ドリーム小説
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才州国の節州は揖寧にある長閑宮に、雁の楽士一同は到着していた。
ここでは、松下園と言う園林での演奏だった。
やはり官吏が多く見ていたが、を筆頭とする楽士達は、二国目というのも手伝って、固まるほどの緊張はせずにすんだ。
采王 黄姑の持つ、優しい雰囲気もあったのだろう。
合奏を終え、独奏に入った。
その時、は何かの感情を見つけた。
悲しみに近いと思ったが、それよりはもっと複雑な感情。
その感情は玉座に近い所から感ずる。
では、それが少しでも和らぐようにと、そう思いながら奏でる。
眉間に力が入り、力強く響く音色に思いを託す。
それに答えるような感覚を覚え、は知らず笑顔になる。
悲しみを乗り越えて、強く生きる意思を感じ取り、国の安寧と繁栄を願う思いが流れ込んできて、逆には力を与えられたような気になった。
独奏が終わり、割れるような拍手の後、少し眩暈を覚えながら慌ててその場を退出した。
そして、なんとか倒れずにそのまま揖寧に降りた。
揖寧では利広が待っている。
冠禅達は清漢宮で利広の顔を見知っている。利広はばれても構わないと言うが、は悪戯に混乱させるだけだと思い、利広には揖寧の舎館で、待ってもらっていたのだった。
利広は国府の入口まで迎えに来ており、の顔を見つけると駆け寄ってきた。
倒れなかった事を確認し、安堵の息を漏らす。
しかし、覚束ない足取りに利広は眉を寄せ、を半ば抱くようにしながら街に向かった。
二人は舎館に引き上げ、は到着するやいなや、早々に寝てしまった。
倒れるように、寝てしまったのだった。
利広は寝入ったの前髪をそっと上げ、額に口付けを落とす。
髪を弄びながら、愛しい寝顔にしばし魅入る。
ふと街の喧騒が途絶え、利広は外を眺める為に起き上がった。
「あぁ、もう夜中なんだな」
に見とれて時間のたつのも忘れていたとは、我ながら重症だなと思うが、こればかりはどうしようもない。
後ろで小さな寝息を立てていたは、ふとその息を止め、白い腕が宙をかく。
利広は気付かずに外を見たままだったが、ふいに呼ばれる声に振り向いた。
「り…こう?利広!」
がばっと起き上がったは、驚愕したような表情で前を見ていた。
その様子に驚いて、の傍に寄る利広。
は利広の姿を確認し、安心したような息を吐いた。
そして利広の首に両腕を絡ませ、その胸に頭を預る。
「どうしたんだい?怖い夢でも見た?」
こくんと頷くの頭をそっと撫でて、利広はその手を背中に添える。
「利広が…いなくなったのかと思って…」
「私はここに居るよ。ずっとの傍に居る。黙って消えたりはしないよ」
「うん…ありがとう」
そう言って、安心したのかは再び眠りに落ちた。
利広は自らの胸で眠るを、そっと横たわらせ、手を優しく握り締める。 翌日、次なる国に向かうは、赤虎に跨り再び空にいた。
「采王様は、とても柔和な方ね。でも、とても思慮の深い方だわ。雁が表立っているのに、裏に慶が居る事を、きっとご存知ね」
は隣でスウグに跨る利広に、長閑宮での報告をしていた。
昨日は殆ど何も喋らず、眠っていたからだ。
「今回は倒れなかったかな?」
演奏後、宮を辞して利広と落ち合うまでを、は説明した。
「ええ、大丈夫よ。くすっ、利広は意外と心配性なのね?」
ほうっと深い溜め息をついた利広は、の体を抱きしめたい衝動に駆られた。
空の上でなければ、と思う。
「私以外が抱きとめるなんて、耐えられそうにないと思っていたんだ。冠禅と言ったか、あの男は常にの傍にいたんだろう?たとえ彼にでも触れられたくない、と思うのは私の我侭なんだけどね」
は顔を赤らめながら、今、自分の置かれている幸せを噛み締めた。
「、その倒れることについてなんだけど、聞いていいかい?」
「どうぞ?」
「奏で倒れるほど緊張したのは、やはり私のせいかい?」
そう聞いた利広の表情は変わらず微笑んでいるが、瞳の奥で不安気な炎がちろちろと見え隠れしていた。
その問いには首を横に振ってから、縦に振り直した。
「それは…どっちなのかな?」
「両方…でもね、利広のせいじゃなく…ううん、やっぱり利広のせいかな?」
そういわれた利広は、笑みのまま固まったかのように思われた。
しかし、はその様子に気がつかず、ひたすら前を見つめていた。
二日間で恭州国の緯州は連檣に到着したが、その間利広から言葉が発せられることは無く、も不思議に思いながら、同じように黙っていた。
連檣は驚いたことに厩のある舎館が多く、その殆どが安心して任せられるとの事だった。
その日は早々に休むことになり、利広とは隣り合わして、安らかな眠りについた。
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