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金の太陽 銀の月 〜太陽編〜


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利達は宮道を急いで歩く。

府第が今日に限って何故か遠い気がした。

春官府へ入り、を捜し歩く。

「すみません、こちらにと言う人がいると聞いたのですが…」

誰だという視線を無視して、利達は返答を待った。

?ああ、あの新参の子か。さっき天官府へお使いにでたよ」

「天官府…ありがとうございます」

春官府を退出し、利達は天官府へと急いだ。

「すみません、こちらにと言う人が…」

?ああ、春官の新参の子だね。さっきまでそこにいたはずだが…地官府に行くとか何とか」

「…ありがとうございます」

天官府を退出し、地官府へと急ぐ。

「こちらにと言う…」

「ああ!あの愛想のいい春官の子ね!夏官府に行ったみたいだよ」

「今度は夏官府か…ありがとうございます」

「こちらにと…」

「春官の子だね。秋官府に行ったよ」

「こちらに…」

「冬官府に行ったよ!」

「こちらに…」

「春官府!」

堂々巡りとはまさにこの事なのだろうと、身を持って実感した利達は、重い足取りで春官府へともどっていった。

「え??まだ戻ってきてないが…」

ついに行き詰ってしまい、利達は大きな溜息を漏らして春官府を出た。

「何処にいるんだ…」

何処を探したものかと考えながら、利達は庭院へと下りていた。

ひょっとしたら歩きつかれて、庭院で休憩でもしているのだはないかと思ったのだ。

その利達の予想は、見事に的中したようだった。

女官らしき後姿を利達の瞳が捉え、こっそりそちらに近付いていった。

女官の肩は震え、泣いているように見える。

しばし躊躇われたが、意を決して足を踏み出す。

背後から震える肩に手をかけ、利達は優しく言った。

「泣くのなら、胸を貸すと言っただろう?」

女官ははっと顔を上げ、くぐもった声で言う。

「本当に…胸をお借りしても…うっ…」

返答を待たず、その女官は振り返って利達に縋りつく。

あまりに大袈裟な素振りで泣き出すので、少し驚いた利達は恐る恐る声をかけた。

?」

女官は素早い動きで顔を上げ、驚愕した眼差しで利達を捕らえる。

「それ、誰?」

女官は利達の知らない顔であった。

「あ…いや。人違いでした。申し訳ない…」

「人違い?何よ莫迦にして!」

ぱちん、と小気味いい音が庭院に響き、唖然と立ち尽くす利達。

女官は泣いたまま走って行き、利達は頬を押さえたままその場に留まっていた。

「嘘つき」

刺す様な声を背後に聞き、利達は頬から手を離して振り返った。

「胸を空けて、待っているって言っていたのに、誰にでも貸せるのね」

…」

六つの官府を渡り歩いても見つける事が出来なかった、一番会いたい人物が、利達の目前に立っていた。

「やっと…見つけた」

「‥‥‥探していたのですか?」

「探した。まさか宮城にいたとは気がつかなかった。さっき聞いて初めて知った」

「誰に聞いたのです?」

「主上に…朝議を中断させたんだって?」

「え?」

利達は説明しようと口を開けたが、首を横に振ってそれを辞めた。

「すまない…もう、二度と現れないつもりでいたのに…でも一言祝いたくて…おめでとう」

「あ…ありがとうございます…」

「…?」

「はい」

「何故そのような口調になっている?」

話しかけて来た時には、確かに普通だったのにと思いながら問いかけていた。

「それは…立場が違うからです」

「関係ない。前のように話してくれて構わない。さっきはいつもの通りだったと言うのに…」

そう言うと、は俯いて小さく言った。

「それは…少し嫉妬心が出たのです。自分だけに向けられていたのだと、淡い夢を見ておりました。お許しを…」

「さっきのは…その、事故のようなものだ。以外に貸すつもりはない」

そう言った直後、利達はを引寄せていた。

「…あなたは太子です。ですから、こんな事をなさってはいけません」

の腕に力が入り、利達の腕はそれを容易く放してしまった。

「そうか…すまない。忘れていた」

利達はそう言って、から一歩下がった。

「忘れていたとは…?」

「好いた男がいたのだったな…それを忘れていた。わたしが迂闊に触れてはいけなかった」

「それは…」

違うと言いかけて、は誤解させたままだった事を思い出した。

太子だと聞く瞬間まで、必死に利達を探し回っていた自分が脳裏に現れる。

「誤解…です…」

「誤解?は好いた男がいると…ずっとつまらないように見えたあの日、隆洽で会った最後の日。は確かにそう言った」

「申し訳ございません。あの日は翌日に試験が控えておりましたので、少し心が何処かに行っていたのです…」

「では、あの翌日に試験を…なるほど。では、好いた男というのは…」

「…」

「いるのだな…」

「おります…」

「そうか、すまなかった。ひょっとして、その御仁を追って宮城に?」

「はい…文官だとお聞きしておりましたから…」

「文官か…思いが通じると良いな」

「きっと、無理ですわ。位が違いすぎますから」

「好いておるのなら、関係ないだろう」

「いえ。見ているだけでも良かったのですが…姿を見ることすら出来ぬほど、高みにおわす方でした…」

あくまでも丁寧に離し続けるに、利達は少し苛立ち始めた。

「いつまでその喋り方を続けるつもりだ?」

そう言うと、は泣きそうな顔を上げて言う。

「利達はやっぱり嘘つきね…相手が太子じゃ、胸を貸してなんて言えない。縋って泣くなんて恐れ多い事、出来ないじゃない…好きだなんて…言ってはいけないのよ…」

一度上げた顔を慌てて引っ込め、は再び俯いていた。

「関係ないと言っただろう…。わたしは何も変わっていない。二年前、出会った頃と同じままだ。その…の好きな御仁と言うのはひょっとして…」

は頷いて答えた。

「…利達に追いつきたくて、ここまで来たの。同じ場所で働けたら、幸せだろうなって…好いてほしいなんて望まない。ただ、傍にいる事が出来たら、それでよかったの。でも、利達は傍に居ていいほど軽い身分の人じゃなかった…」

「誤解だったのなら、何も問題はない」

「そうゆう訳には…」

「太子だと、胸元で泣けないと?そう言う事か?」

「胸元で泣くなど…とんでもない。恐れ多くも…」

「では太子は好いた女性と、会ってはいけないと言うのか?」

「好いた女性?」

「そうだ。に会わないと決めてから…ずっと辛かった。それでもの邪魔をしたくはなかったからこそ、会わないと決めたと言うのに」

「それは一体…」

利達は再びを引寄せていた。

腕の中に閉じ込めて、触れる事の出来る実感を刻み付ける。

が好きだと言うことを、説明しているつもりなのだが…分かりにくいだろうか?」

「…少し分かりにくかったわ」

苦笑したような声が聞こえ、利達も同じように苦笑した。

腕を少し緩め、の顔を引き上げる。

そっと口付けを落とし、再び問う。

「分かりにくいだろうか?」

「よく…分かったわ…」

真っ赤になって俯くの顔は、利達の胸元に埋められ、再び腕には力が入っていった。



続く






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はあ、やっと再会出来ました。

よかったよかった。

                   美耶子