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煌羽の誓い


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拓峰はまだ、燻る煙が残っていた。

そのまま真っ直ぐ郷城に降り立ったは、警戒した冬器を持った数名に囲まれた。

さま!」

囲んだ一人がそう叫ぶ。

「あなたは…紀州の?」

「はい!よくご無事で!」

その者の声に、各所から反応があった。

の周りは、あっという間に人の山が出来た。

その人垣を縫ってやってくる人物を、は嬉しそうに迎える。

「虎嘯、夕暉…それに、将軍!」

「お久しぶりでございます。よくご無事で」

にこやかに桓タイは語りかける。

お互いあまり接点はなく、州城に於いて数回見かけた程度だったが、一つの目的のために動いた、同志のような感覚で話す事ができた。

「助けて頂きましたから。あの方に」

「は…?あの方と申しますと…。ま、まさか…!」

「そのまさか、で正解かと。私も驚きましたが」

はそう言うと、桓タイに軽く耳打ちしていった。

「実は冢宰府に閉じこめられていたのです」

「そ、そこに行かれたのですか?あの方が?」

「はい。驚いたでしょう?」

「驚いたと言うよりは…呆れました」

はそれに笑って、桓タイから隣の人物に目を移す。

「虎嘯、夕暉。無事でなりよりです。私の情報、少しは役に立ちました?」

「少しじゃねえな。大助かりだ。煌羽の連中も頑張ってくれたし、感謝しているぜ」

さん、無事でよかった。煌羽の人から州城に囚われたと聞いて、とても心配したんだからね」

「本当に、心配をおかけしたようで、申し訳なく思っております」

二人とそんな会話をしていると、桓タイが横から口を挟む。

「なんだ虎嘯、この方と知り合いなのか?」

それに答えたのは、のほうだった。

「虎嘯達は、私の命の恩人なのです。以前和州に囚われた時、虎嘯に助けてもっらったの」

「拾ったに近いけどな…」

照れくさそうに虎嘯が言う。

夕暉が何かを言おうとした瞬間、虎嘯の背後から大きな声があがる。

さま、わたしを覚えておられますか?」

気がついた虎嘯が体を退けると、そこには麦州で集めた人物が居た。

「ええ、もちろんですわ。拓峰にいらしたのですね。ご無事でなに…」

が最後まで言い終わらない内に、次々と声があがる。

の無事を喜ぶ者や、再会を喜ぶ者、まさに様々ではあったが、一度に全員が言うことを聞き取れるはずもない。

それに気がついたのか、虎嘯が人混みをかき分けて道を作り、桓タイが先導してを導いた。

軽く騒ぎになったことによって、各所から何事かと顔を覗かせる者がいた。

落ち着ける場所に移動したは、ほっと大きな息を吐き出す。

「やれやれ、とんだ騒ぎになりましたね」

呆れたように外を眺める桓タイに、はちらりと笑って言う。

「ええ、本当に。申し訳ございません。こんなにお騒がせするつもりはなかったのですが」

「いえいえ。煌羽の連中が終始不安がっていましたからね。一度顔を見せてくれると、ありがたいと思っていたところです。何しろ、足取りの掴めない状態でしたので」

乱が起きてから無事との知らせを受けたが、それを煌羽の者達に伝えることは不可能だった。

それどころではなかったのだから。

「それで…お話頂けますか。あの方の不審な行動を。瑛州で隠れているはずなのですが」

は冢宰府での出来事を、桓タイに事細かく説明をする。

話しが進むにつれ、頭を抱えるようにしていた桓タイに、は申し訳なく思いながら話しを終えた。

「まったく…すこしも自重しては下さらない」

「それは私も思いましたわ…随分と深く潜入していたようですから」

「潜伏の意味を分かっておられないのでしょうか…」

「どうかしら…。取り違えていることは間違いないわ」

そうが言うと、桓タイは軽く笑って返す。

「ああ、そうでした。先ほど、遠甫が此方に到着いたしましたよ。お体の方は大丈夫そうでした」

「老師が…?ご無事だったのですね」

大きな息を吐き出したに、桓タイは連れて来ようかと問う。

「いえ、それには及びません。私の方から老師を訪ねますわ。今はどちらに?」

「ああ、下でお話しされていたようですので、まだそちらにおられるかと」

「ありがとう。行ってみるわ」

































は桓タイに礼を言うと、乙を探して下に向かった。

乙は緋色の髪の人物と話しをしていた様で、はそれが終わるのを待とうと、その場に立ち止まった。

しかし乙がそれに気がついた。

「おお、か。囚われたと聞いておったが、無事でなにより」

「…老師。ご無事で…里家の事は聞きました。どちらに囚われていたのです?」

「和州城じゃよ。も居たと聞いたかの。その後は何処に?」

「私は冢宰府へ籠められておりました」

「冢宰府?」

訝しげな声に気がついたは、乙の隣に立っている緋色の人物に目を向ける。

「あ…お話しの邪魔をしてしまって」

「今終わった所じゃよ。陽子、こちらは煌羽の盟主…と言っても分からんかの」

「いえ。何となくは知っています」

陽子と言われた緋色の人物はに微笑みかける。

「初めまして、陽子と言います。里家で遠甫に教えを請うていました」

「ああ…では貴女が生き残った娘さん…。初めまして、と申します。昔、私も教えを請うておりました」

「昔?ひょっとして…」

隣を見る陽子に、頷いた乙が言う。

「浩瀚と同じ頃に教えたかの。の場合は、両親の薫陶(くんとう)が大きいようじゃったが」

「その両親が教えを請うていたのも、老師でございますが?」

がそう言うと、乙は柔和に笑む。

同じように微笑んだに、陽子が問いかける。

「もし差し障りがないのなら、教えて欲しい。煌羽の事を。ちらりと耳にする程度で、実はよく知らない。ただ、とても強い意識によって繋がっている感じがした。虎嘯らとは違う、何かがあるような…」

「ああ、それはきっと、盟約でしょう」

「盟約?」

首を傾げた陽子に、乙が静かに言う。

「いかな境遇に於いても、必ず生きて戻られん。例え竄匿(ざんとく)し恥辱を舐めようとも、浩嘆(こうたん)の地に貶められようとも、それを盟誓されんとす」

「…それが煌羽」

陽子はそう言うと、をじっと見つめる。

「煌羽の盟約は、盟主・が、昔、浩瀚に宛てて書き残したものじゃな」

「麦州侯に?どう言う…」

話し始めたは、煌羽のあらましからを陽子に語る。

しかし途中で言を切り、陽子に向かって微笑んだ。

「乱に参加せよと言っておいて、酷い盟約ですわね…元々煌羽は戦いを主体とした同盟ではないのです。戈剣(ぶき)を手に取った瞬間から、私は…」

はそう言うと、首を横に振る。

「冢宰府に囚われていたと言うのは?靖共が何か関係が?国府で人が囚われていたと言うのに、誰も気がつかなかったのか?」

「靖共は、府第を私物化しておりました」

「なるほど…入れたくない訳だ」

「入れたくない?他の人物をですか?」

「まあ、わたしを、だな。何も冢宰府ばかりではないが、誰もわたしが入ろうとするのを好まない」

「?秋官であらせますか?では、それは都合が悪いからでしょう。官だけが動かす時代が、慶には長くございましたから…冢宰府ですら私物化されていたのです。他の官府とて同じでしょう」

笑ったままの乙がに言う。

「秋官ではないがの」

「ですが…」

「陽子は字を赤子と言ってな」

「せき…し…?赤子!?景…王…赤子?」

絶句したままのは、陽子と目が合うと慌てて跪(ひざまず)き言った。

「今回の乱について、煌羽は私の指示に従っただけなのです。どうかご温情を…」

「そんなことはしなくてもいい。混乱を引き起こしておいて、王などと言うのは恥ずかしいかぎりだが、一応そうなっている。だが、わたしは虎嘯の仲間だし、桓タイとも仲間だ。ただ…王と言う立場を利用させてもらって、遠甫を太師にお招きした」

陽子はそう言ってを立たせた。

唖然としたは、ただ陽子を見つめるだけで何も言葉が出てこない。

「煌羽にも助けてもらった。ありがとう」

「いえ…戦ったのは私ではございません」

「だが…」

まだ何かを言いたい様子を見せた陽子に、気を取り直したは大きく頷き、微笑んでから言った。

「主上、私はまだやり残した事がございますので、退がらせて頂きますわ。それから…もう一つ、騒ぎを起こすことをお許し下さい」

はそう言うと、立ったまま礼を取ってその場から消えた。



続く






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次回、煌羽の真相?

その名を由来、意味を盟主が語ります。

真意を告げて…

                  美耶子