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Trick or Treat!



Trick or Treat!


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二人は広い宮城を歩きながら、南瓜の篝を探す。

一番に見つけた、いびつな橙色の光をした篝は、冢宰府にあった。

「ちょ、冢宰府…なんですか…ここ」

小学で知った知識が、ふいに脳裏に駆けめぐる。

冢宰と言えば、六官の長。

つまりは百官諸侯を纏める。

「お、恐れ多い…」

そう呟いて、隣に目を向ける。

宰輔は冢宰よりも偉いのだと、学んでいるはずなのだが、どうにもそのような気にさせない。

それが唯一の救いか。

だが、ここで気にしていては、宰輔に同行する事など出来ないだろう。

これからここで勤める訳でも無し、今日が無礼であったとて、これから顔を合わすこともあるまい。

自分自身の心に、そのように言い聞かせて、は六太の後を追った。

ジャック・オ・ランタンの入り口を潜ると、の指示通り薄暗い走廊が現れる。

すべての扉は閉められており、人のいる気配がない。

唯一、奥の方に光の漏れているのを見つけ、二人は顔を見合わせて向かった。

扉の前に立ち、は六太に確認するように言う。

「Trick or Treatですよ。一緒に言いましょうね」

そう言って息を吸い込むと、六太も隣で同じようにする。

呼吸を合わせるようにして、は大きな声で言った。

「Trick or Treat!」

広い宮道に響き渡った二人の声は、反響を残して消えていく。

「出てこない場合は、扉に落書きしてもいいのか?」

「!そ、それは…えっと…」

が返答に困っていると、かちゃりと音がして扉が開く。

中からは白髪の老人が小さな袋を手に姿を現し、六太を見て驚いていた。

「た、台輔!このお姿は…」

「へへ」

驚愕の眼差しを向けられた六太は、何やら満足そうに微笑んでいる。

しばし絶句していた老人は、説明を受けていたのか、仮装だと言うことに気がついたようだった。

しかしそれでも不安げに見ている。

「お体に触りありませんか?」

「大丈夫だって。どこも痛くないしさ。それより…え〜っと、、なんだっけ?」

「え?ああ、Trick or Treatです」

「おお!驚いて忘れておりました。ではこれを」

老人は手に持っていた小さな袋を二人に渡し、再びまじまじと観察に戻った。

「なくても良かったんだけどな」

そう言いながら袋を受け取った六太は、それでも嬉しそうにしていた。

そのまま踵を返したのを見て、は慌てて後を追う。

歩きながら、六太は袋を開ける。

も貰った袋を開けると、小さな団子のような茶菓子が二つ入っていた。

それをつまみながら、六太は思い出したかのように言う。

「あ、今のが冢宰な」

「え!?」

茶菓子を手に持ったまま、は絶句していた。

今のが、と言うことは、あの白髪の老人がこの大国を支える冢宰だったのだ。

それが目を丸くする所など、滅多な事では見られないだろう。

そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか冢宰府を抜けていた。

「あ、ありましたよ!」

今度のランタンは、が先に見つけた。

どこの府第なのか分からなかったが、先に冢宰府が終わっていたので、幾分か気が軽い。

「お、あそこじゃねえか?」

六太の指さすほうには、さきほどと同じように光が漏れている。

ここは何処なのだろうと思いながら、は扉の前に立つ。

「Trick or Treat!」

すぐに開かれた扉からは、も知っている男、朱衡が顔を覗かせた。

「来ましたね。まあ見事な扮装ですねえ」

感想を述べながら、朱衡は用意していたお菓子の袋を取り出し、六太の頭上に掲げる。

手を伸ばすが微妙に足りない。

届きそうで届かないそれに、六太の不満げな顔が朱衡に向けられた。

「明日もきちんと御政務をこなされますか?」

「やる!」

そう言った六太の声が、わん!と聞こえたのはだけだろうか。

「ではこれは台輔に差し上げましょう。よく頑張りましたね」

にこりと袋を差し出した朱衡の手から、もぎ取るようにした六太は、嬉しそうにを振り返る。

その顔は何も語らずとも、楽しいと言っているようであった。

はにこりと微笑んで六太に言う。

「では、次に行きましょうか」

朱衡から袋を受け取りながら言うに、六太の頷きが返ってくる。

再び南瓜の篝を求めて進む。

やがて見えてきた灯りに、は辺りを見回した。

どこの府第か分からないままであったが、新たなランタンの存在が、この何処かに待つ人物がいる事を告げていた。

ランタン以外の灯りを求めて、二人の黒い人物は徘徊を続ける。

これまでと同じような、光の漏れている扉を見つけた二人。

目を見合わせて扉の前に立つ。

「Trick or Treat!」

二人で叫ぶと、すぐに扉が開かれる。

褐色で細身の人物がそこには立っていた。

「た…」

今度の人物は、そのまま絶句しているようだった。

「よう、成笙」

まじまじと六太を見つめている。

しかし気を取り直したのか、小瓶に入った七色の砂糖菓子を二人に渡す。

「やった!これ、結構好き」

何か言いたそうにしている、成笙と呼ばれた男を残し、六太はさっさと歩き出す。

成笙に軽く頭をさげて、後に続いて歩き出したの視界に、歩いてくる武人風の男が映る。

前方から来たその男を見て、六太はに視線を送り走り出していた。

「Trick or Treat!」

男は驚いて立ち止まる。

その様子に、にやりと笑った六太。

「あ、あります!」

表情で何かを感じ取ったのか、夏官らしき男は懐を探って菓子を取り出す。

透明な飴のようだった。

「ちゃんと行き届いてんだな」

満足げに言う六太を、男はまだ驚いた表情で眺めていた。

次いでを見て、慌てたように視線を逸らす。

その反応はを満足させる。

それほど痛々しい仮装なのだろうと、一人納得していた。

「台輔、楽しんでいますか?」

再びランタンを探しながら、は六太に問いかける。

「楽しい!は?」

「もちろん、楽しいですよ。仮装も成功しているようですね。みんなとっても驚いて、作戦通りですね」

笑みのまま頷いた六太は、その直後またランタンを見つけた。

「あった、これで最後だな?」

「そうですね。今度は何をもらえるのでしょう?」

ランタンを横切りながら言うの目前に、大きな扉があった。

中からは光だけでなく、暖気までもが溢れている。

「Trick or Treat!」

二人がそう言うと、ぱっと扉が開いて、中からは大勢の女官が現れた。

「お待ちしておりました」

中の一人がそう言い、二人を暖気の中へと誘う。

「さ、台輔、これを」

「台輔、こちらもお持ちになって下さい」

「あら、こちらも受け取って頂きますわ」

もみくちゃにされている六太を見ながら、こっそり蚊帳の外に抜け出していたは、それを笑いながら見ていた。

すると優しく手を引かれて、は房室の端の方へと連れて来られた。

見ると女官の一人が微笑んで立っている。

「計算高く慈悲深い、海客のさま。この三日間、とても助かりました」

女官はにこりと微笑み、包みをに渡す。

「そのようにお伝えせよと、太宰からのお言葉です。こちらは感謝のお菓子ですわ」

「た…太宰から?私、何もしていませんよ?」

「今日のために、台輔が勤勉にご政務をこなされたのです。それまでに終わらぬと、今回のことは無し、と言われておりましたので。よほど楽しみにしてらしたのでしょうね」

ちらりと人だかりに目を向けた女官に習って、も視線を反転させたが、女官の群れが見えるばかり。

そこに宰輔らしき金色は見つけられない。

ようやく六太がそこから出された時には、千鳥足でよたよたであった。

それを見計らっていたかのように、一人の男が現れる。

「おや、台輔。それが例の扮装ですか?」

「帷湍…謀ったな」

「はて?謀ったとは?」

むうっと黙ってしまった六太は、ふいに思い出したように帷湍に言う。

「Trick or Treat!」

勝ち誇ったような顔が一変して、周りに救いを求める表情に変わった。

どうやら何も持ってはいないようだった。

女官達の菓子はすべて六太の手中にある。

「ふふふふふふふふ…」

なにやら不気味な声を発しながら、六太の手が大きく振りかぶる。

「帷湍、覚悟!」

筆が宙に走り、帷湍と呼ばれた男の顔に、黒い筋が出来上がる。

「…」

無言のまま戦慄く肩を、からからと笑いながら、六太は踵を返す。

もちろんその場に残る勇気のないもまた、踵を返してその場を離れた。



続く






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初めはもっと短くするつもりでした。

長くても、前後編ぐらいの軽い感覚だったんですね。

気がつけば…全六章。

これもいつもの私のパターンです☆

                       美耶子