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煌羽の誓い


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里家の子童達と一緒に食事を取った後、は乙の元を訪ねた。

。久しいのう」

は辺りを見回しながら乙に言う。

「…松塾に帰ってきたようですわ」

高く積まれた書物の数々に、は懐かしさを感じていた。

「そうかの」

「老師。ご無事でよかった…」

積まれた紙の山から目を離したは、そう言って俯いた。

乙が無事であったことが、こんなにも嬉しい。

「心配をかけたようじゃな」

「何故こちらに?」

「ここは麦候が台輔に頼んで、探してきてくれた隠れ家のようなものだの。あの焼き討ち以来、松塾の関係者が次々と襲われとる。みな散り散りになって隠れておるよ。だが…わしよりも。お主はどうしておった?」

「私は和州城に浚われておりました」

「何…?」

「呀峰に浚われたのです。煌羽は関係なく、松塾の関係者として浚われたようですね。私が仙であると知らなかった呀峰は、皆が死んだかどうかを私に聞きました。知らぬふりをし、死にそうに振舞ってなんとかその場を逃れ、その後、拓峰の親切な方に助けて頂いたのです」

「そうか。和州との州境は閉鎖されておったからの」

ええ、と答えながら、はずっと聞きたかった事を問う。

「あの時…、一体どれほどの人が死んだのでしょうか…」

「たくさんの罪無き命が奪われた…わしが助言せなんだら、焼き討ちはなかったのかもしれんのう」

「そのようなことを仰ってはいけません。靖共の手駒になってしまえば、松塾で教えていた事の意味が失われます」

「…」

「こうやって生きている者もいるのですから、そう落胆なさらないでくださいませ」

「そうじゃな…この里にも一人おる。松塾に通っていた事は隠しておるがの」

「あれだけの事があったのですもの…。当然でしょうね」

「しかし無事でよかった」

「はい。ご心配おかけ致しました」

「麦候が一番心配しておったよ。焼き討ちの瞬間まで生きていた事は伝えたが、その後の事はわしも知らなんだでな」

「はい。これからまっすぐ麦州城を目指します。ここは通過点でした。それにしても、偶然とは言え、天に感謝せねば。ここで老師に会うことが出来るとは、思ってもおりませんでした」

「そうじゃな。わしも驚いた。さあさ、今日はもう寝なさい。早く発って、麦候に会うことじゃな」

「はい」

はそう言うと、深く頭を下げて客房に戻った。

一日中歩いていたため、疲れきっていたは、乙に会えた興奮も冷めやらぬ内に、眠りに就いていた。































翌日、はまだ誰も起きていない早朝に目が覚めた。

早く発たねばという思いが、目を覚まさせたのだろう。身支度を整えて、物音を立てぬよう気をつけ、そっと里家を出ようとしていた。

「あら?おねぇ…さん」

声に驚いたは、慌てて振り返った。蘭玉がまだ眠そうな目をして立っている。

「あ…ごめんなさい。起こしてしまったのね」

「ううん。いつもこの時間に起きるのよ」

「働き者なのね」

そう言うと蘭玉はまた嬉しそうに笑った。

しかしすぐにに問う。

「もう、行ってしまうの?」

「ええ。開門と同時に発ちたいの。一晩泊めてくれてありがとう。遠甫とも有意義なお話をさせていただいたわ」

「そう。じゃあ、気をつけてね」

「はい。ありがとうございます」

丁寧に頭を下げたに習い、蘭玉も頭を下げていた。

微笑ましくそれを見て里家を出る。





昨夜、乙との会話で出た、松塾の者を訪ねて話をし、は固継を後にする。








































固継を出てすぐ、追ってくるように走る荷馬車があった。

「よお、姉ちゃん。昨日里家に泊まってた人かい?」

振り返ったは声をかけてきた人物を見る。

「乗せてってやろうか?次の里までだけどさ」

荷台には何も積まれておらず、これから仕入れにいくのだと言う。

「お邪魔でないのなら、乗せてくださいませんか?」

「おう。乗んな」

荷台にが乗ると、すぐに出発される。

その直後、行き先を聞かれる。

「麦州の方へ行こうかと」

「へえ。あんたは麦州の出身かね?」

「…いいえ。私は和州から来ました」

「そうかい。麦州はいい所だよ」

「瑛州にいても、そう思うのですか?」

「そう思うのさ、黄領にいてもな。何故なら州侯がいいからね」

「台輔よりもですか?」

「そうさなあ〜。台輔よりも、目端が利くからねえ」

「へぇ…そうなんですか」

「とても民から慕われている、良い人物らしいし」

相槌を打ちながらも、の顔は笑みを浮かべていた。

そんな話をしながら揺られてしばらく、歩くよりもずっと早く次の里についた。

「ありがとうございます」

「何、良いって事よ。まだ妖魔も出るから、気をつけてな」

固継から乗せてくれた人物を見送って、はさらに次の里を目指す。

その日は荷馬車に乗せてもらえる事が多く、一日が終わる頃には随分の距離を稼いでいた。






















翌日も、その翌日も麦州の州城を目指し、は歩き続けた。

道のりはすでに随分と進んでおり、は瑛州を抜けて麦州へと入っていた。

麦州侯を褒め称える噂は、州都が近づくほど増え、その度には笑んでしまいそうになる頬を、つねっては戻していた。

そして一週間が経過し、遠くに州城のある凌雲山が見えるほどまでに近付いていた。

「やっと…ここまで辿り着いた…」

凌雲山は高く天を貫き、は雲の峰を見上げながら足を進める。

高い空を見上げて歩いていると、胸が高鳴り始めるのを感じた。

「浩瀚…」

再会し、まず何を言えば良いのだろうか。今も変わらぬ気持ちで居るのだろうか。話をした期間はとても少ない。松塾で、あるいは州城で。数え上げる事が出来る程度のものだった。それでもの思いは変わることなく、胸の鼓動は打ち続けている。

同じ気持ちでいてくれていると、信じてここまで歩いてきた。

例え気持ちが変わってしまったとしても、生きていることだけは伝えねばならない。

麦州城で待っていると、約束したのだから…



続く






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もう、随分長い間…

お相手が出て来てないような、、、

                  美耶子