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夢幻の国


=18=



それから一週間後。

更夜は、冢次の盟主と会った。

「貞幹から話は聞いている。騎獣にも乗れるとか。剣は使えるか?」

「多少は」

「よし、では剣型の冬器なら?」

「同じです。多少なら使えます」

雁国の元州では射士でもあった。

それを言うと説明が面倒なので言わなかったが。

盟主は更夜に頷いてから、貞幹を呼んだ。

「みんなを集めてくれ」

「いよいよか!」

そう叫んだ貞幹は、駆け足で人を集め始める。

しばらく待つと、大勢の人物が花庁に集まっていた。

「内部通達者からの報告によると、郷長が宰輔を捕らえたらしい」

どよめきが花庁に生まれる。

それが静まるのを待って、盟主は続ける。

「宰輔が囚われた事によって、郷長の背後にいる者が分かった。やはり国府が一枚噛んでいたな。これが少しやっかいなんだが…」

今度は静まりかえっている。

盟主は少し苦笑した様子で言う。

「冢宰と大司馬、それに太宰が裏で手を結んでいるようだ。このうち、太宰は宰輔に刃を向けたとして処刑されているが…」

盟主は一度切って間を置き、再び口を開いた。

「よって、我々の活動が国府に報告された場合、禁軍や首都州師が派遣される可能性がある。歩兵が辿り着くには、相当の日数を要するが、空行師ならば三日ほどで到着するだろう。よって、二日以上の戦闘は出来ない。目的は二つ。郷長を捕らえることと、宰輔の救出だ」

「二日か…それは少しやっかいだな…」

「そもそも、兵士の数がほぼ同格だろう。これで二日はなあ…」

そんなざわめきの中、盟主の声が響く。

「近日中に起こさなければならない。閃揄を庇護しているのが、冢宰なのか大司馬なのか、あるいはそのどちらもなのか分からないが、確実にその者は麒麟を利用し、玉座に就くだろう。そうなれば、後は考えるのも恐ろしい」

冢宰恣縦(ししょう)、大司馬戛戻(かつれい)、更夜が臭いと睨んだ二名だ。

こんな所で名が出て来るとは思わなかったが…




























反乱を明日に控えて、更夜は大きな溜息をついた。

…どうか無事で」

明日、実際に動くまで、祈ることしか出来ない。

郷城に行かせた使令は、呪の施された房室を見つけたと言った。

たった一カ所しかなかったが、その中に入ることは出来ないと言う。

もちろん、の気配を感じ取ることすら無理だった。

それで仕方なく、遠巻きに見張りを続けていたのだ。

一日に数人の出入りがある房室。

それらの人物をつけたこともあった。

そして会話を聞いてようやく、がいる事を知ったのだと報告があった。

内部通達者によってすでに知っいた冢次の盟主は、更夜を救済の筆頭にした。

更夜は一人になると、の使令を呼び出して言う。

「戦闘の始まる前に郷府へ行って、姿を現してほしい。きっと、妖魔だと言って騒ぎになるから、それで随分人員が減ると思う。冢次の者と郷城へ入ったら、すぐに単独行動をとるから、まっすぐ呪のかかった房室へ案内して。呪によっては、断ち切るとの命に関わるものもあるから、まずはどういった類の呪なのかを見極めなくては」

郷府を撹乱させるのは、晤繞(ごじょう)を筆頭に、蛻黯(せいあん)、翹猗(きょうい)、瞶掾(きえん)、飆翩(ひょうへん)に任せた。

女怪の嫖姚(ひょうよう)は妖魔ではないので、むろんその中には含まれない。

更夜とともに待機であった。

聚撈(じゅろう)は一番郷府へ潜り込んでいる回数が多く、よって案内役として残る。

それぞれ、役割の確認をして、更夜は短い眠りに入った。



























翌日、未だ明けやらぬ頃。

呼びに来る声によって、更夜は目を覚ました。

それと同時に、晤繞らは郷府へ向かうことになっている。

何の気配もなかったが、きっとすでに移動しているのだろう。

更夜を呼びに来たのは貞幹だった。

花庁にはすでに人がひしめき合っていた。

これまでに見たことがないほど人が多い。

郷府が抱えている兵卒と同数だと言ったのは、本当のようである。

これほどの人がいると言うのに、誰も口を開いていない。

鬨(とき)の声をあげるまで、蓄えているようにも見えた。

やがて貞幹が口を開く。

決して大きな声ではなかったが、充分に聞こえる程度の声だった。

数名を呼びつけて更夜につけると作戦を言い渡す。

大きく二つに分けて門を撃破し、そのまま中で戦うと言った簡素な作戦であった。

同数であっても、籠城されれば分が悪い。

少なくとも二門は確保せねばならない。

壁等は一切狙わず、ただ門だけを攻撃する。

それが出来るのも、内通者がいるからだと言う。

更夜はそれを聞きながらも、郷府の方へ目を向けていた。

むろん花庁の壁が映るだけだったのだが…。

今頃、妖魔が現れて騒ぎになっているはずだ。

そうすれば門は開かれる。

逃げなければならないからだ。

貞幹の声に、ふと現実に戻ってきた更夜は、一つの違和感を覚えた。

これは何だろうかと考え、すぐに盟主がこの場にいない事に気が付いた。

「何故指揮を執るのが盟主じゃなくて、盟主代理になる?」

小さく隣の男に聞くと、盟主は内通者と先に様子を見に行っていると返ってきた。

自ら動くのが性分なのだとも教えられた。

「なるほど…」

あまり話をした訳ではないが、それを頷いてしまう雰囲気の持ち主だったことは確かだ。

妖魔騒ぎに巻き込まれていなければ良いのだが…。



続く






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今回ヒロインさんは一回休みです☆

次はちょっと長めに…

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