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煌羽の誓い


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そしてその翌日、は乗騎に跨り、麦州城から出た。

一路、紀州に向けて空を駆ける。

紀州についたは、伯父の居院を訪ね、再会を喜び合った。

!無事でよかった。本当に心配しておったぞ。長旅で疲れておるだうが、先ほど悪い知らせが来た」

伯父の表情から、は浩瀚に関してだと思った。

「麦州で何かあったのでしょうか?」

「太宰が自害なされた。何の弁明もないままであったそうだ。謀反の裏にいるとされている麦州侯の許へ、国府から秋官が迎えにあがるそうだ」

「やはり…」

ここまでは最悪の事態として予想をしていた。

浩瀚は逃げないだろう。

麦州すべてが謀反と見られぬよう、捕まるに違いない。

しかしそのまま国府に突き出されてしまえば、靖共の手中に入ってしまう。

護送の者が靖共の手の内にあれば、国府に着く前に殺されてしまうかもしれない。

予想していたはずの事なのに、心に不安が芽生えた。

「だけど…盟約を…」

思わず瞳を閉じたの肩に、伯父の手が気遣わしげに置かれた。







































それから三日後。

紀州、伯父の許で留まっていたに、麦州に残った煌羽の者から知らせが届いた。

浩瀚が護送の途中で、行方を眩ませたと言う知らせだった。

「良かった…」

知らせには密かに託された浩瀚の言が書いてあり、和州で誰がどのように動くのか、それによって知ることが出来た。

そしては、次に動くべき事を実行に移すべく、伯父に向かった。

「こちらで訓練をしていた一卒…いえ、二卒に増えたのでしたね。それを、和州明郭へと送って下さい。そこで桓タイと言う人物を訪ね、彼の指揮下に入って頂きたいのです。可能でしょうか?」

偽王の乱のおり、偽王側に着いたことを後悔する者が続出した。

汚名を返上したいと思っている者が煌羽の活動に賛同し、今も増えつつあるそうだ。

「確かに引き受けた。この時の為に、一つ事件を起こす手筈も整っている。近日中に実行に移そう」

伯父はそう言うと、指示の為に退出していった。

はそれを見送って、身支度を整える為、自らもその場から離れた。

数刻後、伯父に別れを告げ、は三名を残して紀州を発った。

























再び空を駆けて、瑛州に入り、各地へと足を運ぶ。

明郭に集うように言って、次の街へと向かう。

瑛州では合計で九つの街を廻り、次の州、征州に向かい、八つの街を廻る。

そしては、麦州に戻ってきた。

二度手間のようだが、紀州の伯父の許に向かうのが何よりも先決だったのだ。

麦州では三つの街を廻る。

その中の一つ、産県のとある里で、は数日間を過ごした。

ここは尤も同志が多い場所…母と暮らしていた里であった。

「さて…」

いかねばならぬ州が、残り一つとなった。

どれほどの人数が集まるのだろうか。

知らせにあった浩瀚の言では、州宰と左将軍が、護送の道中で合流するとあった。

となると、浩瀚は何処かに身を潜め、左将軍、桓タイが陣頭指揮をとるのだろう。

そして柴望が二人の間で、連絡を結ぶ。

明郭の桓タイを訪ねるように言って廻っているのだから、そうでなくては困るのだが…。

もし違っていたとしても、恐らく大事にはいたらないだろう。

先に明郭へと送り込んだ煌羽の者には、の動向を明らかにしている。

紀州の兵達が合流するまでには、誰かが桓タイを名乗っているに違いないのだから。

「もう一息よ」

自分にそう言い聞かせると、は騎獣を駆って空へと舞い上がった。











































最後にが向かったのは、和州であった。

しかし明郭ではない。

和州止水郷拓峰…虎嘯達の許へと向かったのだった。

姿を現したに、店先に居た虎嘯は驚く。

しかしすぐに中に引き入れ、夕暉を呼んだ。

「お久しぶりでございます」

拱手をしながら、は続ける。

「盟約通り、戻って参りました」

はそう言うと、微笑んで兄弟を見た。

さん、目的の人には会えたの?」

そう言った夕暉に、は微笑んで頷く。

「本日は煌羽の盟主としてではなく、お世話になった一人の人間として参りました。とは言え、煌羽の活動中ですので、長居は出来ないのですけど」

はそう言うと、二人の顔を見る。

「お二人に、ご紹介したい方がおりまして」

そう言って二人の反応を待つ。

兄弟は一瞬顔を見合わせ、すぐにに向き直った。

「紹介?」

「ええ。仲介屋のような事をしている人物を、ご紹介しようかと。彼は何でも仲介いたします。馬の手配から人の手配、戈剣…冬器にいたるまでを」

固継でその人物に会った時、はすぐに身の上をあかした。

松塾の焼き討ちの時、その場にいた事、そして煌羽に所属する者であることを。

その人物は煌羽の事を知っていた。

「冬器…」

ええ、と言って、は瞳を伏せる。

「私が役に立てる事と言えば、これぐらいですから…名を労蕃生と言います」

「ひょっとして、その人も麦州の…?」

「…。どうでしょうか。ともかく、労は瑛州固継におります。私の名をだせば、すぐに商談に移ってくれるでしょう」

虎嘯が頷いて答える。

「そいつは助かる」

「産県の誼、ですわね。ところで…勝算は?」

それには夕暉が答えた。

「今の所は無理だね。もっと色々揃えなきゃいけない。そう、色々とね…」

もし、先に何処かで乱が起きれば、ここも時を同じくして実行に移せるかもしれない。

そうなれば、州師は分散されるはずだ。

ここは乱を起こすにしては、あまりにも数が少ないように思う。

冬器を調達したところで、勝算があるようには思えない。

だが、夕暉は何かを考えているようだし、頭のいい子だから、時期を見極めることが出来るだろう。

はそう信じて、心の底から言った。

「そうですか…ご無事を祈っております」

さんも、気を付けて」

夕暉のその言を最後に、は拓峰を後にした。



続く






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誓いは果たすために存在します。

破れてしまう事があっても、可能な限り進み続ける。

                           美耶子