ドリーム小説
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煌羽の誓い =15= そしてその翌日、は乗騎に跨り、麦州城から出た。
一路、紀州に向けて空を駆ける。
紀州についたは、伯父の居院を訪ね、再会を喜び合った。
「!無事でよかった。本当に心配しておったぞ。長旅で疲れておるだうが、先ほど悪い知らせが来た」
伯父の表情から、は浩瀚に関してだと思った。
「麦州で何かあったのでしょうか?」
「太宰が自害なされた。何の弁明もないままであったそうだ。謀反の裏にいるとされている麦州侯の許へ、国府から秋官が迎えにあがるそうだ」
「やはり…」
ここまでは最悪の事態として予想をしていた。
浩瀚は逃げないだろう。
麦州すべてが謀反と見られぬよう、捕まるに違いない。
しかしそのまま国府に突き出されてしまえば、靖共の手中に入ってしまう。
護送の者が靖共の手の内にあれば、国府に着く前に殺されてしまうかもしれない。
予想していたはずの事なのに、心に不安が芽生えた。
「だけど…盟約を…」
思わず瞳を閉じたの肩に、伯父の手が気遣わしげに置かれた。
それから三日後。
紀州、伯父の許で留まっていたに、麦州に残った煌羽の者から知らせが届いた。
浩瀚が護送の途中で、行方を眩ませたと言う知らせだった。
「良かった…」
知らせには密かに託された浩瀚の言が書いてあり、和州で誰がどのように動くのか、それによって知ることが出来た。
そしては、次に動くべき事を実行に移すべく、伯父に向かった。
「こちらで訓練をしていた一卒…いえ、二卒に増えたのでしたね。それを、和州明郭へと送って下さい。そこで桓タイと言う人物を訪ね、彼の指揮下に入って頂きたいのです。可能でしょうか?」
偽王の乱のおり、偽王側に着いたことを後悔する者が続出した。
汚名を返上したいと思っている者が煌羽の活動に賛同し、今も増えつつあるそうだ。
「確かに引き受けた。この時の為に、一つ事件を起こす手筈も整っている。近日中に実行に移そう」
伯父はそう言うと、指示の為に退出していった。
はそれを見送って、身支度を整える為、自らもその場から離れた。
数刻後、伯父に別れを告げ、は三名を残して紀州を発った。
再び空を駆けて、瑛州に入り、各地へと足を運ぶ。
明郭に集うように言って、次の街へと向かう。
瑛州では合計で九つの街を廻り、次の州、征州に向かい、八つの街を廻る。
そしては、麦州に戻ってきた。
二度手間のようだが、紀州の伯父の許に向かうのが何よりも先決だったのだ。
麦州では三つの街を廻る。
その中の一つ、産県のとある里で、は数日間を過ごした。
ここは尤も同志が多い場所…母と暮らしていた里であった。
「さて…」
いかねばならぬ州が、残り一つとなった。
どれほどの人数が集まるのだろうか。
知らせにあった浩瀚の言では、州宰と左将軍が、護送の道中で合流するとあった。
となると、浩瀚は何処かに身を潜め、左将軍、桓タイが陣頭指揮をとるのだろう。
そして柴望が二人の間で、連絡を結ぶ。
明郭の桓タイを訪ねるように言って廻っているのだから、そうでなくては困るのだが…。
もし違っていたとしても、恐らく大事にはいたらないだろう。
先に明郭へと送り込んだ煌羽の者には、の動向を明らかにしている。
紀州の兵達が合流するまでには、誰かが桓タイを名乗っているに違いないのだから。
「もう一息よ」
自分にそう言い聞かせると、は騎獣を駆って空へと舞い上がった。
最後にが向かったのは、和州であった。
しかし明郭ではない。
和州止水郷拓峰…虎嘯達の許へと向かったのだった。
姿を現したに、店先に居た虎嘯は驚く。
しかしすぐに中に引き入れ、夕暉を呼んだ。
「お久しぶりでございます」
拱手をしながら、は続ける。
「盟約通り、戻って参りました」
はそう言うと、微笑んで兄弟を見た。
「さん、目的の人には会えたの?」
そう言った夕暉に、は微笑んで頷く。
「本日は煌羽の盟主としてではなく、お世話になった一人の人間として参りました。とは言え、煌羽の活動中ですので、長居は出来ないのですけど」
はそう言うと、二人の顔を見る。
「お二人に、ご紹介したい方がおりまして」
そう言って二人の反応を待つ。
兄弟は一瞬顔を見合わせ、すぐにに向き直った。
「紹介?」
「ええ。仲介屋のような事をしている人物を、ご紹介しようかと。彼は何でも仲介いたします。馬の手配から人の手配、戈剣…冬器にいたるまでを」
固継でその人物に会った時、はすぐに身の上をあかした。
松塾の焼き討ちの時、その場にいた事、そして煌羽に所属する者であることを。
その人物は煌羽の事を知っていた。
「冬器…」
ええ、と言って、は瞳を伏せる。
「私が役に立てる事と言えば、これぐらいですから…名を労蕃生と言います」
「ひょっとして、その人も麦州の…?」
「…。どうでしょうか。ともかく、労は瑛州固継におります。私の名をだせば、すぐに商談に移ってくれるでしょう」
虎嘯が頷いて答える。
「そいつは助かる」
「産県の誼、ですわね。ところで…勝算は?」
それには夕暉が答えた。
「今の所は無理だね。もっと色々揃えなきゃいけない。そう、色々とね…」
もし、先に何処かで乱が起きれば、ここも時を同じくして実行に移せるかもしれない。
そうなれば、州師は分散されるはずだ。
ここは乱を起こすにしては、あまりにも数が少ないように思う。
冬器を調達したところで、勝算があるようには思えない。
だが、夕暉は何かを考えているようだし、頭のいい子だから、時期を見極めることが出来るだろう。
はそう信じて、心の底から言った。
「そうですか…ご無事を祈っております」
「さんも、気を付けて」
夕暉のその言を最後に、は拓峰を後にした。
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