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煌羽の誓い


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翌日、を待ち受けていた者は、煌羽の同志達だった。

さま!」

「みなさま!お元気でしたか?」

「はい。我々はつつがなく。麦侯がとてもよくして下さっておりますから。紀州とも連絡を取り続けておりました」

紀州の名に、は伯父の様子を訪ねる。

の伯父は煌羽の活動を今なお続けているようだった。

「偽王の乱の際、危うく捕まりそうになったと仰っておられましたが、今は同志を増やしつつ、再び三公との接触を試みているようです」

「そうですか…無事でいたのですね」

「はい。昨夜さまがこちらに到着した事を聞き、すぐに青鳥でにお知らせしております。それから、一つ見て頂きたいモノがあるのですが」

男はそう言って歩き始めた。

ついていくと、とある房室の前で立ち止まる。

「ここに何かあるのですか?」

問いかけるに笑みを向け、男は扉を開けた。

中には叩頭した官吏が六名いる。

訝しげに近寄ったは、背後について入った男の声を聞いた。

さまに顔をお見せなさい」

ゆっくりと上げられた面々に、は小さく驚きの声を発す。

それは以前、煌羽から追放した者達だった。

「あなた達…。何故ここに?」

「麦侯の温情により、こちらの州城に勤めております」

「麦侯の?」

振り返って説明を求めたに、煌羽の男が口を開く。

「煌羽は追放されたが、麦州で勤めるには問題がないだろうと麦侯が。彼らを捜し出し、ここに連れて参ったのです」

「まあ…そうでしたか。では何故叩頭しているのです?」

「許しを請うためでしょう」

「…それは誰に対してですか?巻き添えになった民にですか?それとも私にですか?」

「双方でございます!」

元煌羽の男は再び叩頭し、叫びながらに答えた。

「取り返しのつかないことをしたと、今も深く反省致しております。麦侯の温情に甘え、これまでさまのご無事を確認出来るよう、この州城に留め置いて頂いたのです。ですから…我々はすぐにでも、ここを出ていく所存にございます!」

は男達を見渡し、一番前で叩頭する男に歩み寄る。

跪いてその者の肩に、そっと手を置いた。

「麦州に仕える者を、私の一存で追い出す訳には参りません。それに、ここは煌羽の集まりではなく、国の行政機関なのです。私に許しを請う意味が分かりません」

がそう言うと、男はようやく顔を上げる。

「あなた達も無事で、なによりです」

さま…」

「生きていることが、一番大切なのです…ですから、叩頭を止めて立ち上がりなさい」

はそう言って立ち上がる。

続いて立ち上がった全員を見て、にこりと微笑んだ。



















煌羽の者と別れ、は州侯の政務の場へと移動していった。

州宰と供にいた浩瀚を見つけると、跪いて頭を垂れる。

「慈悲深い麦侯に、感謝を」

何事かと問いたげな雰囲気を感じ取り、は口を開く。

「先ほど、煌羽の者と話しを致しました。温情の数々、表しようのないほど、感謝致しております」

「はて…何のことだろうか?柴望、何の事か分かるか?」

「わたしには分かりかねます。煌羽という名も、聞いた事がないですな」

あくまでも知らないと言い放ってしまう辺り、にくい事をすると、は心の中で微笑んだ。

立ち上がって、は軽く頭を下げる。

「分からずとも良いのです。ただの戯れ言だと思い、聞き流して下さいませ」

無言の頷きを見たは、表情にも出して微笑んだ。































その日の夜、は借り受けた房室で、窓辺に佇んでいた。

昔の盟友に会えたことが、軽い興奮を呼び起こして、眠気を吹き飛ばしていたのだった。

寝付けそうにないと思い、少し歩こうかと房室を出る。

「あら?」

ふと立ち止まって辺りを見る。

浩瀚と話した庭院へと、知らず足が向いていたのだ。

暗闇にさざなむ雲海は穏やかに打ち続ける。

は木の側へと歩み寄り、そっと身をもたせた。

「こんな時間に、女性が一人で出歩いてはいけない。いかに州城とはいえ、よからぬ事をたくらむ者もおろう」

くすりと笑ったは、姿なき声に答える。

「それは、どのようなお方なのでしょう?」

すっと伸びてきた腕は真後ろから。

さすがに少し驚いたが、なんとか声には出さずにいた。

「このように捕まえて、自室へと連れ帰ろうとたくらむ者です」

「いつから居たの?」

「少し前から」

「眠れないの?」

を訪ねようか、寝てしまおうか、迷っていた」

木の後から姿を見せた浩瀚は、の前に回り込む。

「だが、こうして目前に現れようとは。このまま浚ってしまおうか…」

額を合わせるようにして付け、浩瀚は優しくに言った。

「私はそれに、抗う術を持ち合わせておりませんわ」

そうが言うと、口付けを受ける。

そのまま引かれていき、二つの影は庭院から姿を消した。

































それから幾週間かたった頃、麦州城に天官長謀反の報が入った。

それと同時に、麦州侯の罷免を告げた勅使を見送って、麦州の官吏達は唖然としていた。

州城内で捕らえよとの命を、実行に移そうとする者は誰もいなかった。

太宰は三公と共謀し、謀反を図った。

それらがすべて、浩瀚の指示であったと言う知らせをが聞いたのは、他ならぬ浩瀚本人の口からだった。

「莫迦な…公ともあろう方々が、謀反を起こすなど…それをあなたが指示していたのですって?どうゆう事なのです…?」

は驚愕の眼差しで浩瀚を見つめていた。

「罠にかけられたのであろう。靖共がいよいよ動き出したと見た方がいい。しかし、太宰が弁明してくれるであろう」

は手に持っていた茶器を卓上に置き、震える声で言った。

「冢宰、和侯。この国はとんでもないものを飼っている」

「和州か…なんとか出来れば良いのだが」





「今はそれどころでは…和州の事ならなんとかなりましょう。…そうですね。義民が出てくるのを待つのも手かと」

「義民?煌羽のような?」

「…さあ、どうでしょうか」

虎嘯らの顔が過ぎていったが、それを口に出すことはしない。

「そうか…。和州の各所で乱が起きれば、主上はどうなさるのだろうか?」

浩瀚の何かを含んだ物言いに、はしばしの間沈黙し、静かに言った。

「和州の…どこを拠点に?」

の問いに、浩瀚もまたしばしの沈黙を守った。

ややして静かに言う。

「狙うは呀峰。よって拠点は明郭に」

「やはり…」

はそう言うと、浩瀚を見つめていった。

「浩瀚、今しばらくのお別れです」

「どうゆう事だ」

訝しげに問う浩瀚に、は後退して跪く。

「たった今より、州官の席から抜けとうございます。煌羽の盟主として、明郭で活動するであろう義民を助けたく、同志を募りに参ります」

「席は抜かない。しかし煌羽は…」

「紀州でずっと、活動は続けられておりました。偽王の乱後、紀州の州師に入りこみ、戦闘の訓練を積んで万一の時に備えております。一卒…百名がすぐにでも動きましょう。私の考えが間違っていないのなら、それでは少ないでしょうが、私も逃亡生活の中で多少の活動は続けていたのです。集められるだけ、集めてみようかと思っております。連絡一つで、いつでも動くことが出来るようにするためには、今から私が動かねばなりません」

「しかし、まだ決まった訳では…」

「決まった時の為に、今動くのです」

「…」

無言の浩瀚に、立ち上がったが微笑みかける。

「そのようなお顔をなさいますな。指示が終わり次第、戻って参ります」

そう言えば浩瀚の方から近寄り、の手を取って言う。

「必ず生きてと…約束してくれるだろうか」

握りしめられたの手に、ぐっと力が入った。

「盟誓いたします」

煌羽の盟約が浩瀚の脳裏に浮かび上がる。

いかな境遇に於いても、必ず生きて戻られん。

例え竄匿し恥辱を舐めようとも、浩嘆の地に貶められようとも、それを盟誓されんとす。

幾度も思い起こした紙切れ。

それと同時に浮かび上がった相貌。





「元煌羽の者達にも、声をかけることをお許し下さいますか?」

「それはもちろん」

「ありがとうございます」

は微笑んでその場を退出し、さっそく各所に知らせを飛ばした。





州城内を歩き、元煌羽の者達とも会って話をする。

元々戦わない者達には、連絡のために麦州城に留まるよう言い、一度追放した者達にはすぐに明郭に向かうように言った。

「とにかく実情を見聞しておいて」

と同行するのもは三名だった。

その後は浩瀚の許に行き、現時点での詳細を聞いて支度にかかった。



続く






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                  美耶子

    

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