ドリーム小説
Welcome to Adobe GoLive 5
海客と海客 〜先輩〜 =7= の目前で微笑むのは、宮城を案内してくれた女性とは、また別の人物だった。
この女性はやはり朱衡の妻かなにかだろうか。
宮城でを案内した者は、部下のようだったが、ここは自宅である。
部下がいるはずないと決めてかかり、丁寧に頭を下げた。
宮城へ戻る朱衡を部屋の中で見送り、は女性に向き直った。
「昨日からお世話になっています。といいます。寝室を占領してしまって申し訳ありません。帰りかたが分かったらすぐにでも出ていきますので……」
そう言うと女性は首を横に振って言った。
「謝って頂くには及びません。わたくしは命じられてここにいるのですから」
「え?あの、奥さんとかじゃないんですか?朱衡さんとここに住んでいるんでしょう?」
「とんでもない。大宗伯に呼ばれて先程参ったのです」
は勘違いしていた事が急に恥ずかしくなって、やはり頭を下げて謝った。
「ごめんなさい。勘違いしてしまって。ところでダイソウハクって何の事ですか?」
「それをお教えするように言付かっております」
女性は紙を取りだして筆を持つ。
図のようなものを書いて、それが世界だと教えた。
世界の絵を見せられて、は目を数回しばたく。
見知った世界地図とは到底似つかぬその絵を、何度も見つめ直した。
そしてそれがテーマパークの全貌だと解釈した。
しかし女性は絵の右上を指し、ここが雁州国だと言う。
「え?じゃ、じゃあ海客の王様がいるって所はどこになるんですか?」
「雁のすぐ下、ここです。慶東国」
地図の見方としては、上が北、右が東、下は南で左が西なのだろう。
そこは同じなのだと思いながら質問を重ねる。
「ダイソウハクってのはなんですか?」
「現在の大宗伯は朱衡さまと申されます。国には王がおり、宰輔がおり、官がおります。官を束ねるのは冢宰と言いますが……」
女性は説明しながら文字を書いていく。
王、宰輔、冢宰と。
さらに書きつづりながら説明を続けた。
「冢宰は六官を束ねます。六官とはそれぞれ役割を持っていて、天地春夏秋冬と六つに別れております。天なら天官長、地なら地官長ですね。それぞれ号がございまして、王と宰輔は国氏を持ちます。雁なら国氏は延。ゆえに王は延王で宰輔は延台輔となります。どこの国でも共通の号を持つのが六官です。大宗伯とは春官長のことなのです」
「春官を束ねる長が大宗伯?じゃあ帷湍さんは?」
「現在は太宰の任についておいでです。天官の長でございます。地官の長は大司徒、夏官長は大司馬、秋官長は大司寇で冬官長は大司空です」
その説明を聞いて、やっぱり部長だったのかと納得した。
夏官、秋官と呼ばれる部署の長なのだと考えたのだ。
「わたくしは春官に所属しておりますが、元は少学で教師をしておりました」
少学、老師と書かれた文字を見ながら間違いだと思った。
少学ではなく、小学ではなかろうかと。
「大学とか小学とかあるみたいですけど、それはこの中にあるんですか?」
「国府を下っていくと大学府がありますが、少学や上庠は他にございます。基本的には規模の問題でございますね。国が運営しているのが大学、州が運営しているのは少学と言うことになります」
最小は里であり、そこには小学があると言う。
「最小が里?」
「ああ、申し訳ございません。そちらもご説明申し上げます」
この世界が十二の国で出来ていると説明が始まり、国は九つの州が集まっているのだと聞く。
州には州侯を置き、それらが直接地を治める。
中心は必ず首都で、その州の州侯は宰輔だと言う。
「え?じゃあ、あの六太って子、首都州の州侯なの?」
「左様でございます。宰輔であるのと同時に、靖州侯でもあらせられます」
その靖州侯が万引きかと、呆れ顔の。
朱衡がいかに高位の官であろうとも、あれがさらに上にいるのでは、やってられないかもしれない。
そんな事を考えているの目前で、女官はさらに説明を重ねていた。
その説明のどこをとっても、このテーマパークを理解するに至らないのはどう言ったことか。
会社だと思って聞いていれば、無理がありそうな気がする。
かと言ってそれ以上大きな組織など、には想像することも出来なかったのだ。
それは信じたくない思いと、信じられない思いが、の視野を狭めていたせいだ。
しかし本人は無意識にやっているため、頭を捻るように傾けることしか出来なかった。
女官は終始丁寧に優しく教えてくれ、組織的な構成や世界観は分かったが、最終的に納得することは出来ないと言った、おかしな矛盾の中にいた。
女官が話し疲れた頃、朱衡が官邸へ戻ってきた。
その時点でのは、多大な知識を一気にたたき込まれた状態である。
混乱しそうになりながら、座りすぎて痛くなった腰をさすっていた。
女官は何を説明したのか朱衡に言っている。
それに頷いて答えた朱衡は、に向き直って言った。
「、街へおりましょうか。昨日見た灯りの所へ連れて行きますよ」
の了解を待たずに歩き出した朱衡に、常磐色が慌ててついていった。
緩やかな坂を下っていく朱衡。
いくつかの門を通りすぎると、麓に街が広がり始めていた。
「これが……関弓?」
「はい。もう雲海の下ですよ」
「え?」は空を仰いだ。
西の空がぼんやりと明るく、日暮れなのだとに教える。
しかしその日暮れがどうもおかしい。
の住んでいた所は、西に山があった。
いくつか連なる遠い西の山に、陽は落ちていくのだった。
しかしこの風景はどうだろうか。
山に陽が落ちるなど、不可能だ。
山は天を貫いている。
陽よりも高く聳える山を、は知らなかった。
どこの世界にいけば、こんな山があるのだろうか。
陽は落ちるのではなく、山の陰に隠れるように思えた。
「やだ……」
その景色が、の足を止めた。
このまま下ってゆけば、もっと信じがたいものが待っているような気がしたのだ。
「戻りますか?」
「……」
「どちらでも構いませんよ」
落ち着いた声がかけられ、は朱衡に目を向ける。
「戻りたい……」
なんとかそれだけを言うと、朱衡からも目を逸らして足元を見た。
目に映るものの全てが、今は恐ろしかったのだ。
|