ドリーム小説
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目が覚めると、ベッドのような所に寝ている自分がいた。
「夢?」
がばっと起き上がり、そこが見知らぬ部屋である事を知った。
「大きなベッド…」
体は新しい着物の様な物を着ている。
動きにくいと思い、その原因を探ると、体中に巻きつけられた包帯のような布のせいだった。
着物を捲って足をみてみると、素肌が見えなくなるくらい、びっしりと布が巻きつけられていた。
「本当に、助かったのね」
は今まで信じた事もない神に感謝した。
寝台から降りて、部屋を見回す。
誰も居ないが、ベッド脇の台に衣服が置いてあった。
それ以外には、不思議な色の石がある。
オブジェのようだと思い、石をまじまじと見つめる。
石は荒削りで、宝石の原石のようにも見えた。
半分が青色で半分が桃色なのが、とても不思議な感じがした。
は衣服を手に取り、苦労しながら着た。
着方はもちろんだが、体が思うように動かない。
上着は丈の短い着物のようだった。
下は長いスカートのようで、腰を紐で結ぶようだった。
これで終わりかと思ったら、まだ上に重ねるようで、同じような形で色の違う上下があった。
暑いだろうな、と思いながらしばし逡巡したが、色合いを考えると、どうも先に着たものだけでは、下着のように思えたので、上から重ねてそれを着る。
着替えがおわると、不思議な感覚がした。
昔何かで見た、仙女のような格好だと思ったのだ。
「少し、動きにくい…」
そう苦笑して、は扉に向かった。
足は痛んだが、それを引き摺りながら扉を開けようと手をかける。
しかし、思った以上に握力がなく、思い扉に苦労する羽目になった。
冷や汗をかきながら、なんとか扉を開けるとすぐ目前に壁が見える。
よく見ると廊下のような場所だったので、どちらに向かおうかと考えていると、此方に向かってくる人物が、目に飛び込んできた。
「目が覚めたんだな。動いて大丈夫か?」
桓タイだった。
「あ、あの…。ありがとうございます」
は礼を言ってなかったのを思い出し、慌てて言った。
桓タイは柔らかく笑い、に言った。
「腹減ってないか?」
は自分のお腹に手をあて、少し、と言った。
桓タイは笑ってを部屋に戻す。
椅子を引きを座らせる。
そして桓タイは机を挟む様にして座った。
と同じような格好をした女達が、食事の用意をして運んできた。
用意を終えると、女達は給仕のような者を残して退出した。
あまり馴染みがないような食事を前に、は急激にお腹が減ったのに気がついた。
緊張のあまり、忘れていただけなのだと、その時気がついた。
一体どれ程物を口にしていなかったか。
はありがたく食事を頂く事にしたが、あまり食べるが出来なかった。
粥の様な物を三口程食べて、胃が痛むように感じたのだ。
「あまり無理をしない方がいい」
は申し訳なく思ったが、大人しく従った。
「あの…」
の消え入るような声に、桓タイは優しく視線を投げた。
「私はどれぐらい眠っていたのでしょうか?」
「十日間だな。もう目が覚めないかと思う程だった」
身動きもせずに、ただ懇々と眠り続けていたのだという。
傷の手当てと供に、薬湯、水を飲ませながら、様子を見ていたという。
「ありがとうございました」
は思わず頭を下げて礼を言った。
桓タイに助けてもらわなければ、どうなっていたのかは明らかだった。
頭を下げた瞬間、強い眩暈を感じ、は椅子から落ちるようにして倒れた。
慌てた桓タイに助け起こされ、そのまま寝台に運ばれた。
横たわりながらは謝った。
「いや。それよりも、には辛いことを聞いてもらわなければならない」
そう言って姿勢を正す桓タイを、は緊張して見つめた。
何が始まるのだろうと固唾を呑んで待っていると、桓タイは少し困った顔で話し始めた。
蝕の事や、が流れ着いた世界の事。
そして、が二度と元の世界には戻れない事。 告げられたは、しばし呆然となった。
しかし涙は出なかった。
桓タイはを気遣うような視線を投げたが、はそれに頷き、納得の意を示した。
実際、納得していた訳ではなかったが、他にどうしようもなかったのだ。
それに実感が湧かない。
それよりも、生きていただけでも、良かったのだと思えた。
三度も死を覚悟した事を思えば、生きていることの方が大きく驚いていたのかもしれない。
の頷きを確認し、桓タイは再び説明を始めた。
「十二の国の内、ここは東にある慶国だ。厳密に言うと、慶東国の麦州に位置する。現在王はいない。麒麟は蓬山にいるそうだが、まだ王は見つからない」
王は麒麟が選定するのだと言う。
そこからはこの世界の条理を聞いた。
それはとても興味深い話だった。
不思議な世界だとは思う。
桓タイは州に仕える軍人らしく、それに対しても不思議に思った。
笑顔が優しいからだろうか、とても軍人には見えない。
「俺も一応仙だからな」
だから言葉が通じたのだと言う。
の寝所に誰もいれなかったのは、言葉が通じない者だからと説明された。
が流れ着いたのは慶国の東、虚海沿岸の何処かだろうと言われた。
そこから蠱雕と言う妖魔に、麦州まで運ばれたのだろうと。
一通り説明が終わって、は大きく息を吐いた。
「これから…どうしたらいいんだろう」
日本では、きっと行方不明だと言う事になっているのだろう。
あの高波では、他の友達の安否も気になる所ではあるが、戻れないとあっては気にしても仕方がない。
無事でいてくれると信じる他なかった。
ひょっとしたら、此方に流れ着いているかもしれないと思い、桓タイに聞いてみたが、判らないと言う。
しかし海客が流れ着いたという噂は、ないようだった。
それに、はもっと心配すべき事がある。
言葉も判らないこの世界で、これからどうやって生きていけばいいのだろうか。
「まずは体をいとわないといけないな。それから…州侯にお仕えする、と言うのはどうだろう」
そう提案され、は首を傾げた。
「州侯にお仕えし、仙になれば、言葉が通じる」
そう言われて頷かない訳はなく、は麦州に仕える事を決心した。
次の日から、その為の勉強が始まった。
始めは寝台に横たわったまま、桓タイの話を聞くだけだった。
何日もかけて、桓タイからより細かく説明を受ける。
この世界にとっては常識的な事でも、にとっては奇妙な事がたくさんあった。
慶国は半獣、海客に対して厳しいことや、組織の成り立ちに至るまで、勉強せねばならない事はたくさんあった。
一通り理解していないと、海客だと言うことがばれてしまう。
ばれてしまうと、桓タイを始め、州候にまで迷惑をかける事になると言われ、必死に頑張った。
体力を徐々に取り戻し、傷も随分薄くなった。
体に巻きつけられた布が半分ほどなくなった頃、は卓上のオブジェについて聞いてみた。
「あぁ、それは榴醒石だ。珍しい石で、たまたま見つけた」
桓タイはそう言って笑った。
榴醒石は光を吸い込んで、キラキラと乱反射を続けている。
飾り用に加工された物ではないと桓タイは言うが、はその石をよく眺めていた。
健康になると、ますますは生きるための勉強をした。
これまでにないくらい、勉強をしていると思い、自ら苦笑するほどだった。
勉強のさなか、は桓タイに言われ、麦州侯とも対面した。
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