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煌羽の誓い


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しばしの抱擁後、は浩瀚に言った。

「父母の背負うものは…私一人ではなかった。煌羽の盟主になって、とてもよく分かったの。私の双肩には、多くの命が乗っている。だから、この場に留まる事は出来ません。私は紀州へ戻ります」

「煌羽の活動は、紀州でないと出来ないのだろうか」

「…紀州を正そうとしている訳ではございませんが、皆が紀州で待っております。私もまだ紀州の県城に席がございますから…」

「麦州に来ないか?」

「え?」

「過去に言ったようにも思うが…適当に取り計らって席を用意する。先程のの話しだと、さほど大勢でもないようだから、煌羽のすべてを麦州で雇おう」

「あ、あなたって人は…」

はそう言った直後、噴出して笑った。

「何も変わっていないのね」

そう言いながらさらに笑うに、浩瀚はただ静かに微笑みかける。

やがて笑いの収まったは、微笑んで浩瀚に言った。

「では、もう数年お待ち願えますか。煌羽は今回の事で、規律を著しく損なおうとしております。このまま続けるか、いっそ離散させてしまうか、伯父共々悩んでいた所ですので、すぐにに答えは出るでしょう。離散するにしろ、麦州で続けるにしろ、処理が残っておりますゆえ、整理のための時間を下さいませんか」

「何年も待ったのだから、後数年増えたとて構わない。だが…早く戻ってくるとだけ、約束するのならば、すぐにでも州城から出そう」

「約束できぬ場合は?」

「さて、どうしたものか…」

「まあ…あんなに素直な少年だったのに。本当に大人になってしまったのね」

がそう言えば、浩瀚も微笑んで言い返す。

「無邪気に笑っていた少女が、大人の色香を纏って目前に現れたのだから、離したくないと思うのは当然の事かと」

それによっての口は閉ざされた。

顔は薄赤くなり、目は再び雲海に戻ろうとしていた。

それを遮ろうと浩瀚が動く。

再び腕の中にを抱き、再度問うた。

「すぐにとは言わない。だが、早く戻って来て欲しい。いつも思い出していた。日々忙しさの中ですら、埋没させる事は出来ないほど色鮮やかに、院子と石案とが」

も自ら腕を回して、浩瀚に寄り添う。

「浩瀚…なるべく早くに戻ってくるわ。だから、その時まで待っていて」

優しく穏やかな日は、そうして暮れていった。





































それから二年が経過した。

連絡こそは途絶えなかったが、未だは麦州に現れていない。

しかし急を要する事態に、時代は移り行こうとしていた。

王による、女の国外追放が施行されようとしていたのだ。











そしてようやくが麦州に到着したのは、かなり緊迫した頃合だった。

、無事でよかった」

「浩…麦候。この度は我々一同、引きいれて下さってありがとうございます。ついては現在発布されている法令の事なのですが」

「女性の国外追放か…今麦州の青海に面した港町で、女達を匿っている。煌羽の中にも、女性はいるだろうか」

「目の前におりますわ」

「他には?」

「他にはおりません。実際はもう少しいたのですが、煌羽を抜けて巧へと逃れました。私だけが麦州まで来たのです。男が十二名、これが全部になります」

「そうか、ではは明日にでも港町へ。男達は預かろう」

「ありがとうございます」

二年を経て、やっと再会したと言うのに、この状況では喜べない。

せめて今夜語り明かそうと思い、浩瀚は紀州から来た官吏達の逗留する先へ、指示を出していった。

































その日の夜。

が逗留している房室へ、浩瀚は訪ねて行った。

分かっていたのか、昼と同じ襦裙のまま、は浩瀚を迎える。

「まだ起きていたのか?」

「来てくれるだろうと思ったので、待っておりました」

そう言っては微笑む。

浩瀚も微笑み返して房室内に入った。

「二年ぶりなのね…」

「そうだな。結局、煌羽はどのように?」

「活動は続ける事になりました。今回、伯父を中心に紀州に残る者が殆どでございました。私を中心に麦州に来た者は、紀州に戸籍にない者ばかり。土地もすでに没収されて、浮民同然の者ばかりなのです。紀州を守って行こうとしているようですが、やはり女の数は激減していますわね。三公もあまり力が無くなってきておりますし、今は名ばかりになっていますわ」

「そうか…だが、今は致し方ない」

「靖共が冢宰に任じられたと言うのを最後に、太保から来た連絡も途絶えてしまったのです。ああ、王が著しく精神を害されているような事も書いてありましたわ。靖共が相当目を光らせて、見張られているようで…。皆様、ご無事だといいのですが…」

すっと伸びた手はの頭上に置かれ、優しく撫でられる。

「きっとご無事であろう。あの誓いを胸に抱いたのなら、大丈夫だろうと思う」

言い終わった浩瀚の手は頭上から頬に移動し、そこで留まっていた。

「麦候も、あの誓いを胸に留めると、誓って頂けますか?」

が傍にあると言うのなら、いつでも誓ってみせよう」

「…あなたはいつも意地悪ね…明日にはまた発たねばならないと分かっていて、そのような事を仰るのだから…」

「すまない」

そのまま口付けを施し、浩瀚の顔は離れていく。

じっと見つめるの視線に、気がついた浩瀚は見つめ返した。

何かを求める目ではない事に、浩瀚は少し首を傾げる。

「どうした?」

「え…あ…いいえ。なんでもないですわ」

慌てて逸らした顔は赤く、二年ぶりに見るその様子に、浩瀚の腕は再び伸ばされていた。

しかし軽く跳ねる力に、腕の動きが鈍る。

「あの…麦候」

「昔のように呼んでいい」

「浩瀚…あの…」

ますます赤い顔を見せて、は途切れがちに言った。

「始めてあなたを見た時、なんて綺麗な少年なのだと思った。その面差しは、今も変わらない。だから、あまり近づけられると…その…恥ずかしいのです」

「近付かねば、口付けは出来ない」

唇を寄せながら言う浩瀚に、もはや何も言えなくなったは、ただなされるがままであった。

何度か続けて口付けた後、浩瀚は静かに染み入る声で言う。

「どのような事が起きようと、わたしは必ず生き抜いてみせる。もちろん、己に恥じる事はしない。だからもわたしに誓ってほしい。あの盟約を」

「はい、誓います。私はどのような境遇に陥ろうとも、必ず生きて戻って参ります。煌羽の関係で逃げねばならないような事があろうと、どんなに嘆き悲しむ事が起きようと、決して生を投げ出さず、生きてあなたの許へと戻って参ります」

そう誓ったの手を取り、浩瀚は切実に願いながら言う。

「必ず戻ってきてほしい。ここで待っているから」

「はい…」

薄い灯火の中で誓われた二つの思いは、闇夜に溶けていった。

























翌日、港へ向けて発ったを見送り、浩瀚は州城の中に戻ってきた。

昨夜、がこの城内に居た事が嘘のように、いつもと変わらぬ州城。

浩瀚は露台へと向う。

二年前に語り合った木を遠くに見つめ、さらにその奥に広がる雲海を見つめていた。

ややしてその場から下がり、浩瀚はいつもの政務へと従事していった。



続く






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慶は本当に激動の国ですね。

毎回思います。

                美耶子