ドリーム小説




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所変わってこちらは清漢宮、典章殿の一室。

夕餉を終えた宗王一家は、王后明嬉の振舞うお茶で、食後の団欒を決め込んでいた。

「いよいよ明日ですね。楽しみだわ」

文姫の楽しげな声を受け、明嬉もそれに同調する。

「何がそんなに楽しみなんですか?」

突然上から降って来た声に、家族は弾かれた様に窓を見た。

「ただいま戻りました」

にっこりと家族に微笑む利広。

「また、お前は…」

そう言って絶句した明嬉を、笑んで返した利広。

利達は眉を上げてそれを見ていたが、瞼をぴくりと動かし、利広に言った。

「二ヶ月もどこに行っていたんだ?まだ荒民は溢れていると思うのだが?」

「やだなぁ、兄さん。あらかた片付けていきましたよ。これ以上私が居ては、邪魔だろうと思ったのでね」

肩を上げて言う利広に、利達は深い溜め息を漏らし、小言を言うのを辞めた。

「で、何が楽しみなんです?」

再び問いかける利広に、先新が答える。

「泰麒捜索の折に協力してくれた各国へ、延王からの贈り物があるそうだ。なんでも、珍しい楽器を奏でる楽士がいるようで、演奏するためにこちらに来るそうだよ」

利広の目が細くなり、先新を見つめる。

「延王から?楽士?女性ですか?」

「さぁ、そこまでは判らんが…」

先新の困ったような声に、宗の麒麟、昭彰が答える。

「本日、到着の報告に来られたのは、男性でございましたよ。恰幅のいい方でしたが…」

それを文姫が受け継ぐ。

「でも、きっと違うわね。とても楽士には見えないもの」

文姫の言葉に、誰が報告に来たのか、利広には判った気がした。

匠師である冠禅は、がっしりとした体つきをしていた。

恐らく、報告に来たのは冠禅だろう。

「そうですか。それは楽しみですね」

「お前、明日はちゃんと正装してこいよ。雁からの国使を迎えるのだからな」

利達から重々注意をされ、利広は判りましたと、礼をとった。

夕餉の席は離散し、利広は自室に戻る。

雲海を眺めながら、一人呟く。

「再会は…意外と早そうだよ、

そう言って、くすりと笑った。







翌朝、は早朝に目覚めた。

昼前に訪れればいいわけだから、朝はゆったりと過ごすことが出来た。

そのまま宿で朝餉を取り、仕度にかかった。髪を結い上げ、化粧をする。

昨日利広に言われたからではなく、正装のための化粧に赤い紅をさした。

利広に貰った花鈿は、正装をしていても見劣りしないと思ったは、花鈿を挿して宿を出た。

赤い長袍の下に、桃色の長巾をかけ、花鈿に帯玉をつけたは、どこから見てもただの楽士には見えなかった。

さながら、貴人のような気品に満ち溢れている。

冠禅は宿の外で待機しており、楽士達と冠禅の配下の者と供に、一路国府を目指す。

「よく眠れた?」

は意地悪く、冠禅に問いかけた。

「…」

少し赤くなった冠禅を横目で見ながら、ころころと笑う

一通り笑い終え、楽士達の様子を伺った。

「枢盃、ちゃんと眠れた?」

は楽士の一人に、意地悪い問いではなく、純粋な問いをした。

「はい!あ…いえ…」

「そう…仕方がないわね」

そう言って軽く溜め息をつくと、枢盃は慌てて付け加えた。

「あ、でも、演奏はちゃんと出来ます!いつも様が仰っているように、頭の中で何度も練習しましたし!少し気が散った事は否めませんが…体力を消耗するような事は致しておりません!」

赤いなりにも、そう言い切った枢盃に、楽士達の間から笑いが起きた。

も軽く笑い、

「何もそこまで詳しく言わなくてもいいのよ。みなさんを信頼しておりますからね。大丈夫だと思っております。昨日の事は事故だと諦めましょうね。雁に帰ったら、必ず犯人を突き止めますから」

そう言って頭上に暗雲を引き寄せた。

だんだん大宗伯に似てきたのではないか、と思うほどの笑顔で微笑まれ、その場にいた楽士の何人かは固まる。

しばらく歩くと、正門に辿りついた。

そのまま国府へと進む。

「雁から参りました、楽士一同にございます」

国府にて取次ぎ、宮城へとたどり着いた。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

達は外宮にある掌客殿に通され、しばらく待つ事になった。

冠禅はにそっと問いかける。

「ここが掌客殿なら、あちらに行けば三公府なのかな?」

冠禅の指差す方向に眼を向け、は少し考えてから頷き言った。

「通って来た道を考えると、恐らくそうでしょうね。何処の王宮も、大きな違いはないようね」

「少しでも共通した所があると言うのは助かるな。演奏する訳でもないのに、やはり緊張する。は大丈夫か?」

冠禅の言葉には笑い、

「そうね。少しは落ち着いて演奏できそうよ。宗王も良いかただと聞いているし、大丈夫よ」

と、そう言って出されたお茶をこくりと飲み、二胡を取り出した。

楽器の状態を確認し、調律を施す。

他の楽士も、に習って調律を始め、やがて全ての楽器が万全になった頃、迎えが来た。

「ようこそお出で下さいました。私は宗王が末娘、文姫と申します。西園にある雅弓閣で、宴の用意をしておりますので、どうぞそちらへ」

公主が自ら出迎えてくれるなど、想像だにしなかったので、も他の楽士も驚いてしまった。

しかし文姫に微笑まれ、気を取りなおして自らも名乗る。

「大師を務めております、と申します」

「まぁ、大師はとてもお綺麗でいらっしゃるのね」

文姫の言葉に、少し照れながら、は礼を言った。

そして、文姫案内のもと、移動を始める。



水上宮殿。



清漢宮はそう呼ぶに相応しいと思った。

大小様々な島に、架かる橋は宮殿を繋ぐ。

清廉な雰囲気と同時に、のどかな印象を与えるその宮は、を他国にいると自覚させるのには充分だった。

「本来なら、内殿にて正式なご挨拶があるのですが、主上はすでに西園へと移動されております。雅弓閣では、とても綺麗に音が反響します。そちらで演奏していただけますか?」

は楽士を代表して、文姫に答えた。

「そのような良い場所でしたら、私のつたない演奏でも良く聞こえますわ。よろこんで演奏させていただきます」

文姫はくすくすと笑い、に向かって言った。

「まぁ、そのような事を仰って。とても楽しみにしておりましたのよ。偶然にも昨日、家族が揃いましたし。あぁ、だからと言って、緊張なさらないでね」

文姫の言葉に感謝しつつ、は微笑んで答えた。

「ありがとうございます。皆様に楽しんで頂けるよう、心を込めて演奏いたします」

家族が揃ったと言うことは、誰かが居なかったのだろうか?

奏国は安泰しているように見えるが、雁と同じで、やはり荒民の問題等で頭を痛めているのだろう。

近くは巧が荒れている。

慶はまだ、予断を許さない状態だし、荒民が慶を渡って雁に来るとは考えにくい。

そうなると、奏に流れてくるのは確実だ。

宗王に家族がいて、政務を助けているのなら、忙しくてなかなか顔を合わす機会がないのかもしれない。

どこの国も、大変なのだな、とは考えながら歩いていたが、思い切って文姫に問いかけた。

「あの、ひょっとして、大変な時期にお邪魔してしまったのでしょうか?」

は文姫に恐る恐る聞いた。

「いいえ?政が大変なのは、雁も奏も同じですわ。でも、太子が一人出かけておりま…。あぁ、着きましたわ。どうぞこちらへ」

文姫に言われるまま、中へと進む。

雅弓閣は円形の建物で、白い石造りの壁だった。

なるほど、音の跳ね返りも良さそうだし、これならそうとうよく響くだろう、とは見てとった。

雅弓閣の中は宴の用意がなされており、囲むように奏国の官使達が座って、演奏が始まるのを待っていた。

冠禅と護衛の為についてきていた禁軍の者は、奏の官に紛れて座った。

と楽士達は、楽器を右に置き、深く喉頭礼をとった。

奏の冢宰によって、宗王一家の説明を受ける。

宗王一家は宗王−櫨 先新、王后−明嬉、太子−英清君、太子−卓朗君、文公主、そして宗麟の昭彰が玉座を囲むようにいる、と言うことだった。

「此度は雁の呼びかけに応じて頂き、ありがとう存じます。雁国大師を務めております、と申します。延王の命により、感謝の気持ちを伝えるべく馳せ参じました」

喉頭を床につけたまま、宗王の言葉を待つ。

「よくお出で下さった。奏国一同、楽しみにしておった。どうぞ面を上げてください」

「はい」

は切れのいい返事をして、宗王を見た。

宗王は五十ほどの、恰幅のよい大きな男だった。

(このお方が、奏国に六百年の大王朝を築き上げた、要の人物…)

鷹揚で明晰な人物だと伺ってはいたが、なるほど、納得するだけの雰囲気を持ち合わせている。

宗王の横には、王后がゆったりと座り、しっかりと王を支えているのが伺える。

あまりまじまじ見ては失礼に当たるので、よくは見ていなかったが、王后の横には恐らく文姫と宗麟が座り、王の横には、二人の太子が座っていた。

は二胡を手に取り、他の楽士に合図をする。

宴に相応しい、明るい物を演奏する。

演奏が始まると、あちらこちらから、感嘆の息がもれ聞こえてきた。

二胡の美しい音色と、緑笛の奏でる旋律が絡み合い、それを支えるように、小さな鐘の打楽器が鳴っていた。

演者はその三人だけではなかったが、観客の殆どは、中心にすえられたその三人を見ていた。

いや、その3人の真ん中で演奏する、に殆どの者は捕われていた。

やがて一曲目が終わり、二曲目、三曲目と進んでいく。

八曲目が終わった時、演奏していた者たちは楽器を置き、礼をとって下がった。

割れるような拍手が巻き起こり、高揚した演者達は、興奮した奏の官吏達によって、宴の席に迎えいれられる。

しかし、中心にはが唯一人残っていた。

は閉じていた瞳を開け、再び宗王に向かって言った。

「ここからは、私の独奏となります」

そして、初めて両側に目を向ける。

左手には金の髪の美女が座り、その横に先程道案内をしてくれた文姫が座っていた。

次に右手に目をやる

宗王の右に横に座る、二人の太子に目を向けた。

一人は利発そうな三十前の男で、恐らく英清君だろう、とは思った。

そして、もう一人に目を向けたの時が、一瞬止まった。

そこには、昨日知り合った男が居た。

利広はの目を、真っ直ぐに見つめ、花鈿に視線を動かした。

動揺したは、演奏のため目を閉じて、心を落ち着けようと必死だった。

(利広が…奏国太子、卓朗君?では、私は太子に街案内をさせていたの?)

仙であって欲しいとは願ったが、これではあまりに身分が違いすぎる。

は驚愕している気持ちを、楽器を手に取る事で忘れようとした。

(何も考えてはいけない…演奏に集中しなければ)

深く息を吸い、弓を引く。

甘く切なく浸透する音色に、雑念は消え、は本来の集中力を取り戻した。

溜め息があちこちでもれ聞こえてきた。

他の楽士が周りから消え、の美しさは一層際立って見えた。

首を少し傾け、瞳を閉じて演奏している。

赤と桃色で纏められた単衫の姿に、赤い紅、それに答えるかのように揺れる、赤い花鈿。

目の上もうっすらと赤い線が引かれ、妖艶にも華麗にも見えた。

の奏でる音と、作り出す世界は、懐かしいものや、大切なものを彷彿とさせる不思議な力を持っていた。

やがて独奏が終わり、これ以上大きくならないと思っていた拍手が、さらに大きく鳴り響き、いつまでも止まなかった。

「すばらしい。本当にすばらしい。雁にこれほどまでの楽士がおられようとは。延王はさぞご自慢であろう」

宗王の掛け値なしの褒め言葉に、は再び喉頭して、その場を辞した。

演奏が終わって、宴に参加するものと思っていたは、奏の官吏の期待を裏切り、そのまま宮を退出した。

それを追って、利広も席を立っていた。

雁の楽士一行は、今日は外殿の殿堂に逗留する事になっていた。

利広は殿堂の方角に向かって歩き始めていた。

しかしは雅弓閣を出たすぐの所に佇んでいる。

荘園の一角、雲海の広がる露台に立って、海を眺めていた。

楽器を手に握ったまま、立ちすくんでいるに、利広は近付き、声をかけようとした。

すると、の体は独りでに揺れ、雲海に落ちようと傾き始めていた。

利広は急いでに走りより、間一髪でその体を受け止める。

「危なかった…。駄目だよ、気をつけな…

ぴくりとも動かないその体を、利広は驚いて揺すってみた。

!」

口許に耳を当てると、息は正常にしているようだった。

利広は胸をなでおろし、を抱えて後宮へと向かう。



続く






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参照して下さい。

枢杯=すうはい

※もちろん、オリジナルキャラクターです。

再会しました。演奏後、倒れた彼女を運ぶ太子。

うわあああああああ〜!

え?想像しすぎ?

はい、ごめんなさい。

美耶子