ドリーム小説




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煌羽の誓い


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その日を境に、靖共はほぼ毎日来るようになった。

すぐに帰ってはいくが、国に仕えるように毎日言いに来るのだった。

ある日は、王について問う。

それに対し、靖共の言は完全に王を舐めており、己がすべての実権を握っているかの如し暴言を吐いていた。

「いずれにしろ、主上はおられん。蓬莱に逃げ帰ったとの噂も聞く。また空位の時代になりそうだ」

さもそれを待っているかのような言い様に、は靖共を睨む。

「空位になれば、天の理が傾きます。また、民が苦しんでしまう。一国の冢宰ともあろうお方が、それを望んでおられるようですが?」

「まさか。望んでいるはずなかろう。本当に困ったことよの」

笑いながら退出する靖共に続き、鎖の重々しい音が房内に響く。

「私は…こんな所で何をしているのかしら…」

拘留されて、もうどれ程の日数が経ったのか…。

こうしている間にも、和州では麦州の者が動いているのだろう。

煌羽も一緒に動いているはずだ。

背後に麦州が居ることを、決して悟られてはいけない。

靖共の手の内にあるのなら、なおの事だった。

「やはり…従ったふりをして、ここから出るべきなのかしら…」

だが、そう簡単に信じるだろうか。

「いいえ…信じるはずないわ。それに…下手に私が何かをすると、危険かもしれない」

和州での事が収まるまでは、大人しくしているのがいいだろう。

例えそれで幾年か過ぎようと、例え、それで命を落とす事になろうと…。

「浩瀚…」

無意識に呟いた声を慌てて消すように、は手を振って立ち上がった。

例え独り言でも、聞かれていたら問題になる。

浩瀚と繋がりがあるなどと露見してしまえば、どう利用されるか分かったものではない。

大きく息を吐いて、は牀へ横になった。

今が夜かどうかは分からないが、眠ってしまおうと瞳を閉じた。
































「ん…」

がちゃりと大きな鎖の音に、の瞳が薄く開かれる。

食事の時間だろうかと起きあがり、軽く身なりを整えて扉が開かれるのを待った。

伏せた女御を見ながら、は首を傾げる。

いつもの女御ではなく、見慣れない女に見えたのだ。

しかし食事を持っている所を見ると、代わりの者なのだろう。

だが、いつもの女御はどうしたのだろうか。

「あの…いつもの方は?どうかなさったのでしょうか?」

「…」

「辞めた。お前を逃がそうとしていたからな」

女御ではなく、外の男がそれに答える。

「え…?私を?それは何かの間違いですわ」

は言いながら立ち上がって、戸口に向かって歩き出した。

慌てた男達は中になだれ込み、を止めようと腕を広げた。

「何も逃げようとはしておりません。…冢宰に言いなさい。私は彼女と一言も口を聞いていないと。彼女はいくら私が質問しても、何も答えてはくれなかったのだから。まさか、無体な事をなされてはおりませんわね?」

の鋭い眼光が、男達を一歩、後退させる。

「どうしました?早く冢宰の許へ行きなさい。何も彼女を戻してくれと、言っている訳ではないのですから。ただ誤解を解く手段を、私は持っておりません。これまで監視していた、あなた達がそれはよくご存じでしょう?」

「だが…」

「いいから行きなさい!」

男達は負けたように退き、扉を閉めて鎖を掛けた。

中に女御が居ることも忘れて。

「閉じこめられてしまいましたわね。まあ…すぐに戻ってくるでしょう」

はそう言うと、女に笑いかけて椅子を指した。

戸惑っている女御に、構わないと言うと、書棚に向かって一冊を取り出す。

ぱらりと捲ってそのままの体制で文字を読み始めた。

しかし、女御の気配が近づいてきたのを感じ、は本をぱたりと閉じてそちらを見た。

女御はのすぐ近くまで来ており、その桜色の袖は顔を隠している。

は訝しげにそれを見ながら、本を書棚に置く。

袖で顔を覆うその仕草に、泣いているのだろうかと思った。

桜色の襦裙に隠れて、女御は額しか見えていない。

「どうかなさったの…?あの、ひょっとして、以前ここに来ていた方に何かあったのですか…?」

その問いに対し、女御は首を振って否定した。

「泣いておられるのですか?それとも気分が悪…」

そこまで言った瞬間、その袖は大きく取り払われ、の視界を桜色に染めた。

何事かと思っていると引き寄せられており、気がつくと桜色に包まれていた。

「え…あの…?」

女性にしては大きな胸元を頬に感じる。

背もより随分と高いようだった。

体ごと伏せていたために、気がつかなかったのだ。

「あなた…男…?」

視界の端に笑った女御の口元が見え、はそれによって焦りを覚える。

逃げようともがく体を、桜色の女御は押さえつける。

「何をするのです!」

胸元に手を打ち付けながら言うに、女御の手が伸びてきて、顔を上に向けられる。

端正な顔立ちの女御だった。

どこかで見た面差しに、の力は弱まる。

しばらくその顔を見つめていたの瞳が大きく開かれ、それと同時に口も開かれた。

「こ…」

女御は一言しかそれを許さず、残りの言葉を口付けによって消した。

完全に脱力してしまったは口付けの後、女御に体を預けて小さくか細い声で言う。

「浩瀚…逢いたかった…」

女御姿の浩瀚は何も言わず、の背を撫でる。

は身を起こして、浩瀚の顔を見つめた。

「すっかり…騙されましたわ…それに、とても綺麗」

そう言ったに、浩瀚はちらりと笑い、再び口付けた。

思わぬ再会にの瞳は静かに閉じられ、口付けは深まっていった。











「いつから…ここに…?」

長い口付けの後、は桜の襦裙に頬を預けながら、そう問いかけた。

「随分と前から。信用を得るのに、少し時間がかかってしまった」

「何故こんな所に…」

「もちろん、を救い出すために…」

「竄匿中でしょう!」

「和州で捕まった煌羽の内、二名が桓タイと合流した。なんとしてでも、浚われた事を知らせねばならぬと、街に戻ったようだ」

「そんな…なんて危ない事を。真っ直ぐ瑛州に逃げなさいと言ったのに…」

が運ばれた華軒を、見張りの数名が目撃している。その時は何か分からなかったようだが、後日合流した煌羽の者によって、である事が明らかになった」

「でも、どうしてここが?私ですら、ここが何処かも分からないと言うのに…」

「ここは冢宰府だ。私物化もいいところだが、官邸に移されていないのが救いだった。まだ動きが取…」

言いかけた声を、浩瀚は飲み込んでから離れた。

下がって叩頭し、扉が開くのをじっと待っている。

も再び書棚に向かい、本を捲りながら構えた。



続く






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慶東国冢宰ファンの皆様、深く深〜く謝罪いたします。

じょ、女装させてしまいました☆

                                美耶子