきた。

家族と連絡を取っているのだろう。

鸞を愛でて、語りかけている。

家族に当てていると言うよりも、独白のようであった。

本来、が聞いていいはずないのだが、どうやら眼中にないらしい。

それを迎えに来た宰輔。

これも怒りを瞳に宿し、にも気が付かぬ。

「嫌…嫌です!戻りません!」

「お戻り下さい。今すぐに」

「嫌です!絶対に戻りません!あたくしは鸞を出さなければならないの」

「昨日もそう言っておられた。鸞なれば、ご公務が終わってからお出しになれば良いでしょう」

以前の王なら、に助けを懇願していただろう。

それを断ったりしなかったのだが、いつからかそれをしなくなった。

もう、が見えていないのだ。

それは景麒も同じだった。

他人の存在を感じぬ動作と言うのは、異常であると感じざるを得ない。

的確に表現するならば、『病んでいる』、とは思った。

王も宰輔も、日増しに憔悴してきたように見えたのだった。

互いが疲れ切り、頑なになっている。

「このままではいけない…」

輝かしい金であるはずの神獣は、ただ人よりも色影が薄い。

王もまた、ただの怯えた女と変わりなかった。

なんとかしなくてはならない事は分かっていても、何をどのようにすればよいのか検討もつかない。

誰かに相談するにも、信用できる者が金波宮にはおらず、一人苦悶するしか方法はない。

「こんな時に…信頼できる友がいれば…」

言いながら、はたと立ち止まる。

「そう、いるじゃないの…とても遠いけど…諷詠が蓬山にいるじゃない!」

突如、目の前が明るくなったような気がした。

鸞は王にしか使えないが、青鳥ならにも使える。

はすぐに書簡を用意し、青鳥に託して蓬山へと送った。

祈るような気持ちを籠めて、雲海の彼方に消える青鳥を見つめていた。


























そうした事によって、少し気が楽になった

その背後に誰かの気配を感じた。

「大卜」

「台輔!」

「鸞は今?」

「鸞?鸞ならおりますが…それが何か?」

「二、三日の間に鸞が使いに出たことは?」

「ございません」

「そうか、失礼した」

「お待ち下さい、台輔。何があったのです?」

「宮城内に主上がおられない。鸞が出ていたのなら、生家に帰られたのだと思ったのだが、違うとなれば別の所でしょう」

「追われるのですか?」

「むろん」

「台輔…近頃お疲れのご様子ですわ。少し休まれては如何です?」

「…」

「少し…主上とお離れ下さいまし。主上の為にも、台輔の為にも、それが良いと思われます」

「…」

「ずっと、考えていたのです。私には王と麒麟の間にあるものは分かりません。私は王ではないし、麒麟でもないからです」

何を分かり切った事を、と景麒の瞳が語る。

「ですが、今は離れるべきだと思うのです。主上が金波宮を離れるのは、英気を養うためかと。ならば、台輔もどこかで英気を養いませんと。お辛い台輔を見ていると、私まで辛くなってしまいます」

「何故、大卜が辛くなるのです」

そう問われて、あなたが好きだから、とはとても言えない。

瞳を読まれぬよう、顔を伏せて言う。

「どうか、それ以上はお聞きにならないで下さいませ」

それだけを何とか絞り出すと、後は景麒がその場から退出するのをひたすら待った。





























その五日後。

蓬山から朱雀がやってきた。

諷詠からの返事だと思っていたは、宰輔にあてたものであることを知って、少し驚きながらもそれを通達する。

すみやかに宰輔の許へと朱雀は運ばれた。

そして二日後、宰輔は蓬山の招集に応じて金波宮をあとにする。

大宗伯の話によると、蓬莱から戻ってきた、戴国の麒麟のために蓬山へ招集されたとの事だった。

まだ景麒が蓬山にいた頃に、大きな蝕があった。

もその蝕の事は覚えている。

慶でも甚大な被害を生んだ蝕。

その時、まだ卵果であった戴の麒麟は、蓬莱へと流されてしまった。

つい最近になって、ようやく戻って来たのだという。

同じ時期にいたということもあり、景麒が指導役に選ばれたらしい。

そこに諷詠の影を密かに感じた

そっと心の中で感謝した。











































夏至までには戻ってくると言って発ったはずの台輔は、夏至を過ぎても戻って来なかった。

その間、金波宮は良くも悪くも変わらなかった。

そう、少なくとも、梧桐宮に変化はなかった。











そうして数日が過ぎて、ようやく景麒が帰ってきた。

梧桐宮に訪れた景麒を見て、は心なしか、柔らかな空気に身を包んでいるように感じた。

「蓬山はいかがでございました?」

景麒は薄く微笑むことによって答えとする。

袂から何かを取りだし、に手渡した。

「諷詠からこれをと」

渡されたのは、一巻きの書簡であった。

「まあ、諷詠から…わざわざ台輔にお渡しするとは…諷詠ったら。でも、ありがとうございます」

「諷詠は変わらず元気にしておりました。蓬山では紫蓮宮に滞在し、身の回りを諷詠が。その…大卜の配慮であったか?」

はっと顔を上げたは、その直後慌てて下を向いた。

「差し出がましいことを…申し訳ございません」

「いや、陳謝には及ばない。むしろ感謝せねばと思う」

泰麒と触れる事によって、少し主の気持ちが分かったように思う。

蓬莱に残してきた母を思って泣いた泰麒と、亡くなった母を思って泣く主。

ここにさほどの差違がない事を、ようやく理解する事が出来たのだった。

「とは言え、もとより玉葉さまには、何もかもお見通しであったように思うが…」

「玉葉さまと申されますと…」

口に出してから、小さくあっと言った

「碧霞玄君…」

そうだ、あまりにも玉葉と言う字が多いため、瞬時に気が付くことがなかったが、その字の由来になっているお方だった。

「わたしには相手の気持ちを汲むと言うことが欠けていたのです」

そう景麒が言うので、はふわりと笑った。

「お気づきになられたのでしたら、これからは大丈夫でしょう。まだまだ時間はございます。主上も台輔も、そして我々も、少しずつ成長してゆけばよいのですから」

麹塵(きくじん)の袍を揺らして言う大卜に、景麒はただ無言で頷いた。

景王登極からしばらく、忘れられていた希望の光が見えた瞬間であった。



続く






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今回も捏造がちらほら。

しつこいようですが、、、

気にしないで次行ってみよう〜!

                    美耶子