ドリーム小説




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金の太陽 銀の月 〜太陽編〜


=19=



「辞める?」

「はい。短い間でしたが、お世話になりました」

突然そう言われた大宗伯は、に不思議そうな視線を投げていた。

「理由を聞いても良いだろうか」

「はい。少しの間旅に出ます」

「それなら休暇で…」

「その後、ある方のお手伝いをしようと思っております」

「なるほど…そうか。残念だが、致し方あるまい」

は深く頭を下げ、大宗伯に別れを告げた。

引継ぎを終わらせ、官邸をも引き払い、は山を下った。







隆洽の街は、今日も活気に溢れている。

やわらかい日差しは眩しく、金に輝いていた。

「女将さん!」

「おや…。じゃないか!」

「お久しぶりです。お元気でしたか?」

「そりゃあお前、元気に決まってるじゃないか。おや?旅装だねえ。何処かへ行くのかい?」

「ええ。巧国の方へ私用で」

「そうかい。気をつけてお行きよ」

「はい。ありがとうございます。あの、女将さん?今日はお礼が言いたくて来たんです。これ、よかったら皆さんで食べて下さい」

は手に持っていた包みを女将に渡し、微笑んで言った。

「二年間、ありがとうございました。とても遅くなってしまったんですけど、この舎館での事は忘れません」

女将は包みを手に持ったまま、ぽかんと口を開いていた。

「なんだい…改まって…戻ってくるんだろう?遠くに行ったりしないんだろう?」

「もちろん、戻ってきますよ。お礼に周るんです」

「ああ、それでそんな事を。驚くじゃないか」

女将はそう言うと、ほっと安心したかのように息を吐き出した。

は厨房にも顔を出し、一人一人に礼を言って回った。

それが終わると、は舎館を出て歩き始めた。

いつも利達と会う、木の許へと向っていた。

木の傍には一人の男が立っており、騎獣の手綱を持ってを待っている。

「利達!お待たせ」

振り返った利達は微笑み、騎獣と供にの方へと歩き始めた。

「行こうか」

「うん」

歩き出した二人は、隆洽の街を出て騎乗した。

蒼穹の空に舞い上がった騎獣の背で、は天を仰ぐ。

「金の太陽…とても素敵な色をしているわ。この太陽は蓬莱と同じ?それとも違うもの?」

の背後から利達は答える。

「さあ。蓬莱の太陽を見たことがないから、よくは分からないが…」

「そうよね。でも、違うような気がするわ。だって蓬莱の太陽って…あれ?蓬莱の太陽って、どんな色をしていたのかしら?」

「忘れたのか?」

「う〜ん…」

軽く唸りながら考えていたは、思い出したのか傾けていた首を元に戻す。

「私、蓬莱で太陽を見上げた事って、殆どないんだわ」

世界を彩るもの。

それは人工的に作られたものだった。

夕陽に映える海も、風にそよぐ木の葉も、広い空に現れる幾多の星も、蓬莱にあったはずなのだ。

しかしの目には、赤い宣伝用の看板、コンクリートを這う枯葉、空を狭める高層ビルのネオンが映っていた。

だがこちらに来てから、頻繁に空を見上げるようになった。

それは何故なのだろうか…。

単純に風景が美しいからだろうか?





眼下には赤海が広がり、小さくなった隆洽山が右手に見えていた。

「あ…そうか…」

隆洽山がを答えに導いた。

「空には、利達がいたからだわ」

「わたしが?」

「うん。利達は私にとって、太陽のような存在だったの。心の暗闇を照らし出す太陽。空を見上げればいつだって微笑んでくれて、いつまでも見守ってくれる。だから太陽を見るたびに思ったわ。利達が見ている、頑張らなきゃって」

「わたしが太陽…」

「うん。だからよく見上げていたの。舎館の窓からも、街の真ん中でも、小学や少学の院子でも」

あながち間違ってもいないだろう。

隆洽山の一番上にいたのだから。



呼ばれたは利達を振り返る。

素早く触れた唇に、驚いたは前に向き直り、頬を染めていた。

赤い耳だけが見えており、利達はそれに微笑む。


























約一日をかけて、二人は巧州国、淳州は午寮に辿り着いた。

「どこをどう通ってこの街に来たのか、全然覚えてないの。山をたくさん越えて、荷車に乗って、気がついたらここにいたのよね」

今から思えば、よく無事だったと思う。

奏で勉強していなければ、知りえなかった事だったのだが、巧国では海客は官府に突き出されるらしい。

特殊技能があれば、後継人がつき、なんとか暮らしていける様だが、災害と供に訪れ、巧に流れ着いてしまえば、良くて幽閉、最悪死刑だと聞いた。

はきょろきょろと辺りを見回しながら、記憶を手繰っているようだった。

ふと足を止め、じっと何かを見つめている。

「思い出した…利達、もっと南だわ」

の足は南西に伸び、ごちゃごちゃと民居の込み合う場所に出た。

利達は街の様子を見ながら、自国との違いを感じていた。

「この辺りだったと思うんだけど…」

呟くの後ろについて、利達は無言で足を進めていた。

現在の塙王は治世が四十年近くになる。

随分と落ち着いてきてはいたが、午寮ほどの大きな街でも、このような寂れた場所が残っている。

決して豊かとはいえないその様子に、心を痛めずにはおれなかった。

「あった…あったわ、利達」

の声が左から聞こえ、その指は一軒の民居で止まっていた。

は今にも崩れそうな茅軒(あばらや)を指し、扉に手をかけようと歩いて行く。

木の扉に手をかけると、ぱらぱらと頭上から砂が落ち、二人は不安げに顔を見合わせた。

どうしようかと躊躇っていると、扉にかけられたの手に、利達の手が上から重なる。

見上げると利達は頷き、も同じように頷くと扉に向った。

同時に力がかけられ、扉は軋む音を立てて開かれた。

「おじいさん…?」

そろりと中に入るを見ながら、利達はの恩人が老人であった事を知る。

中からはかび臭い匂いが立ち込めており、それに混じって異臭が鼻を突いた。

そして茅軒の中に、人の存在を確認出来るようなものはなかった。

茅軒の中は全体が一つの空間で、半分は土のままだった。

使い古された鍋が竃の上に乗っており、干からびた米が見えている。

もう半分を見ると、衝立が見えており、その奥には衾褥(ふとん)が敷いてあった。

衾褥は捲られたままで、中にはもちろん誰も寝ておらず、埃が薄く幕を張っている。

「まさか…」

が息を呑んで立ち竦んでいると、入口のほうから声をかけられる。



続く






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さて、いよいよラストスパートです。

とりあえず終わらせなさいと、天からの声が…(それはきっと夢)

利達って…ぱっと見ると私達に見えるよね(意味不明)

                               美耶子