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金の太陽 銀の月 〜太陽編〜


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「分かったぞ!」


ある日、春官府に行くと、先日質問した男が待ち受けており、を見ると駆け寄ってきてそう言った。

「分かったのですか!?本当に?ありがとうございます!!」

の目前で立ち止まった男は、不思議そうな目でを見ていた。

「どうかされたのでしょうか?」

「なあ、知り合いなのか?本当に?」

「それはどうゆう意味です?何処の官府の方なのですか?」

男はしばし逡巡してから、重い口を開くようにして言った。

「何処の官府にも所属していない」

「何処の官府にも?では一体…」

「俺がその名を見たのは、過去の資料からだった。今朝それを思い出して確認してきた。才州国の…」

「才の方だったのですか?私はてっきり奏の…」

「待て、待て。いいから聞け」

「あ…申し訳ございません…」

焦るような気持ちがこれ以上ないほど込み上げてきて、は落ち着くために呼吸を整えた。

「いいぞ。もっと深く息を吸っておくのだな」

男はそう言うと、真剣な顔つきで語り出した。

「俺が春官府に配属されてすぐの頃、最初に与えられた仕事の時に、見た気がしたんだ。その時は、過去の記録を整理していたんだが、わりと新しい記録で…。才に新王が起ったのは知っているか?」

「二年前ですね。才に新王が起ったのは」

忘れはしない。

奏に向う海の上でも、その噂で持ちきりだったのだから。

が奏に着こうかと言う時、確か即位式が近かったはずだ。

まだ拙い理解力ではあったが、幾人もが同じ事を言い、中には身振り手振りで説明してくれる人もいたのだから。

「そう。隣国と言うだけではなく、先の采王の時代に奏へ、才の台輔が療養に来ていた事があったそうだ。台輔に付き添って来たのは冢宰に、その妻である大司徒」

「はい…」

それが利達とどう関係があるのだろうか?

才の台輔に近い存在だとでも言うのだろうか。

それとも冢宰か、はたまた大司徒か。

いずれにしろ、遥か上位の話である。

それらと肩を並べる事は難しい。

六官(りくかん)の一ともなれば、並大抵の事ではないような気がした。

しかしそうなると、会わないのも少し頷ける。

「詳しくは記述になかったが、その時沙明山にて、公主がお世話に向かわれたのだそうだ。その関係で即位式の際、奏から慶賀の使節がたった。その慶賀に向われたのは、太子だそうだ」

「公主がお世話をしたのに、太子が慶賀に向われたのですか?」

「そのようだな。詳しい経緯は分からないが、記録にはそうある。采王への使節として向われたのは、太子。公主ではない。号で言うなら英清君。それがお前の探していたお方だ」

「はい?」

何を言われているのか、理解に苦しむ。

太子が何だと言うのだ。

「太子だ、太子。奏南国太子、英清君利達さま。お前の探していると言ったお方だろう」

驚愕はゆるやかに訪れようとしていた。

「つまり…私の探す利達という名は、太子の御名であるという事でしょうか?」

やっと理解したに、大きな息を吐き出して男は言った。

「そうだ。だから聞いただろう。知り合いなのかと。太子はお二人だ。英清君利達さま、卓郎君利広さま、だな」

利広の名が出てきた事によって、の疑問は完全に崩壊された。

「でも…まさか!太子だなんていくらなんでも…」

「同じ名の別人だというなら、俺にはもう思い当たらない。だが…恐れ多くも太子と同じ名であれば、噂ぐらいにはなるだろうからな」

男はその言を最後に、その場を離れていった。

一人取り残されたは、呆然と立ち尽くす。

「利達が…太子…?」

それではどうやっても遭遇しないはずだ。

太子なら早々表に出てくる事はない。

宮城内での行ける場所は、外宮までだった。

しかし、王の一族は内宮に住まう。

太子は滅多な事では出てこない。

王であったのなら、頑張って昇格し、朝議で見ることも可能だろうが…。

「本当に太子?」

そう、太子は滅多に表に出ないはず。

それならば、何故あんな街中で出会う事が出来るのだ。

それに利達が買っていたものは、さほど高価なものではない。

あんな港町をうろついているのもおかしい。

「そうよ…首都から離れすぎよね。だってあそこはもう才に…」

采王即位時、慶賀の使節に向ったのが、英清君利達―――――

「その、帰りだわ…そんな…」

同じ位置で肩を並べるなど、まったく不可能だ。

「こんな結末って…ありなの?」

不思議な事に、涙は出てこなかった。

は毅然と頭を上げ、歩き始めた。

何処に向かうでもなく、ただ足を動かしていた。





広い宮城。

何度も夢に描いたこの走廊。

歩く利達の前に突然姿を現し、驚かせてやろうと思っていた。

肩を並べる事は出来なくとも、近くに行く事が出来る。

国を支える仲間として、一緒に何か出来ればいいと、そう思っていた。

しかし、それこそが虚構だったのだ。

近づく事は愚か、姿を垣間見る事すら難しいとは。

出来る事なら、何も知らないでいた数日前に帰りたい。

は府第を抜けて、行ける所をどんどん進んだ。

いつの間にか外殿近くにまで来ていたが、そんなことには気がつかず、さらに足を進めていた。

ふいには足を止め、辺りに誰もいないことを確認すると、大きく息を吸った。


「利達の莫迦〜!!」


力の限り叫んだは、心なしか軽くなったような気がして、再び府第に戻っていった。























その頃外殿では、朝議が執り行われており、思いのほか通った声に、一瞬沈黙が下りた。

王以下一同、近くの者と顔を見合わせ、何事だろうかとざわざわしたのを見て、先新は原因を探すよう命じ、元の議題に戻って朝議を再開させた。

























「主上。どうかされましたか?」

利達が政務を執っている房室へ、先新と昭彰が入ってきた。

「朝議が一時中断された」

「朝議が?それは何故です?」

「娘さんが叫んでおってな」

くつくつ笑う先新に、利達は訝しげな顔を作った。

「何処の娘が叫んでいたのです?文姫ではないでしょうね」

「違いますわ」

昭彰も軽く笑っているのを見た利達は、ますます訝しげな表情になっていった。

「若い娘さんをからかってはいけないよ」

「お父さん、それはどうゆう意味ですか?」

不機嫌な顔にまで成長した表情に、先新は朝議で聞いた声の事を話す。

「莫迦?誰が叫んでいたのです?」

「司右のお話ですと、近頃春官に新しく入った官吏が、道に迷って叫んでいたようですわ」

昭彰が答えたが、利達の表情は元に戻る事はなかった。

道に迷って、何故自分が莫迦呼ばわりされねばならないのだ、と。

「新しい官に知り合いなどおりませんが」

「名をと…」

がたっと音がして、利達は立ち上がった。

不機嫌だった顔が、驚愕の表情に変わっている。

が春官に?それは、本当ですか?」

頷く主従を待たず、利達は動き始めていた。

風のように過ぎて行った息子を見送っていた先新は、隣に佇む昭彰に言う。

「新しい椅子が必要になるかもしれんな」

「ええ、あの、主上…」

昭彰は小首を傾げて先新に問う。

「そのお名前、どこかで聞いたような気が致しますが…」

「うむ。わしもそんな気がしていたのだが…どうにも思い出せなくてな」

「…。あぁ、思い出しましたわ」

昭彰は微笑んで先新に言う。

「二年ほど前、采王の即位式の時…」

「ああ、港町で出会って、隆洽に連れ帰って来たと言う海客の…」

「恐らく。ご自分で昇仙なさったのですね」

「そのようだな。感心な娘さんだ」

頷く主従は王后に伝えるため、その場を立ち去った。



続く






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あれ?おかしいなあ…

再会はすぐだったはずなのに。

あはははははは…(反省)

                 美耶子