ドリーム小説
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金の太陽 銀の月 〜太陽編〜 =9= 「兄様、どうだったの?」
夕餉の席で、期待に胸を膨らました文姫に、利達は首を横に振って答えた。
とても言い出せなかったとは言えず、少し時間が必要だとだけ言って、がっかりしたような妹を宥める。
「まだこちらに着たばかりだし、彼女は若い。機会はいくらでも訪れるだろうから、もう少し様子を見たほうが良いと思う」
「そうなの…」
やはりがっかりした様子の文姫に、利達は苦笑だけを返し、その後は口を閉ざしてしまった。
夕餉の後、自室に戻った利達は一人考え込んでいた。
「もう、泣いてはいないのだろうか…」
言葉の通じぬ他国に来たと思っていた。
世界そのものが違うなど、薄々気がついてはいても、考えないようにしていたと言った。
違うのだと断定され、溜めていた涙を流した。
もう泣かないと言ったが、一人になったとき、不安になったりはしないだろうか。
言葉も通じず、この世界のことも分からず…
利達の説明したこと等、とる足らない程度のものだったろう。
常識を説明すると言うことは、実は難しいのだと思った。
あまりにも当然の事ゆえ、どれから話せば良いのやら、判断が難しい。
騎獣に乗った時の反応を見れば、それが特殊なのだと分かったが、説明している時には考えもつかなかった。
騎獣という存在が蓬莱にないのだと、気がつかなかったからだ。
そう言った些細な事…
利達にとっては些細な事が、彼女にはまだまだたくさんあるのだろう。
それに遭遇してしまった時、戸惑う事だろう。
そしてそれを説明出来るのは現在の所、利達だけなのだ。
「明日も様子を見に行こう…」
妙な使命感が生まれ、利達は固く決心した。
時間の許す限り、に会いに行こうと。
その翌日、決心したはずの利達は、政務に明け暮れていた。
自分の担当すべき物の決済が待っており、書面に囲まれて一日を終えてしまった。
一日中気がかりではあったが、どうにも抜け出す事が出来ない。
ようやく時間が出来たと思ったのは、夜中が近くに迫っていた。
さすがにこの時間訪問すれば、迷惑であると判断し、その日は諦めて翌日に託した。
さらにその翌日、利達は黄昏のおり始める前に、なんとか時間を作った。
急いで隆洽山を下りて街に出ると、真っ直ぐに舎館へと向う。
「お兄さん、に会いに来たのかい?」
舎館の前で女将に出会い、利達は頷いて答えた。
「ならいないよ」
「いない!?」
慌てた声に、女将はからからと笑う。
「小学に行ってるんだよ。勉強しにね」
「あ、ああ。なるほど」
ほっと息をついた利達。
どこかへ消えてしまったのだと思った自分が、少し恥ずかしい気がしていた。
「迎えに来たのかい?」
「迎え?」
「あ、いや。違うならいいんだ」
否定を表す為に振られた手を見ながら、利達は女将の思惑とは別の事を考えていた。
確認の為に、女将に問いかける。
「はどうだろうか?まだ言葉は分からないだろうが…」
「言葉が分からないから、一生懸命走り回ってるよ。器量もいいし、気遣いも出来る。言葉が分かるようになれば、いい看板娘になってくれるだろうねえ」
にこやかに言う女将に、利達はやはりと思った。
女将は利達の想像以上に、を可愛がっている。
それにと言う人物を買っているようだった。
これでは手放したくないのかもしれない。
頼み込んだ手前、今更手放して欲しいとは言い出せまい。
「そうですか。では、彼女を頼みます。また様子を伺いに参りますので」
そう言うと、利達は踵を返して帰ってしまった。
「会っていかないのかねえ?」
急いでいたのだろうと思った女将は、そのまま舎館の中に消える。
それを物陰から見つめる人物が居た事には、利達も女将も気がついていなかった。
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