ドリーム小説




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「桓タイ!」

!?」

明郭では桓タイと再会した。

久し振りに見るその顔を、愛しげに見つめる。

桓タイが居院にしている民居の正房に通され、待つことしばし、駆け足で飛び込んできた桓タイを認めて、思わず名を叫んだのだ。

それは桓タイも同じだった。

二人は固く抱き合った。まるで離れていた間の時間を埋めるように。

「何故、こんな所に…ここは危ない。早く出たほうがいい」

そう言われて、はぎゅっと目を閉じた。

桓タイを頭目に、和州で乱が起きる。

しかし乱を起こした所で、王が気づかなければ意味のない事。しかも逆賊だ。

生きて再会する事は、難しいだろう。

「俺はどうやら、を泣かせてばかりいるな…」

困ったように桓タイは呟く。

そう言われては、自分が泣いている事に気がついた。

「どれぐらい、集まったの?」

桓タイが傭兵を集めている事は知っていた。

しかし、その数の程は判らない。

は泣きながらではあったが、それを聞く。

「一万五千の兵が集まっている」

傭兵と州師を入れて、一万五千。

「桓タイ、約束して欲しいの」

「なんだ?」

「必ず、生きていて。そして、乱を起こすなら、必ず成功させて」

「…難しい事を言う」

「どんなに卑怯者でもいい。私は桓タイに生きていて欲しい。だけど、桓タイは絶対に卑怯者にならないだろうから、難しくても何でも、これだけは約束して貰わなければ、私は浩瀚様の元に帰れない…」

莫迦な事を言っているのは、重々承知していた。

だが、言わずにはおれない心情というのもある。

「判った。必ず生きて、の元へ帰る。もう一度再会できるまで、絶対に死なない。約束、する」

その言葉を受けて、は夢中で桓タイに縋りついた。

力の限り抱きしめて、その存在を刻み付けるように、体に押し付ける。

涙が溢れて止まらなかったが、桓タイはの肩と頭を交互に撫で、落ち着くのを根気強く待った。





「約束、破ったら嫌いになってやるから…」

「それは困るな」

やがて涙の止まったは、桓タイを見上げて言った。

その顔には笑顔が戻っており、桓タイは心の中で安堵の息を漏らす。

「何か困った事はない?足りない物があれば、こちらで出来る限りはすると、浩瀚様から言付かっているの」

「困った事は女気がないぐらいだな。軍の連中ばかりなんで、厳つい女はいるが、目の保養になるような者が…」

そこまで言って、桓タイはすぐさま後悔した。

「どうして、乱を起こすのに、軍の女では、いけないの」

「い、いや、いけないと言うことは、ない…その、なんだ…茶を沸かす事すら、出来ないんでな…」

「そう…それくらい…」

息を吸うために、は一拍置いた。

「自分でしなさい!」

「はい…」

小さくなった桓タイを見て、は唐突に噴出す。

「か、桓タイ、かわいいわよ」

「なんだと」

桓タイは少し怒ったような表情で、笑い転げるを掬い上げた。

小さな悲鳴と供に、の笑いはおさまり、一気に顔が赤くなる。

抱え上げられた体制のまま、間近になった桓タイの顔を見て睨む。

「お、降ろして!」

「嫌だ」

赤い顔のまま睨むには、迫力などあるはずもなく、桓タイの悪戯心を擽るだけだった。

「いいから、降ろして…」

少し気弱になったは、まだ赤面したままだった。

恥ずかしさで瞳が潤む。

、かわいい」

見上げた桓タイの瞳の中に、愛しさが込められているのを見つけて、は抵抗するのを止めた。

そのまま桓タイの顔が近付いてきて、そっと唇が重なる。

「恥ずかしいから…降ろして?」

唇が離れた直後、は懇願するように言い、それに負けた桓タイは素直にを降ろす。

「ああ、そうだ」

何かを思いついたような声に、は振り向いた。

「冬器を集めてはもらえないだろうか」

「冬器を?どれほど必要なの?」

「そうだな、少なくとも百は欲しい。傭兵を集めているんだが、それだけで手がまわらない。身一つで出てきた連中もいるからな」

「判ったわ、集められるだけ、集めてみる」

「頼む」

は軽く頭を下げた桓タイに、任せてと言って和州を後にした。






















瑛州の館第に戻ったは、架戟の娘を呼んだ。

架戟に“つて”のある彼女を筆頭に、冬器を集めるよう指示を出す。

彼女に国府の高官から、使いがあって冬器を所望しているとの書状を書かせ、それを持った者に銀貨を持たせた。

娘の顔が利かない所には、兵士から選んだ十人ほどの集団を向かわせた。

近く妖魔が出たので、退治するために売ってくれと言う作戦をとる。

すくなくとも、それで五は手に入る。

一つの町で、悟られぬ範囲で架戟を巡り、また町を変えて同じ事を繰り返す事によって、相当の数が手に入る。

浩瀚に銀を工面してもらい、それぞれが翌朝には館第を発った。

数日の内に、かなりの量が手に入った。

は冬器の山を満足気に見る。

桓タイに言われて、その時が近付くまで保管していたのだった。
























数日後、久し振りに柴望が戻ってきた。

「柴望様。ご無事でしたか」

は出迎えに外へ出ていた。

しかし、久し振りに見る柴望は、険しい表情をしていた。返事もそこそこに、館第に入っていく。

は不安に身を包まれ、柴望に着いて行く。

「浩瀚様、遠甫が」

浩瀚の姿を認めた瞬間、柴望から発せられた音に、浩瀚が眉根を寄せるのを、は見逃さなかった。

遠甫と言う言葉を、は記憶の中から掘り起こした。

あれは、そう…浩瀚から聞いたのではなかっただろうか。

浩瀚が通っていた、松塾の…そう、老師だ。

松塾は焼き払われたと聞いた。

遠甫は誰かに狙われており、それを何とかするために、どうしたものかと相談された。麦州城に来て頂いて、保護をしてはどうかと言ったのを覚えている。

しかし結局は台輔に頼んで、瑛州のどこかに匿って貰ったと言っていた。その遠甫がどうしたと言うのだろうか。

「今朝、遠甫がおられた瑛州、固継の里家が、何者かによって襲撃されました。年頃の娘が一人殺され、弟の子童は行方不明。遠甫のお姿は何処にも見つからなかった、との事です。私も独自に調べておりますが…」

あ、と声を上げたを、柴望は見て言った。

「何か知っておるのか?」

はこくんと頷き、お待ち下さいと言って退出した。

しばらくして、は二人の女を連れて戻ってきた。

「昨日の報告を、もう一度してもらってもいい?」

女達は頷いて報告をした。浩瀚の指示で、拓峰に向かっていた女達だった。

女達は拓峰に向かった後、追って浩瀚からの指示により、瑛州の固継の様子も伝えるように言われていたようだった。

確か、里家の閭胥が良く出来たかたで、とても人望があついと噂だった。

「不振な者が頻繁に、固継をうろついていたようです。それを見た者の話によると、夜に里家の周りを嗅ぎ回る様に詮索していたと…朝になると馬車で帰っていくそうですが、それが拓峰への馬車だと言っておりました」

「なるほど」

柴望がうなり、浩瀚がぽつりと言った。

「昇紘か…。柴望」

「はっ」

「一人で調べて手遅れになってはいけない。桓タイにも協力を仰げ」

柴望は肯定の返事をして、付け加えた。

「それともう一つ。実は労から冬器を二十、頼まれました。実はこれが少し面白いのです」

「面白い?」

浩瀚とかぶるようにも聞いた。

柴望はにやりと笑って続けた。

「頼まれた冬器は全部で三十。拓峰の人間から受けたそうです。ああ、もちろん、昇紘や呀峰は関係ございません」

「と言うことは…」

が言った続きを、浩瀚が引き継ぐ。

「拓峰でも乱を起こそうとしている者がいる、と言うことだな」

はい、と柴望は微笑んで言った。

「そちらも、支持してやれればいいのだが」

柴望はますます笑顔になり、早速明郭に向かうと言って、館第を後にした。

もすぐに動き、二日後までには必ず届けるように言って、冬器を乗せた荷台を見送った。

「拓峰では、決起が近いのかもしれない…」



続く






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柴望様も大活躍!?

この人、結構楽しい人だと思うのですが…

実際はどうなんでしょう?浩瀚様〜!教えて下さ〜い!!

                                 美耶子