ドリーム小説




Welcome to Adobe GoLive 5



=7=






それから数日が経過し、冠禅達と合流したは、利広と舎館を別った。

同じ舎館と言っても、1つの衾褥で寝ていたわけではないが、やはり離れ離れになるのは、少し気が引ける。


到着の挨拶に、宮へと出向いた楽士の枢盃は、

「供王におかれましては、予定通り明日、お越し頂くようにとのお言葉です。官達の労いもかねて、出来るだけ大勢に演奏を披露して頂きたいとの事で、その件に関しましては、了承の意を伝えてございます」

跪礼をとって、そうに報告した。

「ありがとう。それでは楽器の調子に充分注意して、明日に望みましょう。気候が頻繁に変わっているから、一度念入りに見ておいたほうがいいわ。調子が悪いようなら、冠禅に見てもらいなさい。それから、今日はゆっくり旅の疲れを取って、明日に備えてね」


はそう言って枢盃に微笑みかけ、自分の部屋へと入っていった。

微笑まれた枢盃は、顔を赤らめてしばし、ぼんやりとの部屋の方を眺めていたが、やがて我を取り戻し、慌ててその場を離れた。








その日の午後、と別れた利広は霜楓宮に来ていた。

「あら、利広。久し振りね」

「やあ、珠晶」

珠晶に続いて、供麒も挨拶をする。

「利広様、お久し振りでございます。お変わりありませんか?」

「うん。供麒も珠晶も、元気そうだね」

「まあまあ元気よ。いい時に来たわね。明日は雁からの楽士がお見えに…」

珠晶は何かに気付いたように目を開き、次の瞬間には目を細めていた。

「お見えになると…わかってて来たのかしら?」

「おや、心外だなぁ。珠晶の元気そうな顔を見に来たんじゃないか。最近変わりはないかい?」

「大きくはないわね。供麒は相変わらずだし、私もこの通りよ。ところで、雁からの楽士はどんな人なの?演奏は?」

珠晶のなにもかも見抜いているような瞳に、利広は笑ったまま答えた。

「珠晶に隠し事は出来ないな。とても綺麗なお人だよ。それにとても素晴しい演奏をして下さる。宗王もいたくお気に召されたご様子だったよ」
「ひょっとして利広、あなた…いいわ。なんでもない。で、もう一度見たいがために、ここまでやって来たのかしら?」

「いや、ちょっと心配でね」

「心配?」

「彼女自身の問題なんだけどね。そこで珠晶に個人的なお願いがあって来たんだ」

「お願い?」

「そう、お願い」







次の日、は仕度を整え、冠禅達と供に霜楓宮の正門へと向かっていた。

正門の門卒に身を明かし、大行人に連れられて、内殿にて正式な挨拶をすませた一行は、ここでも外宮にある掌客殿に通された。

「やはりどこの王宮でも大差はないわね。でもさすがに、玄英宮が懐かしくなってきたわ」

冠禅はそれに頷き、後ろをちらりと見て、再びに目を向ける。


「みんな旅の疲れが出てきている。ここは一つ、士気を高めておいた方がいいんじゃないか?」

「士気って…兵卒じゃあるまいし…でも、指揮をとるのは大切ね」


そう言っては楽士一同に向かって、語り始めた。

「ここが最後の演奏の場です。雁の名に恥じぬよう、立派な演奏をする事も大切ですが、他国の方々にひと時の安らぎを感じて頂けるよう、みなさんには尽力してほしいのです。そして、この場を楽しく過ごせることが出来るように、個々の感性を最大限に引き出しましょう」

の言葉に、楽士達の顔に活気が生まれる。

が飛びぬけて素晴しい感性を持っていることは、誰もが了承していたが、それを鼻にかけず、絶えず人の為にと謳うを、楽士達は慕っていた。

そしてが大師を務める事を、楽士達は誇りに思っている。


様、今日も感動して頂けるよう、頑張ります。が、様はあまり無理をなさらないで下さい。仙とは言え、私達の心配もお気に止めてくださいませ」

若い楽士の一人が言ったのを笑んで返し、は言った。

「そうね…気をつけるわ」

自分でも予測不能で、突発的に起こる高揚を、どう制御せよと言うのか。

しかし、それを口に出してしまえば、元も子もない。

は対峙し、聞き手となる人物によって、自分の演奏が変わる事を知っていた。

聞き手の感情が、音に紛れて流れ込んで来るような、そんな錯覚に捕われる時がある。

心の闇を祓うように、音を奏でようとすればするほど、倒れる確立は高くなるのだが、演奏中にそんな所まで気が廻らない、と言うのが現状だった。

いかに柔和そうな人物でも、長い歳月を生きる人々は、心の中になにかがある。

身心に込めて演奏すれば、それらが取り除かれて行くのが判る。

自分の身など、省みている暇はない。

は人知れず苦笑し、楽器の点検を始めた。

それに習うように楽士の全員が点検を始め、調律を始める。

冠禅も楽器に異常がないか、見回していた。

やがてすべての調律が終わった頃、迎えの女官がやってきた。

「どうぞこちらへ」

宮道を歩きながら、は緊張をほぐそうと、深呼吸を繰り返していた。

三国目とはいえ、やはり少しは緊張するものだ。

それには、またしても倒れる予感を抱いていた。

は冠禅に向かって、他の楽士に聞こえないよう、小さな声で言った。

「冠禅、今日はもしかしたら、倒れてしまうかもしれない。もし危ないと思ったら、私の事はいいから、楽器をお願いね」

しかし冠禅は前を見据えたまま歩き、の声は届いていないようだった。

(声が小さすぎたのかしら…それとも、先程言われたばかりなのに、こんな事を言って怒っているのかしら)

返事のない冠禅を気にしながら、達は案内されるまま、演奏をする場に到着する。

庭院に通された雁の国吏一行は、大勢の輪が見守る中、その中心へ、静々と進んでいった。

と楽士たちは、楽器を右に置き、深く喉頭礼をとる。


「此度は雁の呼びかけに応じて頂き、ありがとう存じます。春官の大師を務めております、と申します。延王の命により、感謝の気持ちを伝えるべく、馳せ参じました」

供王の言葉を待つ達は、若い女性の声で面を上げるように言う音を聞いた。

玉座には華麗な幼い少女が座り、その横にはがっしりとした体つきの麒麟がいた。


「では、僭越ながら」

はもう一度喉頭礼をとり、楽器を構える。

深く染み入る音を合図に、演奏が始まる。

音色に聞き入る溜め息がの耳を擽り、次第に演奏に没頭していく。

やがて合奏が終わり、独奏へと変わる。


楽士達は脇へと除け、一人が中心で弓を構える。

は肌に、恭国というものを感じていた。

この国は九十年。主の言葉を借りれば、もうすぐ一山。

どうか、無事に乗り切って頂きたい。

そう思うと、より一層熱が入る。

瞳を開けることも叶わないほど、演奏に淘汰していくのを、誰もが止められないでいた。

自身、どれだけ演奏したのか判らないくらいの時間が経過していたが、その場に居た誰もが固唾を呑んで、演奏を食い入るように見ていた。

すべてを洗い流してくれるようなその音色に、懐かしいもの、大切なものに思いを馳せ、新たな決意が生まれるのを、その場の全員が感じていた。

強く、優しく響く音が魂に触れ、涙を流すものさえ出たほどだ。

人々の心に音が浸透し、抜けるような音と供に演奏を終えたは、礼を取ろうと再び下を見た。

ぐらり、と体が傾き、おかしいと思った時にはすでに、意識の半分が飛んでいる事に気がついた。

(利広に、怒られちゃうかな…)

そんな事を考えながら、は誰かが体を支えた事を感じた。

(冠禅…?)

そして、そのまま意識を失った。



続く






100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!





珠晶ちゃん大好きです。

そしてか〜んぜ〜〜ん!冷たいぞ〜!!

でも、助けてくれたか!?正体は次へGO〜!

ちなみに次回、雁へと帰ります。

美耶子