ドリーム小説
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金の太陽 銀の月 〜太陽編〜 =4= しばらく泣いた後、は照れくさそうに笑って利達に向う。
「ごめんなさい。急に泣いたりして…」
「構わない。わたしも突然知らない世界に出されれば、自失してしまうだろうから…その、大丈夫か?」
「うん。もう平気」
「本当に…?」
「…うん。だってね、戻れないんでしょう?二度と帰る事が出来ないんでしょう?なら、泣いても笑っても一緒でしょ?それなら泣いているより、笑っていた方がいいもの」
恐ろしいほど前向きな発想に、利達の顔に笑みが生まれた。
「わたしで何か力になれる事があるなら、何でも言って欲しい」
そう言うと、はくすりと笑って利達に言う。
「利達は巧の人と同じように親切ね。それに言葉が通じる。充分よくしてもらっているわ」
「そうか…でも何か…ないだろうか?具体的にあれば何でも言ってほしい」
「お腹一杯食べたし、夜露を凌ぐ部屋がある。今の私にこれ以上の幸せがあるとするなら、家に帰る事が出来るって言われるぐらいだわ」
「…海客は虚海を超える事が出来ない。来る事は出来ても、意思の力で向こうへと行く事は…出来ない」
「それじゃあ、今と変わりないって事よね?なら悲観するもんでもないわ。今までなんとか生きて来られたんだし、より良い暮らしを求めて奏に来たんだもの。それなら、今より良くなるって事でしょう?」
「そう…そうだな」
「はあ、泣いたらお腹空いちゃった。さっきの、残すんじゃなかったわ」
「はちきれそうなお腹を抱えて泣く女性もどうかと思うが…」
利達の言った事に噴出した。
彼女を取り巻いていた陰鬱な空気は晴れ、穏やかに流れ始めていた。
「利達って優しいね」
ふと思い出したように言ったの声に、利達の動きが止まる。
「あ、照れた?」
笑い含みに言われた言に、利達は真顔を作って答える。
「大人をからかうもんじゃない」
「からかってないわ。思った事を声に出してみただけ。そう言えば、大人って?年はいくつなの?教えたくないならいいんだけど」
「…正確には覚えてないんだが。おおよそ六百ぐらいか」
「やっぱり教えてくれないのね。いいわ。無理には聞かないでおく」
「蓬莱には六百年生きた人はいないのだろうか?」
「いるわけないじゃない」
笑いながら言うに、利達は頷いて答えた。
「こちらでは探せばいる。多くはないが、確実に数名は知っている。年を取らず、怪我も病気もなく、死ぬ事もない。そのような人種がいる」
「そんな夢みたいな話…」
「こちらで蓬莱といえば、そのような世界だと信じられている」
「日本が?どうゆうこと?」
「伝説の国、蓬莱。世界の果てに存在し、苦しみや悲しみのない国だと伝えられている。そこには神仙が住まうと言う」
「まさか。神仙なんて、この世に存在しないわ」
「神仙ならこちらにも存在する。人が垣間見る事の出来る神は“王”だな。王に仕えるのは“仙”であり、仙と呼ばれる者達は仙籍にある」
「は…?」
「わたしは六百年前に仙籍に入った。だから六百歳と言えばいいだろうか。正確には覚えていない。なにしろ六百…」
「待って…待って!待って利達。それ以上言ったら、気絶してやるから」
おかしな脅しをかけて、利達の口を閉ざす事に成功した。
直角に首を捻って腕を組んだ。
「…。うんと…。えっと…」
眉間に寄った皺と、難しい顔の。
それを不覚にもかわいいと思ってしまった利達は、慌てて目を逸らしてやり過ごした。
誤魔化すために立ち上がり、臥室へと足を向ける。
「難しい事を考えずに、今日はもう寝たほうがいい。私は東の臥室を使う。は西の臥室を使うといい」
に背を向けたまま言った利達は、そのまま臥室に入ってしまった。
残されたのは、首を捻った海客の娘だけだった。
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