ドリーム小説




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「ん…。ここは…?」

目覚めたが横たわっていたのは、柔らかい布の上だった。

「目が覚めたね。雲海に飛び込もうとするから、驚いたよ」

聞き覚えのある、優しい声。

「り、利広!はっ、いえ、卓朗君…」

の口を利広の人差し指が抑え、目の前には片目を閉じた利広がいた。

「利広のままでいいよ。それよりも、雲海に飛び込もうとした理由を教えてくれるかな?」

「飛び込む?あ、私…そうか…はぁ…」

「一人で納得してちゃ、判らないよ」

「演奏の後は、いつもこうなるのです。なんと申しましょうか、精神的な所なのですが…」

利広はを制し、

「敬語もいらない」

と言った。

「ですが…判ったわ。演奏中はとても気持ちが高ぶっているの。集中すれば、集中するほど、心がどこかにいっちゃって…。頭に血が昇るのかしら、夢中で演奏した時ほど、倒れ易くなるの。でも、あの場で私が倒れたら、ちょっとした騒ぎになるでしょう?一緒に来た楽士達もすでに宴に参加して、楽しそうにしていたし。私が倒れたらそれどころではなくなるでしょう?」

そう言って微笑んだ顔は、病み上がりの弱々しい微笑みに似ていた。

少し体を冷やすつもりで、雲海に近付いたのだと言うに、利広は溜め息を漏らし、少し怒った顔を作って言った。

「だからと言って、あんなに雲海に近付いちゃ駄目だよ。倒れそうなら余計にだ」

「ごめんなさい」

素直に反省した子供のように謝ったを、利広は愛し気に見つめる。

「あの、利広?助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。たいした事じゃないよ。体が勝手に動いたんだ」

「くす、そうなの?利広はああやって助ける事が多いのね?」

「いや…あんな倒れ方する人はいないからね。そんな機会はなかったな」

それもそうだ、とは笑い、利広もつられて笑った。

「再会、意外と早かったわね」

はそう言うと利広は頷き、の横に座った。

は各国を廻っていくの?奏は何番目?」

「奏は一番目よ。これから私が向かうのは、才州国と恭州国。戴麒捜索の折、崑崙を担当してくれた国に、お礼の音楽を届けるの」

「才と恭か…」

何か企んでいそうな利広の顔を、は不思議そうに眺めていた。

は奏を発った後、みんなと一緒に行くのかい?」

「いいえ。私は一人、赤虎でいくつもり。他国へ出向くのはこれが初めてだから、色々見て廻りたいの。奏にはみんなより遅れてきたけど、他の国には先に着いて、見て廻るつもり」

「そうか…じゃあ、一緒に行かないか?」

「!一緒に?」

「いやかい?」

嫌かと聞かれると、嫌ではない自分に気がつく。

むしろ嬉しい事だった。

しかし一国の太子を引きずりまわす訳にもいかない。

どう答えていいのか判らず、は黙っていた。

「私はね」

利広は黙ったままのに語りかける。

を初めて見た時に、なんて綺麗な人なんだろうと思ったんだよ。だから、街を案内してあげたかったし、もっと話がしたかったんだ。それでも、いきなり初対面の人間に話しかけられたら、やっぱり警戒するだろう?だから、1日でいい思い出にしようと思っていた。雁から来たのだと言ったと、再会することは難しいと思ったからね」

は利広の言葉を、黙ったまま聞いていた。

「でも最後に夕暮れの丘で二胡を弾いてくれただろう?その時のは本当に美しくて、この世の者とは思えないほどだった。その姿が、夕日にさらわれそうで、何度も抱きしめそうになったんだよ。そしてその時思ったんだ。もし、再会することがあれば、その時は二度と離れないでおこうってね」

信じられないような熱い言葉を受け、は体が震えるのを感じた。

歓喜に打ち震えるなど、今まで一度も経験した事がなかった。

「わ、私は…利広が言うようなすごい人間じゃない…綺麗でもないし、海客だし…太子である利広が私を気に留めるなんて、おかし…」

言い終わらない内に、の体は利広にさらわれ、その腕の中に閉じ込められていた。

見た目に思うよりも、ずっとしっかりした胸板を背中に感じ、の心臓が激しく鳴り出す。

は綺麗だよ。とても美しい。それに海客なんて関係ない。雁から来た、立派な官吏だろう?私はもっとを知りたい。それに対しての答えを聞いたつもりだったのだけど?」

「…それは、私の専売特許よ。私も…もう少し利広の事が知りたい。許されるなら、もう少し一緒にいたい」

その言葉を待っていたように、を包んでいた利広の腕は緩くなり、と向き合うように体を移動させた。

…」

利広の指がの顎をさらい、ゆっくりと綺麗な顔が近付いてくる。

は瞳を閉じた。

花鈿が頬に触れたのを合図に、利広の唇が重なる。

溶けるような口付けに、は再び気が遠くなるような気がした。

長い間、お互いの存在を確かめ合う様に口付ける2人。

奏の肌寒い夜は、2人の熱気を包みこんだ。








「それじゃあ冠禅、次は揖寧よ。私は先に行ってるからね」

、1人なんだから、くれぐれも気をつけて」

「うん。でも大丈夫よ」

そう言って赤虎にまたがり、空に向かって駆けだすを、冠禅は見送り、自分もまた楽士と供に旅立った。

は利広と出会った丘に来ていた。

「冠禅に言わなくてもいいのかい?」

後ろからかけられる声に、は振り返り、そこに利広の姿を見つけた。

「奏の太子が同行してくれるから、大丈夫ですって言うの?冠禅に言ったら固まっちゃうわよ。それに主上のお耳に入ったら大変だわ…」

あの人の事だ、監禁されている現状から、逃げる口実が欲しいはず。

そんな面白い話を、見逃すはずがない。

「あぁ、延王に言うのはちょっとまずいかな。やきもち焼いて、を雁に連れ戻しに来そうだし、雁に帰るまで黙っていた方がいいかな」

帰るまで、と言う利広の言葉に少し疑問を抱きながら、は利広を見上げた。

「そんな事より、奏を離れて大丈夫なの?」

「放蕩息子だからね、みんな呆れて何も言わないよ。それに、久し振りに珠晶にも会いたいしね」

「珠晶?」

何かに思い当たったは、巻物を取り出し確認した。

「恭州国 供王 珠晶…。はぁ、さすがは太子…。お知り合いなのね。それなら連檣の街も利広に案内してもらえそうね」

「珠晶と知り合ったのは、と知り合ったのと変わりないよ。とても偶然だった。私はいい出会いに恵まれているようだね」

そう言って微笑む利広に、はしばし見とれていた。

「出会いは偶然でも、それを誼に変えて行くのは、一種の運命だと思うんだ。だから、と出会ったのは運命だったんだ」

ぼんやりと自分を眺めるを、利広はそっと引き寄せ、軽く口付けをした。

頬を赤く染めたの頭をそっと撫でて、小さく囁く。

「私は運命の人と出会うのに、六百年も待ったんだ。もしが嫌だと言っても、どこまでもついて行くからね」

そう言ってを抱きしめる。

軟らかな風が二人を包み込み、次なる国を目指す二等の獣が宙をかけていった。



続く






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本来はここで一度終了していたのですが、続編をすぐに書いたので、次からは続編になりますね。

と言っても、順当に旅を続けていきます。

その内雁にも帰ります。

奏での仕返しをしなきゃいけないですもんね。

美耶子